第31話


 昨日同様、紺のドレスに身を包んだマリーは朝日で照らされても美しかった。


 暗がりでは目立たなかったが、豪華で綺麗だと思われたドレスはいたる所がほつれ、どう洗っても消えないであろうシミなどがついてボロボロなのだが、彼女が着ていると不思議と美しく見えてしまう。


「それにしても……これからどうするんだ?」

「どうするもこうするも仕事よ。サトルも元気なら手伝って欲しいけど……」

「あぁ、随分世話になったしな、なんでも手伝わせてくれ」


 なんて言わなければ良かったと、小一時間もしない内にサトルは後悔することになる。


「畑仕事ってこんなにツライのか……」


 畑仕事を任されたサトルは年代物のクワを持って、広大な土地を耕していた。


「いや、あんた筋がいいよ。新入りとは思えない手際だな」

「えっと……そうですか? ハハハ」


 隣で同様にクワを持って畑仕事に精を出す気さくなおじさん。

 マリーはクレールおじさんと気さくに呼んでいたが、彼もまたボロボロになった豪奢な衣服を身に着けている。


 没落村。元貴族達が住む村。


 昨日見た暴漢やマリー、そして畑に連れていかれる際に何人かこの村の住人を見かけたが、皆が貴族然とした恰好をしていた。


「えっと、クレールさん。一つ聞いても?」

「あぁいいとも。どうしたんだい?」

「どうして皆貴族の服を着ているんですか?」


 おじさんは手を止め、少し後退した額の汗を拭った。


「あぁ……マリーから聞いていないんだね。それは単純だ。それがこの村の決まりだからだよ」

「決まり?」

「そうとも。衣服を強制して、昔の事を思い出させるのさ。囚人の烙印みたいなものだな。それに落ちた貴族を見れば少々不満を持ってる貴族や平民連中の溜飲も下がる」


 昔の華やかな自分を思い出させ、今の惨めな自分をより惨めにするための、くだらない決まり事……積み重なる日々でどれだけの苦しみとなっているのだろうか。


「まぁ、慣れればどうってことないさ。しかし君は見慣れない服を着ているね」

「あ、えっと……」

「マリーから聞いているよ。増水した川に流されてきて記憶があまりないんだってね。生き延びたのは僥倖だが、よりによってこんな村に流れ着いちまうとわな」


 そんな事情になっているなんて聞いていないと思うサトルであった。だが、ここで召喚された勇者ですと名乗るわけにもいかないので適当に話を合わせておくことにする。


「え、ええ。でも、皆さん思ったより穏やかですね」

「そうでもないさ」


 あれだけ明るくクレールの表情が少しだけ険しくなる。


 

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