第30話


 翌朝、雲一つない青々とした空を、サトルは虚ろな目で眺めていた。


「全く眠れなった……」


 マリーに救ってもらってから随分と眠っていたようだが、そのつけが来たわけではない。単純に環境が変わった……いや、その環境に気が付いてしまったが故に眠れなかったのだ。


「おはよう! いい朝だね!」


 意気揚々と挨拶をするマリー。


「あぁ……おはよう」


 十分な睡眠をで元気に溢れている様子の彼女を見て、恨めしさや恥ずかしさでまともに顏を見れないサトル。


 昨晩、マリーは気楽な様子でもう少しこの家で療養していけばいいと言ってくれた。行く場所や目的もないサトルとしてはとてもありがたい言葉である。


 これ以上迷惑を掛けるわけにはいかないと頭によぎりつつ、こんな夜中に見知らぬ土地で野宿ができる程、豪胆な精神の持ち主ではない。


 そして眠る際にサトルは自分が床で眠ることを進言した。体調も良くなり、家主のベッドをいつまでも占領し続けるのは悪い。


「別に一緒に寝ればいいじゃない」


 寝床がないなら一緒に寝ればいいじゃない。そんな軽いノリでマリーは言ってのける。


「あ、いや……それはさすがに……」


 サトルも健全なる男子である。そんな甘い誘惑をぶら下げられたら心揺らぐどころか心臓が破裂してしまう。


「もう三日も一緒に寝た仲なのに何を照れてるのかしら」


 マリーから衝撃的な言葉が飛び出した。怪我や疲労で全く覚えていないが、この三日、彼女はサトルの隣で眠っていたらしい。


「い、いや! ちょっとそれは……お、俺も男だぞ⁉」


 これは最早遠慮や配慮と言うよりも、男子の矜持の問題である。彼女は男女が同じベッドに入ることに何も恥ずかさを感じないのだろうか。何も危険を感じないのだろうか。


「も、勿論、なにもしない! け、けど――」

「大丈夫だって、サトルなら何もできないと思うし」


 どうやらマリーはサトルの事を男だと認識していないようであった。


「それに私、騎士団長の娘なのよ? サトルには負ける気がしないかな」


 男としてのプライド的な何かが、多方面から叩き壊されたような感覚に襲われるサトルであった。


 そんなこんなで、ドレスを脱ぎ、薄い肌着だけとなったマリーとベッドに入る。サトルの短い生涯において出会って来た女性の中で一番綺麗だと思うマリーと、触れ合う程の距離だ。


 そんな状態で眠れるはずもなく、ヘタレのサトルは早々に床へと移動したのであった。


 硬く冷たい床は非常に眠りにくく、柔らかなベッドでしか眠ったことがないようなサトルにはとても快眠できるような環境ではなかった。

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