絶対にシナリオ通りにしたい悪役令嬢 VS 絶対にシナリオを書き換えたいヒロイン

宮原 桃那

1.始まりは熱弁とお約束

 悪役令嬢、の定義とは何だろうか。

 ヒロインを蹴落とそうとする事? ヒロインから相手を奪おうとする事? それとももっと酷い事?

 まあ何でもいいけれど、悪「役」なのだから、それらは全て、令嬢の思惑がきちんと存在し、道理に則ってやってきたことである、と私こと雨野あまの 陽花はるかは定義する。

 子供の頃から母親の影響で様々な乙女ゲームに触れてきた私にとって、ライバルキャラは居るけれど、悪役令嬢なんてものは居なかった。

 もちろんライバルなのだから、妨害や横取り、競い合い、最後には互いに理解あるパートナー的存在になったりもする。そういうエンディングは必ずと言っていいほど、乙女ゲームには存在した。

 だが、この近年、その概念は覆されつつあった。


『乙女ゲームの悪役令嬢になったので、死亡フラグ回避します』

『転生したら乙女ゲームの悪役令嬢! 婚約者はヒロインに譲ります!』

『異世界転生した悪役令嬢は攻略キャラに囲まれる』


 ……いや、何でそうなった、現実世界。

 居ないんだって! 普通の乙女ゲームには『悪役令嬢』なんて! せいぜいがやっかみのモブだよ! しかもやってる事がそれと同レベルなんだよ! ヒロインに並び立つとかおこがましいにも程があるわ!

 という私が少数派のようで、世間ではもはや『悪役令嬢もの=乙女ゲームの敵』という認識が浸透しつつあり、しかも悪役令嬢に温情など無いのがほとんどだ。キャラ愛は無いのかよ!

 という愚痴を母親にこぼしたら、母親は苦笑して『時代は変わるものね』と言っていた。

『乙女ゲームっていうのは、いわゆる逆ハーレムだもの。乙女は恋多きものだから、そういう発想に至ったんでしょうね。悪役令嬢は、学校で見ている嫌な女子と同じ扱いなんじゃないかしら』

 そんな裏側だったら不憫過ぎる。普通にヒロインより悪役令嬢を応援したくなる。悪役令嬢の味方みたいな小説や漫画も結構多いけれど、それでもやっぱり長年培ってきた乙女ゲーマーとしての違和感はぬぐえない。

 だって、だって! 乙女ゲームっていうのは、シナリオありきなのよ! キャラがこういう性格だからこういう行動に出て、結果としてこうなる、みたいなちゃんとした一本の糸なわけ!

 それを安易に「死亡フラグ回避したいので、シナリオ改変しちゃいまーす☆」なんて内容を目にした私は、卒倒した。部屋の中で良かった。ベッドの上で良かった。ただし買ったマンガ本は投げた。

 そしてぶち切れて吼えたのだ。


「原作シナリオを変えるなんて、原作への冒涜よっ!!」


 メインシナリオを筆頭に、サブシナリオや会話、ルート設定の選択肢。多くの人間が関わり、血と涙と汗を流して完成させたゲームを改変するとは何事か。

 そんな私の怒りとは裏腹に、ノックが聞こえた。

『陽花? そんな大きな声を出したら、ご近所に迷惑よー』

 お母さん、私の切実な叫びよりご近所の苦情が大事か!

「はーい……」

 渋々と返事だけ返し、私はため息を吐いた。こんな代物が人気を博し、本来あるべき乙女ゲームの姿を捻じ曲げる。許されざる行為だが、いち高校生の私にはどうしようもない。自衛以外の手段も無いのだ。

 だが、悲劇はそこで終わらなかった。

「……嘘、でしょ?」

 SNSで見かけた、お気に入り乙女ゲー会社の新作告知。

 それは文字通り、私を地獄に突き落とした。


『待望の新作! 悪役令嬢の妨害を乗り越え、あなたは真実の愛で世界を救えるか!?』


 ――ああ、ついに。ついに、そうなってしまったか。

 目の前が真っ暗になった私は、それでも残った理性をかき集め、予約ボタンをぽちりと押したのであった。

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