第4話

 職員室にやってくると、放心状態の私の代わりに、湊が担任の先生を呼んだ。

「先生、川瀬さんの上履きのことで相談があります」

 湊が私の上履きを先生に差し出すと、先生の顔が強張る。

「こ、これは......ただ、からかっているだけじゃないか?」

「からかっただけ? こんなの、イジメに決まってるじゃないですか!  言っときますけど、上履きだけじゃないんですよ。教科書だって、カッターで切られてたんですよ?  いつまで知らないふりをするつもりなんですか 」

 湊......。こうして、何度も先生に訴えてくれて、私はいつも助けられてばかり。こんなのダメだ。いつまでも湊に甘えてちゃダメだよね。

「あ、あの......っ」

 湊の一生懸命さに背中を押されて、私は自分から切り出す。

「わ、私は......っ、イジメられてるって思ってます。お願いします、なんとか......、し、してください!」

 ガバッと頭を下げれば、先生は渋々湊の手から上履きを受け取る。

「......わ、わかったよ。この件は職員会議で話し合っておく。またなにかあったら、言いにきてくれ」

「ありがとうございます」

 湊のおかげで、先生が動いてくれた......本当によかった。

「川瀬、今まで気づいてやれなくてすまない」

 それだけ言い残し、先生は職員室に入っていく。 ひとりじゃ、先生に自分の気持ちを伝えるなんてできなかった。湊には、何回感謝してもしきれない。 ほんの少し、胸に清々しさを感じながら、私はスリッパを貸りて湊と教室に行く。 すると、女子の視線が私を刺してくる。教室では湊が隣にいるからか、直接傷つけてくる気はないみた

 いだけど......。 ふとした瞬間に、先ほどの上履きに書かれた文字が脳裏に蘇る。 この中に犯人がいると思うと、やっぱり怖い。 私は縋るように、湊の制服の袖を掴む。

「大丈夫だ」

 湊はそう言うと、その場でクラスメイトたちの顔を見回した。

「みんな、もう咲をイジメるのはやめろよ! こんなことして、なんの意味があんだよ!」

 湊が私の代わりにイジメを止めようとしてくれているのがわかった。湊、いつもありがとう。だけど、庇われてばかりじゃいけないってわかったから──私も勇気を出すね。

「私さえ黙っていれば、他にターゲットが向くことがないから、ずっとなにも言わずに我慢してたけど、 もうやめる。私が傷つくと、傷つく人がいるから。だから言うね、私はもうイジメられるのはたくさん! 私は大切な人のために、ちゃんと自分のことを大切にしようって決めたの。だから、もうイジメをするの はやめてください!」

 そう言って、私は教室を飛び出した。 今はこれが精一杯だけど、それでも言えた。自分の気持ち、ちゃんと伝えられた!  全力で走って、私が向かった先は屋上。重い空気を風が流してくれるような気がして、たまに訪れている場所だ。 青空の下に出て足を止めると、私は肺いっぱいに外の空気を吸い込む。ふと後ろで足音がして振り向くと、湊が立っていた。

「いつもよりもすっきりした顔だな」

 追いかけてきてくれたんだ......。


「うんっ、これも全部、のおかげだよ」

 本当に本当に、私のそばにいてくれてありがとう。 初めは、私みたいな嫌われ者が好きになっていい相手じゃないって、そう自分の心を抑えてた。だけど......どんなに突き放しても、きみは私から離れずにいてくれたんだ。 気持ちを伝えられなくて、友達以上に進めなかったぶん、これからいっぱい一緒に過ごそうね。 暗くて、辛いだけだった私の世界は、きみのおかげで幸せなピンク色に染まっていく。 私の世界は、きみでいっぱい。

 END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る