第39話


「その剣……お父様の形見なの。えっとだからかな? サトルを見てお父様を思い出したのは」


 ウェポンマスター(経験)


 サトルは唐突に思い出した。異世界召喚でのギフト、自分に送られた特別な技能を。


「家財は殆ど国に押収と言われて奪われちゃったけど、それだけは手元に残ったのよ。ずっとお父様が訓練で使ってくたびれた剣だから、きっと見逃されたのね」


「そうか……そうだったのか!」


 困惑する彼女をよそに天啓が降りた気分にサトルは歓喜した。


「え? えっと大丈夫?」


 サトルの変わりようにマリーが心配そうに見てくるが今はそれどころではない。自分のスキルの謎が解明されたのかもしれないのだ。


 最初手にした木剣は誰も使用していない真新しいものであった。


 少し違和感を覚えたのは農作業で年代物のクワを持った時。農作業など一切やったことのないサトルにクレールは手際がいいと言った。


 クレールの人の良さもあり、世辞だろうと流したがそうではなかった。使い古されたクワの経験がサトルをそうさせたのだ。


 マリーの父親の形見である剣。訓練として使いこまれた経験。それがマリーに亡き父の幻影とだぶらせた。


 模擬戦でのサトルの痴態を知っているはずの王国騎士が熟練の騎士とだぶらせ、緊張を走らせた。


 マリーの父が長年訓練で培った経験がサトルをそうさせたのだ。


 武器や道具から使用された経験を得ることで再現することができるスキル。それがサトルに与えられたスキル「ウェポンマスター」の正体だ。


 まだ憶測の域をでないものの、確信に近いものを感じるサトル。まるでようやく今になって思い出したかのような感覚。


「あぁ、すまないマリー少し考え事をしていたんだ」


 考えはまだまとまらない。きっかけをつかんだに過ぎない。


 今の状況を打破する一因になる可能性は十分にあるかもしれないが……実際にサトルは王国騎士に後れを取った。


 スキルの恩恵によって実力は相手を凌駕していたにも関わらずだ。


「ならいいけど……」

「マリーこんな時に聞くのはあれなんだが……君は……人を殺すのに躊躇いはないのか?」


 騎士の首を穿ち、絶命させたのは結局のところマリーなのだ。彼女の活躍が無ければ、サトルの命はなかった。


 相手の命を奪う事に迷いが生じ、自分の命を失うところだった。


 

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