第26話 地方のコンビニ強盗
「ミイ、この画像からナンバーが分かるか?」
「画像解析します」
モニターにナンバーが映し出されるが、数字がだんだんボケて来た。画像を拡大するとどうしてもそうなる。
しかし、今度はそこから数字が判別出来るようになっていく。
「ナンバー判別、岡崎356C1-23」
山本巡査部長が直ちに関係個所に連絡している。こうなると、既に岡崎署の警官が加害者の家に向かう事になるだろう。
「では、次はこれです」
モニターに映し出されたのは、コンビニ強盗だ。フルフェイスのヘルメットをしていて顔は分からない。
服も上下黒で、いかにも強盗しますって恰好だ。
「最近は無人店舗が主流なのに、この店は有人店舗なんですね」
都会のコンビニはほとんどが、無人店舗になっている。
「このお店は福島県の幹線道路にあるお店です。都会は無人店舗がありますが、地方に行くと、店舗改造費用などの問題もあって、なかなか無人店舗に出来ないお店も多いです」
「地方の方が人手は無いんじゃないですか?」
「最近は、外国人研修生として、その人たちが家族を連れて来ているでしょう。その家族が働いているというケースが多いみたい」
「ですが、この映像からは従業員は外国の人には見えないですが…」
「時間は夜中の2時くらいで、さすがにその時間帯は外国人も働かなくって、オーナーが店番をやっているということです」
「かなりのお歳のようですが…」
「72歳らしいわ。結局、こういう仕事って、外人か年寄りの仕事になってしまうのですね」
刑事課から回されて来た資料を見ながら、山本巡査部長が答える。
「この周辺にカメラは?」
「この周辺は基本的に田舎なので、監視カメラは近くには無いのを確認しています。一連の画像は、このお店のカメラ映像だけになります」
「もう一度、最初から見せて下さい。ミイ、画像を見て何かあったら教えてくれ」
俺たちはコンビニ強盗の映像を最初から見る事にした。
最初にコンビニの前にバイクが停まる。バイクのライトがカメラの方を向いているので、バイクの画像も分からない。
停まったバイクから人が降りて来て、コンビニの中に入り、店の中を一周する。恐らく、他に人が居ない事を確認しているのだろう。
強盗は棚から何か掴むと、それを持ってレジに行く。
店主がバーコードリーダーでレジに置かれた品物を読み取り、会計をしようとした時に、持っていたバッグから包丁のような物を取り出して、店主を脅す姿が映った。
店主はレジからお札を出し強盗に渡すと、強盗はその金を掴み自動ドアを出て、乗って来たバイクに跨って、走り去って行った。
走り去るバイクの色も濃い色をしており、そのデザインも分からない。もちろん、ナンバーは隠してある。
その後は店主が電話をしているが、それは警察に電話しているのだろう。ビデオの映像はここまでだ。
「ミイどうだ?」
「犯人の身長は167cm、体重は装備を含めて62kgと推定します」
ミイが言った事を山本巡査部長がメモしていく。
「それ以外はどうだ?」
「それ以上の情報はありません」
ミイにも限界はある。しかし、身長、体重は恐らく調べてあり、ミイの分析結果とさほど違いはあると思えない。
「ヘルメット、衣装から判別出来ないか?」
「画像を拡大して下さい」
ミイが言うと、山本巡査部長が犯人の画像を拡大する。
「ヘルメットの型の照合を開始します」
ミイが黙った。ネット上にあるヘルメットの画像照合をしているのだろう。
「日本で製造されたヘルメットではありません。ベトナム製に近いヘルメットです。
衣装も同じく、ベトナム製です」
「ベトナム製か、犯人が外国に行って買って来たのかな?」
「あなた、何を言ってるの。今では洋服はベトナム製ばかりよ。ヘルメットも通販で頼めば、安いものはベトナム製ばかりよ」
彩芽が俺の疑問に答えるように言う。
「あなた?ですか?」
「山本さんは、まだ知らなかったっけ。実は私たち結婚したのよ」
「ええっー!」
「でも、指輪はまだなんだけど。そこは主人が、就職したら買おうって…」
彩芽は「主人」と言う言葉を強調して言う。
「圭くん、本当?」
「ええ、まあ、そういう事になりまして…」
俺の言葉に山本巡査部長が黙った。
「ほら、仕事、仕事」
彩芽が言うが、自分から話を振ったんじゃないか。
「それで、衣装を売っている店は特定出来そうか?」
「量販店です。『たはら屋』で販売しているものと判明しました」
「たはら屋」は、格安で作業用衣装とカジュアル衣装を売る全国規模の店で、最近、あちこちに店を出している。
大きなショッピングセンターにもあるので、それほど珍しいという店ではない。
「このコンビニ近くの『たはら屋』を地図に出します」
ミイが言うと、モニターの一つに地図が表示され、その地図に店の位置が表示されていく。
「取り敢えず、この情報を福島県警に送って、近くの店から調査するよう指示を出しましょう」
山本巡査部長が、早速調査した情報を転送する作業に入った。その間にもミイは、色々とカメラ画像を検索している。
「ヘルメットは通販会社が分かりました。ハマゾンに出店しています」
「そこから、このコンビニ近くから注文した人物を特定出来るか?」
再び、ミイが黙る。
「この近くで、注文した人はいません。ですが、全国では9人がこれと同じヘルメットを注文しています。そのリストを出します」
購入した9人の名前が、モニター上に並ぶ。その中に一人だけ、外国人の名前がある。
「この『フンニン・サッヘン』というのは?」
「直ぐに確認します」
ミイが黙るが、直ぐに確認は済んだようだ。
