第22話 警察からの依頼
午前中は《ヴァーチャル・アーク》のネット機能を使って情報収集を行っていたが、昼からは約束通りVR空間には行かずに待機する。
昼食を食べてから約一時間後、携帯端末に一件の通知が届いた。
この家のドアは、人の出入りを管理する必要があるため、ドアが開けば、ドアの動きを感知した《ヴァーチャル・アーク》から携帯端末に通知が届く。
通知が届いてから数秒後、スーツ姿の小春さんと、若くてガタイの良いスーツの男がリビングに入ってきた。
「未来くん、少しお話があるので移動しましょう。こちらは最近配属された
「どうも、新人の夕陽雄斗です。森本未来君、宜しくお願いします」
声音は平坦だったが、瞳には隠し切れない憎悪が宿っていた。
「ははぁ、アンタも《デスゲーム事件》で知り合いが死んで警察になったクチだな?」
「何故分かる?」
緊張感がこれ以上高まる前に、小春さんが仲裁に入って来た。
「やめなさい、雄斗。相手は子どもですよ? 未来くんもあんまり煽っちゃダメ」
「はいはい」
「……うっす」
雄斗はかなり不満そうだったが、どうにか返事をした。
小春さんはそんな雄斗を一瞥してから話題を変えた。
「未来くん、実は、君と雄斗は少し前に会っているんだけど、分かるかな?」
記憶を遡っても、すぐには思い出せなかったので少しずつ推測していく。
「俺と警察関係の人が会っているとなると……まあ、警察学校の生徒と手合わせした時しかないだろうな。ただ、あの仕事も何度かやってきたから、何回目にいた人かは分からん」
「記念すべき一回目の、しかも最初に未来くんと戦った人なんだよ」
小春さんの言葉に対して雄斗も相槌を打っていたので、それが事実なのだろう。
「そういうのは全然気にしてなかったから、すっかり忘れていた」
雄斗は卑屈な笑みを浮かべながら、
「いやはや、噂に違わずお強い方だった。世界大会での戦いも拝見しましたが、圧巻でした」
「そりゃどうも。一応プロだからな。世界大会は相方の方が重要だったけど」
上っ面だけの会話をしながら、取調室に移動する。
殺風景な部屋の簡素な椅子に全員が座ると、俺の方から切り出す。
何度か経験したことがあるのですっかり慣れていた。
「んで、今日はどんな話なんですかね? ここ一ヵ月ぐらいはこういう聞き取り調査なんてなかったのに、突然再開されたから、ちょっと驚いた」
机を挟んで俺の対面に座った小春さんが、家の中では見せないような真剣な表情で、
「未来くんも大方予想出来ているでしょう? 例の期間限定イベント《ゴースト・アリーナ》関連の話よ」
まあ、そこに繋がる話だろうとは思っていた。
《ゴースト・アリーナ》絡みで、ある事を思い出したので二人に尋ねる。
「そうだ。あのイベントだと、相手を名前や顔写真で指名出来るらしいんですけど、お二人は知り合いの人と会えましたか?」
小春さんと雄斗が目を合わせ、先に雄斗が話し始めた。
「俺はまあ、会えました。かなり本物そっくりだと思ったよ。どうして死んだのか、と尋ねたら、プレイヤーに殺されたとしか答えなかった。誰に殺されたのか尋ねたが、その質問に対しての答えは不自然なほど機械的だったよ。個人情報保護のためにお答え出来ない、ってな」
「そうか。裏で情報統制されているみたいだな」
この情報はその辺の動画では知る事が出来なかった情報だから有難い。
雄斗は何かを思い出したように少し笑って一言付け加えた。
「ちなみに、手合わせして貰ったが、全然歯が立たなかった。……アレに勝てるってのは相当なプレイヤーなんだろうな、とは思ったね。ゲームをやり込んではいないけど、訓練のおかげで対人戦にはそれなりに自信があったのになぁ」
言い終えた雄斗が小春さんに視線を送る。
「私は……私の方は姉さんに会えなかった。何故かロックされていて……ネットでも三人だけ指名出来ないって言われていたのだけれど」
驚いてすぐに尋ねてしまう。
「小春さんの探している人って、グレイスかスワローテイルのどっちかなのか?」
「やっぱり《WHO経験者》の未来くんには分かるのね」
ロックされているのはアイギス、グレイス、スワローテイルの三人。
