第17話
晴れて自由の身になったサトルはメレニアに従い、彼女の後ろを歩く。手持ち蝋燭の灯りを頼りに彼女が向かっているのは牢の出入り口……ではなく、真逆の奥の方だ。
「メレニア……脱出するんじゃないのか?」
「この牢獄はね、囚人を捕らえておく場所じゃないのよ」
サトルの質問を聞いてか聞かずか、メレニアは静かに語りだした。サトルもそれを何も言わずに聞くことにする。
今は彼女の機嫌を損なうわけにはいかない。サトルの生殺与奪はメレニアの手に握られているのだから。
「貴方が元いた世界がどうなのかはわからないけど……王城なんてものは反逆なんかが起きた時に、王族だけでも脱出できるようにいろいろと考えられているものなの」
実際にお目に掛かったことは無いが、サトルがいた世界の城にもそう言った工夫がされているはずだ。
城でないにしろ、要人が集まるような施設にはそう言った隠れた通路があると、実しやかに噂されている。
「この牢獄もその中の一つ。捕らえられても脱出出来るよう造られているのよ」
ここでようやくサトルも理解した。メレニアはその王族用の脱出ルートを利用してサトルを逃がしてくれると言うのだ。
「確か……ここね」
牢獄の最奥。鍵のかかっていない空の牢に入る彼女。それに続いてサトルもその牢に入る。それを確認するとメレニアは内側から扉を閉め、施錠した。
恐らく追っ手の事を考え、少しでも時間がを稼ぐための行動なのだろう。
「そこに敷いてある藁をどけてみて」
牢の左奥を手持ち燭台で照らすと、メレニアが言っている藁が見えた。サトルがいた牢にはそんな気の利いた物はなかったが……
彼女に言われた通り藁を取り除くと、丈夫そうな木の板が見えてきた。
なる程、カモフラージュと言うことか。
木の板を開けると、そこには階段。暗闇でどこまで続いているのか定かではないが、そこから吹いてきた冷たい風が出口であると告げている。
サトルはこの闇の広がる階段の奥に、確かな脱出の光りを見たような気がした。
蝋燭一本の灯りが深淵に包まれた脱出路を照らし出す。その灯りは心許なく、前方は闇に包まれたままであり、足元くらいしか確認出来ない。
これが肝試しと言うなら涼をとるには最適と言えるだろう。
だが、これは恐怖を味わうものではない。それから逃げ出す希望の道なのだ。なので、サトルには怖れと言った感情は一切なかった。だからと言って不安が全くないわけではない。
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