2-10

 これからお店に出るということらしいけど、サブおじさんの民宿で会った時の千草とはだいぶ違っているように思えてヒロは少し戸惑っていた。

「お久しぶりです。寛太郎といいます」

「カスミの姉の千草です」

 千草にもヒロのことがあの時の印象とは少し違って見えた。もしかするとヒロに関する情報が色々と入っていたからかもしれないと千草は思った。

 カスミはかしこまった雰囲気を少しでも和らげようと言葉をさがしている。

「カオルさんとはお知り合いなんですか」千草の言葉にヒロは少し驚いた。

「カオルって」

「多分、あなたの知っているカオルさんです。少しのあいだだけど同じ店で働いていたの」

「本当ですか」

「タカシ君があたしを別の人と思い込んで、それを確かめたかったみたい」

「それじゃ、タカシがストーカーしてたって」

「あたしです」千草が小さく首をたてに振る。

「でも、あいつが追いかけていたのは千草さんじゃなくて」

「ユキさんって言ってた」

「それ、あたしの源氏名なの」

 ヒロがカスミのほうを見ると、目を丸くして千草のほうを見ている。

「でも安心したわ。カオルさんやタカシ君のお友だちなら。こんな妹ですけれど、よろしくお願いします」

「こちらこそ」そう言いながらも、ヒロはまだぼんやりしている。

「あたしとカスミがおじいちゃんのところに行っていたとき、あの二人も近くに来ていたみたい」

 ヒロはエミさんが変なカップルが訪ねてきたと言っていたことを思いだした。あいつらだったのか。

 それにしても洒落たレストランだ。ワインを飲みながらヒロは思った。

「やっと落ちついた感じだね」

「どうにかね」

「ワイン飲み過ぎないでね」

「大丈夫」

 食事のあと、二人は千草と別れて、千草が用意してくれた高級ホテルに向かった。


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