もしかして勇者のファッションってクソダサい?
ちびまるフォイ
身の丈にあったファッション
「あのさ、ずっと言おうと思ってたんだけど……」
それはなんでもないある日の昼下がり。
ギルドの仲間のひとりが打ち明けた。
「……自分がダサいって自覚ある?」
「えっ?」
「なんでポケットから金属のチェーン出してるの?」
「バッ……! これは、その、ポケットに入ってる薬草が戦いのさなかにポロッと落ちないようにだな……」
「その黒いマントもダサいんだけど、なんで自分でドクロのマーク書いちゃったわけ?
死にたいの? ドクロになって死にたいの?」
「ちっ、ちげーよ! これは……あれだよ! 相手を威嚇する意味でだな……」
「理由はなんでもいいんだけどさ、とにかく服装もうちょっとなんとかしてくれる?
同じ仲間としてクエスト受けて同行するのもかなりキツいんだよね……」
「それが仲間にかける言葉か!?」
「仲間だと思ってるから言ってるのよ!」
仲間たちからの猛烈な直談判にあい、勇者はあらためて自分の服装を見直すことにした。
仕立て屋に入り姿見で自分を確かめる。
「悪く……ないよなぁ?」
黒いマントは常闇を感じさせてとってもクール。
全身黒ずくめのファッションでギラつく腰のチェーンは怪しさと色気を醸し出す。
先の尖った靴はいざというときに蹴りでダメージを与えてくれそうだ。
「なにがいけないんだろう……」
指摘された服装の部分は改善してみようと思ったが、
マントやチェーンを外してみるとどうにも弱そうだ。
「これじゃ村人Aじゃないか」
どう見てもあっさりしすぎたファッションに違和感しか感じない。
「お客様、なにかお探しですか?」
「おしゃれな服を探してるんです」
「でしたらこちらなんていかがでしょうか」
「おお! これはいい!」
「これなんかは?」
「ますますいい!」
「もっとつけてみましょう!」
「最高だ!!」
数日後、仲間たちとの待ち合わせ場所に現れた勇者を見た仲間たちは絶句した。
「ちょっ……なんでもっとひどくなってるのよ!?」
「ひどい? ハハハ、言われてるぞ」
「あんたよ! あんたがぶち抜けてクソダサいのよ!!」
女性陣からの容赦ない指差し攻撃が行われた。
これには言い逃れようもない。
「なんでストール巻いちゃったの!?」
「これつけると防御力あがるんだよ」
「その銀色の指輪なに!?」
「魔力があがるって話だ」
「なんで勇者が腰パンしてるのよ!?」
「あえて敏捷を下げることでの余裕アピールさ」
「全身チャックだらけになってるのはなんか攻撃されたの!?」
「ポケットいっぱいあるほうがいいだろう!?」
「もう限界! ぜっったい一緒に行動しないから!!」
「ちょっと混てよ! 大事なのは見た目じゃなくて、中身!
多少かっこ悪くても性能がよければ問題ないだろう!?」
「多少じゃないから問題なのよ!!」
キメキメで最高のファッションで挑んだはずが、ますます避けられてしまった。
勇者はますますおしゃれという迷宮に迷い込んでしまった。
「なにがおしゃれなんだ……どういう基準があるんだ……」
こんなにもおしゃれグッズに身を固めたはずが、道着しか着ていない武闘家よりダサいなんて信じられない。
単に個人の好みの問題なんじゃないかとさえ思えてくる。
しかし、女性陣はみな勇者のことをダサいと判定してくる。
「ああわからない! なにがファッションとして正解なんだ!!!」
ファッション誌メンズ勇者を開いた。
自分と変わらないような服装をしている男たちを見たとき、ついに気がついた。
「そ、そうか! そういうことだったのか……!!」
数日後、勇者が仲間たちの前に現れると反応は大きく変わった。
「すごい似合ってるね」
「かっこいいじゃん!」
「着こなせてるよ!」
好意的な仲間たちからの評価に勇者は感動した。
ポケットから下がるチェーン。先の尖った靴。謎のダメージマント。
銀色のドクロ指輪。チャックだらけの上着。ダボついたズボン。
自分のセンスはやはり間違っていなかったのだと勇者は確信した。
安心したとき、変身魔法が解けて高身長イケメンスレンダーなモデル体型が一気に崩れた。
仲間たちの顔が一気に苦虫を煎じて飲んだような顔になった。
「なにそのファッション! クソダセェ!!!」
もしかして勇者のファッションってクソダサい? ちびまるフォイ @firestorage
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