3-6
「緊張する」
「どうかな。ストリートはなれてるけど」
「その時になってみないとね」
「大丈夫ですよ。昨日も歩道橋で歌ってたらしいよね」
「なんか納得いかなくて。それで急に思い立って」
ユキがセッティングしたレストラン。ユキとカスミに向かい合うようにマスターが席についている。こんなふうに人と食事するのはいつ以来だろうとマスターは考えていた。
「すいませんね、お待たせしちゃって」
ユキがマスターに言う。
「こんなこと久しぶりなので、自分のほうが緊張しています」
「誰も誘ってくれなかったんですか」
「ええ、まあ」マスターが照れくさそうな表情をする。
「さっき電話したら、もうこっちに向かっているって」
「カスミちゃんの友だちなんですか」
「友だちっていうより、お姉さんみたいな人です。あたしがおじいちゃんのところから学校に通ってるころお世話になったんです」
「コンビニやっているのよね」
「そうなんです。今日は子どもたちも連れて来てくれることになってて。シングルマザーなんですけど」
ユキはじっとマスターの目を見ていた。マスターの表情は変わらない。その時ユキの後ろからにぎやかな声が聞こえた。
「五郎ちゃん」
カスミたちの後ろで立ち止まったエミがそう言ったとき、マスターは少しうつむきかげんのまま黙っていた。
「何でここにいるの」
「マスター。エミさんとはお知り合いなんですか」ユキがマスターに言う。
「パパだ」
エミの後ろからサキが顔を出す。そして向こう側の席に行くと、マスターのとなりにちょこんとすわる。ケンタはエミにしがみついたままマスターを見ていた。
「サキ」
マスターはサキを抱き上げて膝の上にのせた。サキがうれしそうに笑っている。
「パパ泣かないで、サキ大きくなったよ」
「重くなった」マスターが言う。
「ケンタも向こうにすわりなよ」
カスミがそう言っても、ケンタは動こうとしない。
「エミさんもそちらにかけてください」
ユキに言われてエミはケンタを引きずるように歩きはじめる。ケンタの目にも涙が見えた。サキの明るい声が店の中に響いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます