第77話
広場に着くとマリーはすでに待っていた。
心なしか、彼女の様子はソワソワとして落ち着かない。
「ごめん、遅かった?」
「うんうん? 今戻って来たとこだから……」
なんかありがちなカップルの初デートみたいだとサトルは思い。一層気恥ずかしくなる。そんな空気感と、サプライズプレゼントの存在でサトルの心臓は早鐘のように鳴り響く。
サトルはなんとなく、マリーの横に立ち並ぶ。
「……」
「……」
喧騒の中、まるでサトルとマリーの周りだけ時間が止まったかのような静けさが広がる。先程まで事も無げに話ができていたはずなのだが、今は全く会話がない。
サトルの頭の中では、プレゼントのきっかけを作り出そうと様々な会話パターンを模索している。だが、それはどれも突拍子もなかったり、雰囲気作りに失敗し、どんどんお蔵入りとなって行く。
「えっと……ここ人が多いし、もっと静かなところで昼食にしない?」
ただ横並びになって突っ立っていたのはたかだか数秒くらいだったかもしれない。しかし、今までにないくらいに脳をフル回転させていたサトルとしてそれは長い長い沈黙を破る、マリーからの助け舟だった。
「あ、ああ! そうだな!」
名案だと頷き、歩き出すサトル。
だが、すぐに立ち止まってマリーの方を見る。
「どこいこうか……」
もちろんサトルにサザラの土地勘なんてものはない。
「えっと、さっき見て回った時に静かそうなところ見つけたから、そこ行こうか」
それはマリーも同じことなのだが、彼女は昼食探しのついでに、食事適した場所に見当をつけていたようだった。
照れ臭く、気恥ずかしく、なんとも情けない気持ちになりながら、マリーの後をとぼとぼと付いていくサトル。
サトルに恋愛経験はないが、こんな時のためにシミュレートの一つや二つくらいはしたことがある。その中では、架空の彼女を立派にエスコートしていたのだが……
しばらく歩くと、また別の広場へとやって来た。
先程の広場はメインストリートに通じていてかつ、都市内各地へとつながる交通の要衝だったようで人が多かったが、ここの広場は人が少なくてのんびりとした時間が流れている。
心なしか二人きりの男女が多い気がする……
「そこに座りましょう」
マリーが指差す先には白い石台のようなベンチ。仲の良い男女が二人で座るにはぴったりの大きさではあるが、今のまだそう言った域に達していない二人には手狭に感じる。
「お、おう」
自分は今どんな表情を浮かべているだろうか?
にやけてだらしない表情をしているだろうか。緊張でなんとも硬い表情をしているだろうか。
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