ひとりぼっちにしてくれない悪魔

いじめ、ねぇ……


少年を連れて

校舎の屋上に降り立った僕は、

早速食事をはじめる……

少年の絶望話を聞きながら。


学校の屋上から飛び降りた少年は、

いじめを苦にして自殺を図ったらしい。


なんでも、

学校でイキっている連中に目をつけられ、


毎日のように因縁をつけられては

殴る蹴るの暴行を受け、

水をぶっかけられたりもしたんだとか。


そんな少年と仲良くしていると、

巻き添えをくらって一緒にいじめられるので、

他の生徒達からもハブられて

みんなに無視されるようになったそうだ。



こちらの人間が異世界と呼ぶところから

僕はやって来たのだが。


まだこちらに来てから、

それ程、時間は経っていないけど


あっちの人間とこっちの人間を比べて

はっきりと分かる違いがある。


あちらは力が支配する世界で、

人間達は目の前に差し迫る危険に、死に、

常に怯え、恐怖を感じ、絶望して生きている。


それに対して、こちらの人間は

死と隣合わせの危険を感じたりすることは

滅多にないようだが、


人間という存在自体に絶望している。

もしくは自分自身に絶望しているのだ。


同じ絶望でも随分と違うものだね。


まぁ、僕は

こちらの人間が抱いているような

繊細な絶望も好きだから、

問題はないのだけれど。



本来なら僕は

人間の子供の絶望はあまり好きじゃあない。


人間の子供はまだ精神が未成熟だからね。

それこそ青臭さが抜けないんだよ。


人間の食事に例えるなら、

青い果実を食べているようなもので


僕としては、もっと熟してから

美味しくいただきたいところなんだけど。


この少年は、もう半分大人だし、

苦労しているせいか

精神もそれなりに発達しているから、

なかなか美味しく絶望をいただくことが出来た。


まぁ、人間の食事で例えるなら、

若鶏のようなものかな。



「君はこちらの世界で言うところの

隠キャなのかい?」


更に食事を美味しくする為のスパイスを求めて、

僕は少年に問う。


「随分と、ストレートに聞くね」


「まだ、こちらに来てから日が浅いのでね、

知らないことも多いのさ」


「……うーん、どうだろう?」


「まぁ、陰キャなんじゃないかな……」


「友達いないし……

それどころか話をする相手すらいない……

いつもひとりぼっちだからね……」


「そうなのかい、僕は

陰キャってのはもっと優柔不断で、

うじうじ、ねちねちしているような人間のことを

言うもんだと思っていたよ」


「だから君の、

躊躇がない飛び降りっぷりを見たら、

陰キャじゃあないんだろうなと

思っていたんだがね」



「……悪魔ってさぁ、

君をいじめた相手に復讐してやる、

相手を殺してやるから、

その代わりに魂をよこせとか

そういうこと言うんじゃないの? 普通は」


「そういうのを望んでいるのかい?」


「うーん、どうだろう?」


「……そうでもない……かな」


もしかしたら、やっぱりこの少年は

すごい奴なのかもしれない。


「こういう時、

普通の人間ってのは

相手が憎らしくて仕方ないものさ


自分をいじめた相手が、

憎らしくて、恨めしくて、

殺して欲しいと思うもんだよ、普通に」



僕が食事を終える頃、

少年はスッキリしたような顔をしていた。


「まぁ、さぁ、悪魔のお陰で、

なんだか死ぬのが馬鹿馬鹿しく思えて来たよ

……なんで死のうなんて思ったのかなぁ」


「この先、ひとりぼっちでも

生きていけそうな気がして来たよ、

絶望を抱えながらでもさ」


「ポジティブになっているところ

水を差して悪いんだけどね、少年……


この先また

君が絶望するようなことになっても、

もう君がひとりぼっちになることはないよ……


僕に目をつけられてしまった以上は」


「僕がいつでも

君の絶望を喰らいに来るからね」


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