第76話


 一人になったサトルは先程までいた通りを散策しながら、辺りを見回す。マリーの動向を探るためだ。幸いこの辺りにはいないらしい。


「自分で稼いだ金じゃないっていうのがなんとも情けないような気はするが……」


 サトルの目的はもちろん、向日葵のような形をしたペンダント。

 それを買ってマリーにプレゼントすることだ。

 

 銀貨五枚分の価値を使うとなると、支給された金はほとんどなくなってしまうだろう。サトルの昼飯も、これからの買い物も見込めない。


  だがサトルに迷いは無かった。


「すみません、これください!」


 ここでもたついて、マリーに見つかるようなことがあれば意味がない。焦りから何度か硬貨を取りこぼしそうになったがなんとか購入することができた。


「ありがとうございやす!」


 店主の挨拶もそこそこに素早く周りを見渡すサトル。

 好きな女性への初めての贈り物。サプライズでのプレゼント。それがバレて失敗に終わってしまわないかの緊張感。


「こんな緊張するのなんて、小さい頃に一人で夜の外出をした時以来だ……」


 裸で渡された向日葵のペンダントを両手でギュッと抱きしめるように持つサトル。

 ニーアに言われた詐欺とスリには気をつけろだ。


 せっかく銀貨五枚の十分に高価なものであり、好きな女性へのプレゼント。そんな品物を取られるわけにはいかない。


「あ、そう言えば……」


 プレゼントの購入の達成にすっかり忘れていたが、昼食を買わなくてはいけない。小遣いの入った袋は随分と軽くなってしまったが、軽い食べ物を買うには十分に残っているだろう。


 ペンダントを握り締める手をローブの中に隠し、辺りを確認した。


 鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いに集中しつつ、マリーに喜んで貰えそうなものを探し始めた。


 ――サトルは露店で買ったなんの動物かわからない肉と、ジャガイモらしき野菜を焼いた昼食を持ってマリーとの待ち合わせ場所に向かった。


 ペンダントを買った後の金でも十分なものは買える……そう高を括っていたサトルはあまりにも浅慮であったことを気が付かされた。


 故に質の悪いファストフードのような物しか買えなかった。


「はぁ……うまそうなのは山ほどあったのになぁ。意外と高い……」


 やや気を落としつつも、人に揉まれながらマリーと約束した広場を目指す。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る