1-10

「エミさん、ケンタとサキのお父さんてどんな人なんですか」

「どうしたの急に」

「夜一人でいたときに、駐車場に止まったままで誰も降りてこない車があって」

「その話前にも聞いたよね」

「よくあることじゃない。車の中で休んだり、仮眠したり」

「そうなんですけどね」

「その人はずっと降りてこなくて、店の中の様子をうかがっているような感じだったんです」

「もしかしたらエミさんの知り合いじゃないかと思って」

「ちがうと思うよ。ヒロ君も何をしていたのか、ちゃんと見たわけじゃないんでしょう」

「まあそうですけど」

「それでその車そのまま行っちゃったの」

「様子がおかしかったんでゴミ箱チェックするふりをして、そのあと外でタバコを吸っていたんです」

「そしたら男の人が一人降りてきて、火を貸してくれって」

「一人だった」

「多分」

「それで」

「缶コーヒーを買って出て行きました」

「やっぱり仮眠してたんじゃないの」

「そうですかね」

「休みもらったときにカスミと入った店のマスターに似ていたんですけどね」

 エミは無言のまま事務室の中に入っていく。

「ヒロ君そんなことはいいから、今のうちに品出ししちゃって」

 事務室の中からエミの声が聞こえた。

「ねえタカシ、ヒロさんこっちに来てたでしょう」

 カオルはパソコンに向かいながら、パソコンをのぞきに来たタカシに言う。

「そう言えばあいつまだ、あそこにいるのかな」

「ユキさんに呼び出されたの」

「何で」

「妹さんのことで。妹さん同棲をはじめたらしいんだけど、その相手の男の人を知らないかって」

「妹さんその相手の人のことヒロ君って呼んでるみたいなの」

「それでカオルは何て答えたの」

「知らないって言っておいたけど、タカシは知ってるような気がしたって言ってた」

「そんなことないよ」

「ならいいけど」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る