第82話
二ヶ月後――
一面に広がる平原に群がる人間。地平線まで人で埋め尽くしている。
サトルは戦慄していた。人の数にではない。群衆が一糸乱れぬことにだ。遠目から微動だにせず、メロべキアの紋章が刻まれた国旗だけが、風に揺蕩っていた。
メロべキア軍約十万。
たった一人の号令の元、彼らは怒号と共に押し寄せてくるだろう。立ちはだかるものを、今まで培った経験と装備した剣で、槍で、弓を持って斬り、刺し、穿つ。
蹂躙の限りを持って新緑の草原を赤に染める。
そんな予兆を孕んだメロべキア騎士団と言う個。侵略の徒。世界を脅かす暴力装置。
クリエ草原。メロべキアとサラニア決戦の場。
サトルの眼前には質も量もトップレベルの騎士団。後方には一万にも満たない寄せ集めの群衆。
「最早、この彼我の差に感動すら覚えるわね」
隣に並ぶニーアが、メロべキア軍を眺めながら感嘆する。
「こちらの増援は間に合わなかった……いや最初からそんなもの無かったのかもしれない」
サトルが召喚される以前より進めていた対メロべキアの総力戦。サラニアを支援する国々に武力での援助を申し出ていた。難航していた交渉は勇者であるサトルがメロべキアに対することで一気に進んだ……はずだった。
メロべキア首都に配置された騎士団三万に対して勇者サトルと七万もの友軍をもって侵略国家を打ち倒す……計画であった。
だがメロべキアが方々に散った騎士団を集めていると言う情報を得て、各国が兵力の派遣を渋ったのだ。
戦わなければ自国の危機だと言うのに、此度の戦争に知らんふりを決め込むらしい。。侵略の最中に私たちは先の戦いに手を貸さなかったと釈明でもするのだろう。
そんな無駄な抵抗をしても、侵略待ちの順番が最優先にはならないことを祈るしかないだろうに……
その結果がこの戦力差。しかも一万の内半数以上は難民で構成されたハリボテ。
騎士団として訓練を積み、実践経験と矜持を持つ者たちと、武器を持つのも初めてな復讐者たち。単純に人数では十倍差でも戦力はそんな単純なはなしではない。
「まぁ、あまりあてにはしてなかったけどね。それにこっちには切り札の勇者様がいる」
ニーアはサトルを見つめる。その瞳には悲観などと言った感情は全く無い。
「その証拠に、ほらこのメロべキアの慌てようを見てよ。必死こいてこれだけの兵をかき集めてさ。余裕のなさが垣間見えるじゃない」
彼女はこの光景を見て、相手の焦りようだと……
それだけ、サトルの力に信頼を置いていると言うこと。
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