第11話


 緊張のあまりメレニアが運んでくれた朝食は、大して喉を通らなかった。突然の異世界、唐突な展開。何もかもついていくのに手一杯だ。


 だが、不思議と元いた世界への未練はあまりない。理屈だてて考えると……身勝手な都合で異世界から呼びつけ、実力を見ると言う名目でいきなり戦いに放り出す王族。


 そんな横暴に腹の一つも立てるのが人間と言うものだろう。しかし、不思議とそんな感情は湧いてこない。


「さぁ勇者様。こちらを」


 模擬戦のために簡単な防具を着せられた勇者サトルにメレニアから武器を手渡される。それは両刃のロングソードを模した木剣(ぼっけん)であった。


 さしずめ西洋版木刀と言ったところか。訓練用ではあるがまるで傷はなく、ほのかな木の匂いが漂う。


 恐らく新品なのだろう。


 国にとって最大のゲストである勇者に、訓練で使い古され、傷ついたものは失礼に値すると思ったのかも知れない。


「ありがとう」


 彼女からその真新しい木剣を受け取る。メレニアから少し離れ、感触を確かめながら振ってみる。思ったよりも重量があり、腕が木剣に振り回される。


 実際に武器を手にしてみたが、昨日から募っていた不安は増すばかりである。


 本当に大丈夫だろうか……


 スキル【ウェポンマスター】……詳細は定かではないが、武器さえ触れば何か判明すると考えていたのは甘かったのかもしれない。


「さぁ勇者様、その力を我々に示してくだされ!」


 心の整理もつかないまま、相談役のサラディに呼ばれる。サトルは木剣を握り締め、アブラハム王を含む、国の重鎮が待ち受ける円形の闘技場へと足を踏み出した。


「おぉぉぉ!」


 歓声とも怒声ともつかない声が円形闘技場に木霊する。王とその臣下、そして数多くの兵士達で満たされた闘技場は熱気に溢れているように思える。


 まるで国民的スポーツの世界大会のような熱狂ぶりである。


「本日の勇者様との模擬戦を務めますのは、メロベキア王国騎士団、団長! アラダイン・フォン・セドキア!」


 サトルが入場した直後、大声を張り上げ、熱狂する観客をより熱くなるように扇動する実況者に紹介され、対戦相手も入場して来る。


 アラダイン・フォン・セドキアと紹介された彼の貫禄は凄まじく、サトルと比べると山のような巨躯であり、模擬戦用の軽装具ではどうやっても隠れようのない筋骨隆々さ。


 サトルを見つめる眼光は鋭く、武芸のド素人であるサトルでも強者であると分からせるには十分なものであった。

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