「10年前に技能実習生として来日、当初は千葉県に居ました。その時にヘルメットを購入した履歴があります。現在は、福島県いわき市在住」
いわき市といったらコンビニ強盗のあった店の近くだ。
「彩芽!」
「山本さん、直ちに、この『フンニン・サッヘン』という人物をマークするように福島県警に連絡」
彩芽の指示で山本巡査部長が福島県警に連絡している。
連絡が終わると、こちらを向いた。
「連絡が取れました。福島県警が直ちに向かうようです。ですが…」
「何か問題でも?」
「証拠が出るでしょうか?今はこのヘルメット画像しかありませんし、その画像も不鮮明です。ヘルメット以外に証拠が出ないと中々、逮捕までは難しいのではないでしょうか?」
山本巡査部長の言葉に俺たちも黙る。確かに、そのとおりだ。今は不鮮明画像しか証拠がない。
これだと、福島県警も逮捕状を請求出来ないだろう。
「この画像からCADデータに起こして、それを販売されているヘルメットと照合します」
ミイが言うと、コンビニ犯のヘルメットがクローズアップされ、そこから線図が起こされる。見るとCADデータになっている。
次に販売されているヘルメットの画像から同じようにCADデータを作り、それを重ねるとヘルメットの形が一致した。
「山本さん、これでどうでしょうか?」
「取り敢えず、福島県警に送ってみるわね。後は現場の方に任せるしか無いと思うけど」
最近は、強盗犯の方も、街中にカメラがある事を知っているので、下手な犯行はしない。
「今日はここまでね。また、明日お願いします」
山本巡査部長に見送られ。俺たちは情報鑑識センターを後にし、官舎の方に帰る。
地下にある情報鑑識センターからエレベータで地上に出て来ると、そこは所轄である山川署のロビーだ。そこから、俺と彩芽、それにミイの3人で玄関を出て官舎の方に歩く。
この辺りは人通りも多く、警察が近くにある事で治安も良い。すると、彩芽が俺の腕に自分の腕を絡めて来た。
「おい、彩芽」
「良いじゃない。夫婦なんだもの」
しかし、そこに割り込んだ者がいる。ミイだ。
「ご主人さまは、私の恋人です。たかが繁殖行為をしただけの関係で、私以上にはなれません」
ミイが割り込んだので、彩芽と組んだ腕は離れてしまう。それを見た彩芽はいかにも残念そうだが、相手が小さい子供だと思えば諦めもつくというものだろう。
彩芽はミイとは反対側に来て、並んで歩くが、直ぐに官舎に着いた。
部屋に入って夕食にし、風呂に入ってリビングで寛いでいると、風呂から出た彩芽がタオルを髪に巻いて来た。
「ねえ、圭くんの家族といつ会おうか?」
俺の両親は離婚しており結婚したことは電話で連絡したが、その紹介は伸び伸びとなっている。
「再来週の土曜日ではどうだろうか。それで二人に聞いてみるよ」
「ええ、お願い」
俺は父親に電話する。
「もしもし、父さん。圭だけど、結婚したと言ったじゃないか。それで、お嫁さんを紹介したいと思うんだけど、母さんといっしょで良い?ああ、分かった。良いよ」
「何って?」
「場所は父さんがどうにかするって。さて、今度は母さんの方だ」
俺はスマホから母さんの携帯に電話する。
「もしもし、圭だけど、この前、結婚したと言ったじゃない。それで、奥さんになった人を紹介したいと思って。うん、父さんも来るって。それで再来週の土曜日いいかな。場所は決まったら連絡するから」
「あー、どきどきする」
「なんで、彩芽がどきどきするんだよ」
「だって、ご両親じゃない。うちの息子の嫁には不適格です、なんて言われたらどうしようかと思って」
「そんな事、言わないよ。それより、ミイはどうしようか?」
「私も当然行きます」
「そうだよな。そうすると、ミイの事は何と言おうか?」
「そうねえ、まさか子供とも言えないし。アバターと言っても理解して貰えるかどうか。どうしようか?」
「私は、ご主人さまの恋人です」
「お嫁さんが居て、恋人も居るってのは世間的に無理よ」
「なら、私もお嫁さんになります」
「いえ、そっちの方が無理があるでしょう」
「外国では、4人まで妻に出来るそうです」
「それは別の国の話だから、日本では一夫一妻制なのよ」
「うーん、困ったな。ミイには悪いけど、留守番して貰うか」
「そうねえ、その方が良いかも」
「嫌です。えーん」
ミイが泣き出した。アバターでも泣くんだ。しかし、一応、女の子なので泣かれると男性としてやり切れないものがある。
「分かったよ。ミイは連れて行く」
「ご主人さま、ありがとうございます」
ミイが俺に抱き着いてきた。
「ミイちゃん、私の旦那さまなのよ。ちょっと、いい加減にしてくれる」
「私のご主人さまです。さあ、ご主人さま、ベッドへ行きましょう。こんな女狐とはもう良いでしょう」
「ちょっと、女狐って何よ。圭くん、どうにかして」
ミイは俺の腕を引っ張って、俺の部屋に向かった。
「ミイ、スリープ」
するとミイがスリープモードに移行する。俺は、ミイを抱えてベッドに運び、寝かせる。
「もう、いつもいつも、夫婦の邪魔をして」
「子供だと思えばいいじゃないか。それに、スリープと言うだけで、寝てくれるんだ。普通の子供より聞き分けが良いじゃないか」
「それは、そうだけど…、でも、夫婦のお邪魔虫じゃない」
「でも、彩芽は今から甘えるつもりだろう」
「…うん、優しくお願い」
彩芽は俺の背中に顔を押し付けて抱き着いてきた。
俺はリビングの電気を消して、彩芽の部屋に向かう。
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