第59話


 メロベキア王国騎士団の長。アラダインはサトルと模擬戦で対峙した時のように、軽装であった。違うことがあるとするならば、見張りの兵士同様に胸に金属製のプレートをしていることだろう。


 なぜやつがこんなところに――


 サトルがその疑問を浮かべるのと、ニーアへ視線を向けるのは同時だった。

 だが今まさに拘束のため、兵士の背後に立つ彼女の動作は完全に止まっている。


 恐らくこの緊急事態に際し、ニーアの脳内はフル回転でこの状況を切り抜けるか思考しているのだろう。


 そもそも、アラダインは今聖剣に手を掛けている人物がサトルであると分かっているのだろうか。たまたまこの地に訪れた彼が、たまたまサトルが聖剣を引き抜く瞬間に小屋から出てきただけなのではないだろうか。


 再びアラダインへと視線を移すサトル。その時奴は腰にある剣へ手を掛け、駆けだしていた。

 サトルの希望的観測は打ち破られる。


 奴は聖剣を握る者がサトルであると、メロベキアの敵対勢力であると断定して行動し始めていた。


 再びニーアへと視線を移すと、彼女は懐から短剣を取り出して先程まで他愛ない話をしていた兵士の首へと刃を突き立てていた。


 彼女もアラダインの行動を見て、すでにこの作戦が看破されていると判断したのだろう。手近にいる敵戦力を一つ減らす行動へと移った。


「サトル!」


 サトルの名を呼んだ時、彼女はすでに反転し林道の先へと駆けようとしていた。それにマリーも追従する。その場一帯に轟く声で勇者の名を口にしたニーア。


 深く考える程の時間はないが、それは作戦の失敗と速やかな撤退を知らせるには十分な合図であった。


 サトルは聖剣の柄を掴んだまま走り出す。先程まで慎重に動かさないように堪えていたために、重さを感じていた剣が、今では羽のように軽い。


 サトルが走り出した直後、後ろで途轍もない威圧を感じた。


 目算でも剣が安置されていた場所と、小屋との間には数十メートルはあったはずだが――振り向いて確認せずともわかる。


 アラダインがすぐ後ろまで迫っているとサトルは直感する。

 模擬戦で感じることは無かった、明確な殺意を持って、自分へと迫っていると――


 殺される。そう頭によぎった時、サトルはただただ、聖剣エクスカリバーへ身を委ねた。自分のスキル「ウェポンマスター」を信じて。


 そしてサトルの身体は、聖剣に刻まれた経験通りに動き、必殺と思われたアラダインの一撃を受け止めて見せた。


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