第97話
サトルはダガーを左手に、剣を右手に持ち静かに構える。ダガーで敵の攻撃を受け流し、剣で討つ。後の先を取る剣術である。
生前アレイスターはこちらに危害を加える意思のない者は斬らないと決めていたのだろう。
無駄な殺生を嫌う。そんな彼を体現したかのような剣技であり、そんな構えを見て、アラダインは歯を強く食いしばった。
「あぁ! 本当にあの男は私の感情を逆なでしますね! そんな古臭い剣術で今の私は止められない! 今度こそ本当に殺してあげますよ!」
感情を昂らせて迫るアラダイン。
しかし、彼の剣に迷いも感情の発露もない。
ただ今まで自分が振るって来た剣を――鍛錬で磨いてきた己が剣を振るうだけだと言わんばかりにヒロイックスレイヤーの切っ先は静かに光るのみである。
アラダインの一閃はただ力と技術に任せた一撃。サトルを袈裟に斬るために振るわれた剛の剣。
サトルはダガーを前に出し、左手に力を込める。相手の一撃を受け流し、体勢の崩れたところに右手の剣を持って制する。
幾度となく繰り返し、洗練されたアレイスターの剣技。メロベキアと言う国で騎士団長にまで上り詰めた二人の――その人間性を現した正反対の剣が今ぶつかり合う……かに思えた。
サトルが衝撃に備え左手へ力を込めた瞬間であった。
勇者殺しの剣はダガーにぶつかる直前で刹那の静止。軌道を変え、サトルの喉元へと迫る。
「フェイント⁉」
余りにも強引なまでの静止。通常ならば振るった剣の重みに耐えきれず、腕が悲鳴をあげるところだろう。
それを可能にしているのは勇者殺しの剣の特性なのだろう。
聖剣の特性にもある使用者からすれば、羽のように軽いと言う特性それ故……
しかしそれは違った。
アラダインは苦悶の表情を浮かべている。騎士団の一員としてアレイスターの剣を誰よりも見てきた彼が生み出した強引なまでのフェイント。
最初にして最後の一撃にアラダインは賭けてきたのだ。
だが、アレイスターの剣技に一部の隙など無かった。
マリーを守りたいと願ったサトルと娘を守ると誓ったアレイスター。
二人はスキルによってシンクロし、剣技の再現度も増している。
フェイントに驚いているサトルを無視するように、アレイスターの経験を宿した剣と身体は冷静だ。首を斬りに来たアラダインの剛剣を右手の剣でしなやかに受け流し。
左手のダガーを、前のめり気味のアラダインの首筋にあてがった。
「おのれおのれ! アレイ――」
アラダインが怨嗟の言葉を言い終わる前に、メロベキア現騎士団長、アラダイン・フォン・セドキアの首は空を舞い、クリエ草原の地に落ちた。
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