姉さん、と言っているのだから、男のアイギスを除外すれば残る候補は二人しかいない。
もしもグレイスだったら、俺は小春さんの姉を……。
そこまで考えて、頭から振り払った。
「あの三人の出現条件は未だに分かっていないと思うのだが……小春さんたちはどう思う?」
雄斗が首を傾げながら、
「どうって……残りの人を倒し切るしかないんじゃないか? 俺にはそれしか考えられん」
「私は、特定の人を引っ張っていけば他の人を倒し切らなくても出て来ると思う。だって、例の《WHO》からデータを引き継いだ人に対しての特別演出があるのだから」
二人の見解をまとめる。
「雄斗さんの話は一理ある。だが、小春さんの手法は限界があるんだ。アイギスとグレイスはそれぞれ《WHO経験者》によって倒されているから、倒した奴を引っ張ってくれば特別演出によって確定出現するだろう。だが、スワローテイルだけは、その手段が通用しない。あいつは自分の意思で向こうに残ったからだ」
二人ともその辺まで情報収集していたらしく、すんなりと頷いた。
「それはここ数日で私たちの捜査班でも話し合ったわ」
「そして、多くの《WHO経験者》への聞き取り調査によって、アイギスを倒したと言われているプレイヤーも、グレイスを倒したと噂されているプレイヤーも一応特定されている」
そこまで言って言葉を区切った雄斗が俺を睨んでくる。
しかし、小春さんは対照的に視線を下に落とした。
「アイギスの方はヘイズという《ダブルウエポン》で有名なプレイヤーが倒したと言われている。まあ、これは今更調査しなくてもいい公然の事実だ。一方、グレイスを倒した人物とされているのは……ミラ、アンタだ。そうだな?」
視線を落として肩を震わせている小春さんの姿を見ながら、先ほどまでの疑問の答えを知った。
そうか、小春さんの姉はグレイスだったのか。
その認識を持った上で堂々と答える。
「ああ、ご名答。だが……この話は噂レベルでしか話されていなかっただろう?」
「誰に聞いても、正確なことは分からないと言っていたな。世界大会の時にお前が現れたことによってグレイスの死を悟った人もいたらしい。何故この件だけは人によって認識にブレがあるんだ?」
「俺とグレイスは、アイギスに許可を取って一騎討ちを行った。しかし、それはヘイズがアイギスを倒した後――つまり、ゲームクリア後に始まった闘いだったから、その場に居合わせたプレイヤーたちは、一騎討ちが始まった事だけは知っているけど、その結末までは知らなかったのさ」
「なるほど。世界大会にお前が出ることによって、《WHO経験者》の一部に一騎討ちの結果が知らされたというわけか」
俺と雄斗の視線が小春さんの方に向く。
何度か深呼吸を行った小春さんが顔を上げた。
「あなたが冬香(とうか)姉さんを……いえ、まだ客観的な証拠がないので、これ以上はやめておきます」
「証拠がなくても事実は変わらない。まあ、あの試合の結果を知っている《WHO経験者》が俺しかいないのだから、小春さんがそう思うのも仕方ないのかもしれないけどね」
「お前……自分が何をしたのか分かってもそんなことを言うのか!」
立ち上がった雄斗が俺の肩に手を伸ばす。
しかし、
「雄斗、やめなさい。この話は全て録画・録音されて第三者機関がチェックするのだから、あなたのキャリアに傷が付くわ」
小春さんの一言で渋々引き下がっていった。
その様子を見て、次に時計を見る。
そこまで時間は経っていないが、これ以上の情報が出て来るとは思えなかったので、こちらから聞き取り調査の終了を促す。
「さて、話はこれで終わりか? 俺も情報収集に戻りたいのだが……」
二人が遠慮がちにアイコンタクトを交わした後、代表して小春さんがキッパリと言い放った。
「我々《デスゲーム事件》捜査班は、数日間の協議の末、あなたに《ゴースト・アリーナ》への参加を要請することにしました。事件の全容解明の手掛かりを掴むため、アイギス――芦田剛紀と、謎に包まれたプレイヤー──スワローテイルのより詳細な情報を得たいのです」
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