第52話


「そうなると今後の予定が大きく変わるわね。それだけの価値があるかわからないけど、メロベキア打倒のために打っておける手はなるべく打っておいても損はないか」


 誰に言ううでもなく、強いて言うなら自分に言い聞かせるように呟くニーア。


「よし! 計画変更! 私とサロメ、マリーとサトルを連れて明日からイガタ平野を目指すわ」

「サラニアには行かなくてもいいのか?」

「まぁ最終的にサラニアには行くけど、寄り道程度に考えて頂戴。メロベキア領内ではあるけど、あそこには何もないからね。例のブツを除けば……曲がりなりにも勇者であるなら最悪回収だけでもできるなら悪くないかもね」


 一人で淡々と話しを進めていくニーアに誰も口を挟むことができず、進んでいく。

 サロメに関しては今だに地面に倒れ伏している。


「あのバカが目覚めたらイガタ平野に行くってだれか言っといて。それじゃ、マリーもサトルもあっちの小屋で休んでね。男女兼用で申し訳ないけど」


 そう言って一番先程までいた大きな小屋へと戻っていくニーア。

 サトルとマリーは彼女に言われた小屋へ向かう。


 小屋の中は集会用の小屋よりも小さいものだが、造りは同じで、違う点を挙げるならば、小さな窓が備え付けられているだけであった。


 床には簡単なベッドが所狭しと並べられていて、いくつかのベッドには先客がいるようだ。没落村のマリーの家よりはまだましと言える程度ではあるが、最低限の清掃等は行われているように思える。


 ベッドに入り込んだサトルは、ひどく濃い一日を思い返す暇もなく、泥のように眠った。


 ◇◇◇


「ほら起きた起きた!」


 翌朝、サトルはニーアに叩き起こされる。あの時優しく気遣ってくれたニーアはいない。

 それに小屋の中はまだ暗く、起こしに来た彼女はランタンと手にしている。


 唯一の窓からは除く景色は、昨晩の景色と何も変わっていない。

 早朝……日の光の気配もない暗闇だ。


 時計などは持ち合わせていないため、今が何時かなどわからないが、予想としては午前4時前後だろうかと推測を立てるサトル。


「まだ外が暗いんだが……」

「そんなの当たり前じゃない。今の内に森を出ておかないと、目撃されたらどうするのさ」


 帰らずの森と呼ばれるいわくつきの場所から誰かがでてきたら、それは確かに帰らずの森ではなくなってしまうかもしれない。


 ボーっとする頭を振り、大きな欠伸をしながら起き上がるサトル。

 心地よい温かみが残るシーツに未練を残しながらベッドを離れた。


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