サファギンの包丁は、戻らない
陽だまりに居座る雁芙
1 たまたま
日差しの麗らかな日。
アルドとサイラスとエイミとリィカは、カレク湿原を歩いている。
そよ風が、気持ちいい。アルドは、伸びをして言った。
「うーん、良い日だな。こんな日は、オレも昼寝をしたくなるよ。」
「そうでござるな。小さい頃、拙者も、こんな日は師匠の目を盗んでよく昼寝をしていたものでござる。」
サイラスが、ケロケロと懐かしそうに笑いながら言った。
リィカが、自慢げに耳をぐるぐる回しながら会話に入る。
「昼寝なら、お任せくだサイ! ワタクシ、先日ソイラさんに昼寝の手解きを受け、昼寝マスターの称号を頂いたノデス。」
エイミが、肩をすくめて言った。
「私は、今は昼寝したいとは思わないわ。だけど、ソイラさんがユニガンでスヤスヤと昼寝しているのを見かけるたび、なんだか和む気がするわね。」
「そうでござるな。ソイラ殿は、本当にスヤスヤと気持ちよさそうによくお眠りに……っ、ケケケケケ⁉︎ 」
「あぶないッ! 」
アルドが素早く、サイラス目掛けて前方から飛んできた何かを叩き落とす。
「はー、命拾いしたでござる。アルド、其方はやはり拙者の命の恩人でござるなぁ。」
サイラスが、手拭いで、汗を拭う。
エイミが、かがんで、地面に突き刺さった物体を抜いた。
「これは……、包丁かしら? 」
リィカが目をきららと光らせる。
「ピピピッ。解析、完了。コレは、サファギンの包丁デス。」
「何故、包丁だけ飛んできたんだ? 」
アルドは、腕組みをして、首を傾げる。
と、その時、前方から興奮した様子で一匹のサファギンが走ってきた。
「あのサファギン、包丁を持ってないでござるな。」
サイラスの言葉に、エイミが頷く。
「そうね。この包丁はきっとあのサファギンのものなのでしょう。」
「アイツ、かなり興奮しているな……。よし、少しおとなしくさせよう! 」
アルドの言葉を受けて、皆武器を構える。
リィカがテラパワーハンマーを振り上げて、高らかに宣言した。
「鎮静させていただきマス。」
その瞬間。
前方から一筋の炎が飛んできて、サファギンを跡形もなく燃やし尽くしていた。
「あらまぁ⁉︎ 」
エイミが素っ頓狂な声を上げる。
炎は、ハヤブサのように鋭く美しくサファギンをこの世から消し去ったのであった。
炎の使い手が、アルド達の方を振り向く。
その者は、ミグランス騎士団の鎧兜を纏っている。
「すまない、旅の方。我が騎士団の撃ち漏らしが、あなた方に危害を加えかけたようだ。ミグランス騎士団を代表して謝罪する。無関係な一般民を巻き込み、本当に申し訳なかった。」
騎士は、深々とアルド達にお辞儀する。
アルドは、にこやかに言った。
「気にすることないよ。オレは、この近くのバルオキー村のアルドだ。バルオキーの警備隊の一員として、カレク湿原の見廻りも行っているんだ。これでも、戦闘には慣れている方だからな。」
騎士は、再度深々とお辞儀をして言った。
「そうでありましたか。それは大変失礼しました。つきましては、お詫びと言ってはなんですが、ユニガンの宿屋の『ミツミグランス』の券を差し上げたいと思います。私の気持ちと思って、どうかお受け取りください。」
「『ミツミグランス』って、あの有名な? 」
アルドがびっくりしながら言うと、騎士は、嬉しそうに頷いて言った。
「そうです。黒猫社の出す大人気グルメ雑誌『ノワニャン』にてノワニャン三つ星を獲得し続けているユニガンの宿屋の宿泊にミグランスフルコースがついたセット、『ミツミグランス』ですよ。」
エイミが、腕を組みながら、言う。
「……悪い人には、見えないわ。魅力的なお誘いね。」
サイラスが、ケロケロと上機嫌に笑った。
「良いですな。ちょうど腹いっぱい食べて昼寝をしたかったところです。」
リィカが、上機嫌に耳をブンブンと振り回す。
「スイートルーム! ミグランスフルコース! これを逃さない以外の選択肢は、無しデスノデ! 」
エイミが、頷きながら言う。
「実は私も、ユニガンの宿屋のスイートルームに一度は止まってみたかったのよね。」
アルドは、困ったように言った。
「でも……昼間からオレたちだけご馳走を食べて寝ていたら、フィーネに怒られそうな気がするよ。」
すると、騎士がアルドに言った。
「宜しければ、他の方の分の券も差し上げますよ? ユニガンの宿屋の『ミツミグランス』は、人数の多少に関わらず最高のおもてなしを約束します。」
「良いのか? じゃあ、フィーネや爺ちゃんも誘ってみようかな。」
アルドの独り言に、騎士は頷く。
「是非是非! 私は、一度城に戻ってから、ユニガンの宿屋の前でお待ちしておりますね。」
「騎士さんは、宿屋に随分と詳しいのね? ミグランス騎士団なら、ユニガンで宿屋を使うことはあまりなさそうだけど。」
エイミの言葉に、騎士は懐かしそうに笑っていった。
「ハハハ。確かにそうですね。私は、ユニガン出身で。宿屋を経営する家族と随分親しくしてもらって育ったのです。ですから、こうしていく先々で、会う人ごとにユニガンの宿屋を勧めているわけで。」
アルドが頷きながら言う。
「つまり、恩返しとして宣伝して回ってるんだな。」
騎士の側に控えていた配下と思しき騎士が、口を挟む。
「『ミツミグランス』は、本当に素晴らしいですよ。私も配属時に、隊長に連れていってもらいました。」
「部下思いの隊長さんですな。」
サイラスの合いの手に、部下の騎士は嬉しそうに頷いた。
騎士が、ユニガンの方を見ながら言った。
「さてさて。我々は城に報告に行かねばなりません。では、後ほどお会い致しましょう。」
騎士は、にこやかにユニガンの方向へ歩いて行った。
アルドたちは騎士団を見送る。
アルドは、仲間たちと目を合わせて、頷く。
「じゃあ、まずは、バルオキー村に行って、フィーネと爺ちゃんを誘いに行こう! 」
サイラス、アルド、エイミ、リィカは、上機嫌に微笑んだ。
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