第81話
そんな彼女の顔を見て、サトルは思い出した。マリーに渡すべきものの存在に。
「マリー、これを受け取ってくれ!」
熱にうなされるままのように、サトルはローブの中から向日葵を模したかのようなペンダントを取り出し、マリーへと差し出した。
ただシンプルに受け取って欲しいと、それだけを伝えて。
「これ……」
マリーは目を丸くして、サトルの手にしているペンダントを見つめる。彼女はそっと手を伸ばし、サトルから受け取った。
しばらく見つめた後、マリーは向日葵のペンダントを胸に強く抱きしめた。
「……ありがとう、サトル」
彼女から一筋の雫が、零れ落ちた。
マリーがこのペンダントに強く惹かれたのは、ただ綺麗だからではない。不当な罪で処刑された無き父から貰った思い出のペンダント。
もちろん、彼女が実際に持っていたペンダントではない。
同じ形をしているだけのものではあろうが、彼女の中に大事にしまい込んでいる父親との記憶、母親との記憶を垣間見るのは十分だったに違いない。
「ありがとう、サトル」
マリーは涙を拭い、もう一度サトルに礼を言った。
「それにしても……ふふ、ふふふふふふ」
泣いたとい思えばなんとも忙しいことに、次にマリーは押し殺したかのように笑いだす。
「どうしたんだマリー、大丈夫か?」
あまりにもの喜怒哀楽の変わりように心配するサトルをよそに、堪えきれないと静かに笑い続ける。
「ははは、ごめん、ごめん。大丈夫だよ。ただ、なんかここら辺がむずがゆくなっちゃって」
マリーは鳩尾の上辺りを軽く擦りながらそう言う。
「なんか似た者同士だね。私達」
「ん?」
サトルは彼女の言葉の意味はを掴み切れず、頭の中でいくつもの疑問が浮かぶ。
そしてマリーはローブの中から、一本のダガーを取り出した。
全長30センチ前後だろうかと思われる。
剣身はシンプルなデザインの鞘に入っており、無骨なまでな柄の意匠の中、左右に突き出した鍔が特徴的である。
サトルはそれを見て十字架を連想した。
「お父様が使ってたダガーに似てたから……買っちゃった……」
彼女の父親への羨望。立派に騎士団を率いた人徳者。人としても騎士としても、そして父親としても立派な人だったのだろう。亡くなった後でもその背を、思い出を追いかけ続けてしまう程に、父親のことを愛していたのだろう。
マリーはぎゅっとダガーを握り、少し寂しそうな顔をしてからサトルに差し出した。
「貰ってくれる?」
「え、いいのか?」
「もちろん! サトルのお守りに買ったんだから……なんだかお父様がサトルのことを守ってくれると思うの」
マリーの言っていた似たもの同士と言うのはこう言う意味だったかと、サトルは思い至った。お互いが相手への贈り物を買うために大半の小遣いを使い果たし、安い昼食しか買えなかった。
「本当、似たもの同士だな」
サトルは笑顔でマリーのダガーを受け取った。
それから二人はいろんなことを語らいあった。元いたサトルの世界のこと。戦争で勝利した後に行く旅のこと。旅が終わった後に何をしようかと。
冷めて硬くなった肉と、パサパサになったイモをつまみながら、ニーアが彼らを見つけるまで。
限りなく幸せな二人だけの空間を、時間を謳歌した。
――完―― 束の間の休息
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