第2話 情報収集
車庫から大型バイクをひっぱってくる。ハーレーダビッドソンを魔改造して、アストリアの武装を輸送するために本来の規制から外された特殊機体。通称バスターラビットと言われている個人事務所であれば大体のところに配備されている(全員が全員運転出来るわけではないのに、なぜかほぼ全ての事務所にネセトから支給、配備されている)。
「久しぶりにエンジンかけるから軽くメンテするか」
「いえ、先日市内をかるく回って来てますのでそんなことしなくても大丈夫ですよ?」
アイシャはアンドロイドである。当然無免許。免許を持たずに公道にでれば、警察にお世話になる。のか?
「アンドロイドって、免許いるのか?」
ロボットの場合自動運転として扱われるのか、それともネセトの機巧人形として免責されているのかは謎である。
「まあいいか。んじゃ早速行くか」
バスターラビットのシートに跨り、その後ろにアイシャがタンデムする形で公道を走りだす。
目的地は駿河湾にある大型メガフロート。ネセト極東支部が運営する静岡アストリア養成高校に向けて走る。
駿河湾に浮かぶメガフロートに行く手段は大きく分けて二つ。メガフロートと直接繋がっている大橋を渡る陸路と県内各港から出るフェリーに乗るかである。
陸路であれ海路であれ、通行証が無ければ入れない。学校に通う生徒であればアストラルギアが通行証の代わりになる。
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ」
大橋の前にある門の前で一度足止めを喰らう。
詰め所から老人が出てくる。
ここから先へ一般人が入らないように、脱走者が出ないようにするために造られた門である。
「中に入りたい。こいつで頼む」
ヘルメットを外し、懐からスマホを取り出し学園長の承認があることを示す通行証を老人に見せる。
「あいよ。ちょっと待ってな。義務だから控え貰うよ」
詰め所からタブレットを持ってくると、老人は慣れた手つきでタブレットを操作しサーティンのスマホから通行証のデータをコピーする。
「直ぐに開くぞ」
ゴゴゴ。と引きずるような音を周囲に響かせながら、バスターラビットが悠々と通れる幅まで開く。
「どーも」
「気を付けてな」
老人は不穏なことを言い残すと、詰め所のほうに戻っていった。
「相変わらず長いですねー」
メガフロートがある場所は駿河湾のほぼ真ん中。多少陸地に近いとは言っても、20㎞近い橋をバイクで走るんであれば三十分前後で着く。
「その割にずいぶんと、静かだな」
アストリアの養成機関であれば、休日や長期休暇でも普通科高校以上の活気があったはず。
「そうですね。それだけ今回の事件が特殊って事情なんじゃないですか?」
生徒がほぼ全員寮内待機か実家待機を要請してされているのかもしれない。
「まあ、とりあえず職員室に向かうか」
来客用の駐車場に、バスターラビットを停めて校舎の方に向かう。
「おまたせしました。こちらが今回の事件の詳細です」
依頼人である校長に、手渡された資料に目を落とす。
数枚の写真と第三者機関による調査報告。
写真の場所は多分校内にある中庭の一角。校内菜園の辺りだろうか、霜がついた雑草と凍り付いた木。広角写真で見ると、一ヶ所だけまるで吹雪に襲われたような状態になっていた。
「ずいぶんとすげえ状態だな」
この一角だけに異常気象が起こったとは思えない。
霜や雪を取り除いても次の日には同じ状態になっている。
定点カメラによる記録にはビーストの気配も人の気配もないらしく、起動したようすもない。
「これが人の手で出来るとは思えませんよねぇ」
「そうだな。これが人の手で、アストラルギアを用いたとしても、ここまで局所的な加減が出来るのは……」
「
校長の顔色が変わる。
「それはないだろ。スノウホワイトは二十年前に殉職してる。それに白妙ノ太刀はネセトが回収している以上その線はないだろ」
俺はソファに体重を預け天井を仰ぎ見る、考えることを放棄するように、
「とりあえず現場見に行くか」
普通の学校の中庭。桜の咲く対角に凍り付いた同じ桜の木が凍った状態で生えている。
「見たところ変なものはないか」
サーティンは中庭を散策するように周囲を見回した感想を空に述べる。
(あの桜の木を中心に凍りついている。外に向かって徐々に弱くなっている?)
霜を取り除いても次の日には同じ状態になっている。
この桜の木そのものが、今回の事件の元凶なのか? いや、何かがいる。どう考えてもあり得ない。木自体がアストラルギアの可能性を一瞬考えたが、そもそもの部分でありえない。ビーストにしても、何故ここなのか。ここであるよりも捕食効率のいい場所はいくらでもある。動かない。動けないビーストが生まれるのか? ビーストの生態に関する研究資料があるわけではない。それに、捕食器官をもたないビーストは確認されていないだけで存在している可能性はある。
「ゴシュジン? 準備出来ましたよ?」
アイシャが任せていた機材の設置が終わったらしく、中庭の方に現れる。
「ああ、終わったのか。んじゃ、一旦帰るか」
昼間に出来る仕事はすべて終わった。
あとは、夜を待つだけ。この現象を引き起こした犯人が現れる時間帯までに戻ってくる。そして犯人を潰す。
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