第12.1話 週末のひととき

 チョコレートミントは気が付くと自室にいた。お酒飲んでたんだっけ、とすぐに思い出す。普通の人なら寝こけているところだが、あいにくミントの体は眠ることはない。それどころか、酔いもすぐに醒めてしまうのだ。眠らないということは、眠りを必要としないということ。常人が眠りによって回復する日常の不調を、彼女はものともしない。体の不調は。

 ミントはソファに横たえていた体を起こした。床に脱ぎ散らかした靴をもう一度履いて、外へ出る。少しふらついていた足もエレベーターの前に来たときには元通り、しっかりした歩みになる。アパートメントを出て夜のNYCCを歩く。深夜だが街灯が煌々と輝き、夜働く人や飲み明かす人が行き交う。巨大な街で、道の端を歩く女のことを誰も気にしない。

 夜も開いている花屋に行って、白いカーネーションを一輪買う。駐輪場に寄り、レンタサイクルを一台借りる。夜風を切って自転車で走り、墓地の前で止まった。

 門を押して中に入る。今夜は明るい夜だ。園内の木々も、月の光に葉をひらめかせ、さやさやと揺れている。ひとつの墓石の前で立ち止まった。

 ルーク・チャットウィン、ここに眠る。

 足をそろえてしゃがみ、花を手向け、一年前の今日を示した墓石の上から枯れ枝をそっと払いのける。祈りを邪魔するものはなにひとつ、ここにはなかった。

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