訳あって妖狐の里に行ったら運命の出会いをはたしました
猫はち
プロローグ
「紫苑、では行きましょう」
母が手を差し伸べ紫苑がその手をとろうとすると背後から聞こえるはずのない月天の声が響く。
「紫苑!僕だ、月天だ!君を迎えに来た、一緒にこの里を出て暮らそう」
神社の方を見ると白銀に輝く豊かな毛皮を持つ大きな妖狐がそこにはいた。
「……月天……」
紫苑の口から小さな声で月天の名前がこぼれ出る。
目の前の大きな妖狐はその声が聞こえたようで紫苑と母の方へ顔を向ける。
「紫苑!そこにいるのか?……一人ではないんだろう?大丈夫、君も君のお母さんも一緒にこの里を出よう」
紫苑が思わず月天の方へと走り出そうとすると後ろから母に強く手を引かれる。
「ダメよ紫苑、月天君がここにいるということは白桜や黒丸も私たちが逃げ出したことに気づいているはず……」
涙を浮かべて月天の方を見る紫苑の手を母は強く握ったまま離さない。
「紫苑、つらいでしょうがこのまま向こうの世界へ渡りましょう」
母は紫苑を引き寄せるとすべての視界と音を遮るように紫苑を抱きしめる。
「紫苑!そこにいるのか?」
月天が大鳥居をくぐろうとすると先ほど紫苑が張った札の影響で大きく空間がゆがむ。
「ここにも術がかけられているのか?……紫苑、お願いだ早くしないと白桜も追ってくる」
月天は紫苑のほんの数メートル前にいるにもかかわらず紫苑や紫苑の母の姿を感じることができない。
「母様、お願い……私は月天と一緒に行きたい」
紫苑は強く自分を抱きしめて離さない母の体を押しどうか自分を月天の元へ行かせてほしいと願う。
母が悲し気な表情を浮かべ紫苑を抱きしめるその両手の力を緩めた時、月天の背後から地を這うような怒りに満ちた声が響く。
「……随分と舐めた真似をしてくれる」
そこには鬼化し怒りで瞳が燃え滾るように紅く輝く白桜の姿があった。
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