必要としなくなった少年
「悪魔さぁ、
お前って本当に変な奴だよね?」
「そうかい?」
「だって、
人間がイメージする悪魔と全然違うじゃん?
コワくもないし、
むしろ結構いい奴だったりするし、
のんびり、ほのぼのしてる感じだし……」
「なるほど」
「人間が思う善悪の判断基準も
価値観も持ち合わせていないから、
僕がいい奴ってのは
正直よく分からないのだけれど」
「まぁ、でも、
そういう固定概念をぶっ壊して行くのが、
そもそもカオス属性の悪魔なんだよね
人間が悪魔をコワイ存在として
イメージを固定させたから、
僕のような、悪魔としては型破りな
悪魔が生まれたって訳で
既成概念に囚われない自由な存在が
悪魔であるってことなのさ……」
あれから僕は、少年と何度も会っていた。
しばらくの間は、
ほとんど毎日のように顔を合わせる日が続いた。
少年と会うのは
いつも学校の屋上と決まっている。
まぁ、僕としては、
また突発的に少年が
空を飛ぼうとしたりしないか、
気が気じゃなかったけどね。
でも、最近では、少年と会う回数も
めっきり減って来ていた。
少年が絶望するサイクルが、間隔が、
次第に長くなっている。
「あいつら、もう
俺をいじめることに飽きはじめてんだよ」
久しぶりに会って
僕が食事を終えた時、
少年はそう言っていた。
やはり僕の勘は正しかった……。
あの時は、発作的に、衝動的に、
空を飛んでしまったんだろうけど
この少年は本来、
過酷な困難を乗り越えて
前に進んでいけるだけの力を持っている人間だ。
「俺さぁ、高校に入って
はじめて友達が出来たんだよ……」
「そ、そう、
それはよかったじゃない」
よかったなんて言い草、
それじゃあまるで人間みたいじゃあないか。
ちょっと僕は
自分で自分にびっくりしたよ。
既成概念に囚われない悪魔だから、
そういうことがあってもいいの、かな。
「悪魔さぁ、
いつもありがとうな……」
僕は君の絶望を
ご馳走になっていただけなんだけどね。
その時、僕は
少年との別れの日が近いことを悟った。
でも、それでいい。
僕は人間の絶望を求めてさまよう
流浪の悪魔だからね。
ひとつところにずっと居るのは
似合わない。
――こちらこそ、
今までごちそうさまでした……。
それからはもう
少年の絶望の匂いを感じることは無かった。
あの時以来、僕は少年には会っていない。
そして、最初に少年と会った学校の上空を
たまたま通りがかった時に、
僕は少年の姿を発見したんだ。
少年は友達と一緒に居て
楽しそうに笑っていた。
今の君が、そんな笑顔をしているのなら、
もう僕とは会わずにいられるだろう。
「そうか、もう君は
僕に会う必要が無くなったんだね……」
でも、これから先の長い君の人生、
もし君がまた絶望した時には会いに来るよ、
君が空を飛んでしまう、その前にね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます