第6話 敵
兵助の背後を守る体制を崩さなかった佐太郎の前に六人の男が現れた。
しかし、この六人からは敵意が感じられなかった。
佐太郎は兵助の背後を守る体制から、自身の防御態勢に切り替えた。
その気配を感じた兵助は戦闘態勢を崩した。
「やはり面白いなぁ。お前さん達。」
兵助の目前には涼しい目をした男が、面白そうに兵助の顔を見ている。
もちろん兵助も相手の事を観察している。玉虫色の不思議な色をした着物を着ている。闇夜に紛れる事も、月夜に照らされて輝く事もできそうな美しい着物だった。
「敵意がないのが、わかるんかいな。」
「そういうのは、佐太郎に任せている」
兵助は正直に答えた。
佐太郎は誰が誰を嫌っていて好いているかが分かるし、言葉で言っている事が本当かどうかを感じる能力があるのだ。愛が無くとも子を作り、愛する気が無くとも子を母から取り上げる父親を持ったからに違いない。
「そうかい。佐太郎はん。悪いが、足元の男達は我等が片付けさせてもらいますけど、よろしいか?」
不思議な色の着物を着た男は兵助の向こうに居る佐太郎の背中に話しかけた。
「かまわんよ。こんなのを放火犯ですと番屋に連れて行ったら面倒な事になりそうだからな」
佐太郎は刀を鞘に納めながら言った。
言い終わる前に六人の男が、倒れている忍び装束を担いで消えた。
「助かったよ、アイツ等は逃げ足が速いさかい」
「待ってくれ」
美しい着物の男が礼を言って消えようとするのを兵助が止めた。
「あの忍び装束のかぶっていた傘に番号札が付いていた。奴等は何者なんだ。教えてくれ」
「あんさんには、教えてあげたいけどなぁ、、、面倒には巻き込まれぬことだよ」
男は苦笑して言った。
「あの番号札、どこがで見た事がある」
「あれま・・・。そうかい。あんさん名は?」
「連尺町の
「連尺町かいな。。。アレを見た気がするなら・・・、
奴らのお仲間が近くに居るっちゅうことやな。
すまんが、今日は忙しいんや。」
そう言うと、風のように消えた。
消えると同時に、兵助と佐太郎を取り囲んでいた者どもの気配も消えた。
佐太郎は、どっと全身から力が抜けて膝をついた。
「はぁ、この世の者と思えないヤツ等だったな」
佐太郎は精魂尽きたように、ようやく言った。
兵助は返事をしないで考え込んだ。
今度は止める隙がなかった・・・。
あの番号札、何処で見た? あの忍び装束の仲間が近くに?思い当たる人物がいない。
それにしても、あっと言う間に取り囲んでいた者たちが消えた。どんな訓練をうければ、あんな動きができるんだ?
美しい着物だった。京なまりだったな。
この夜に見た物、聞いた物の情報が多すぎて纏まらない。
「なぁ佐太郎、あの男、何て言った?」
兵助は肝心な事は佐太郎に聞けば良いと自然に思うようになっていた。
膨大な情報から肝心な最優先事項を佐太郎はポツリと言う。
「今日は忙しいと言っていた。忙しい、、これから本番って事か?」
佐太郎は自分自身の言葉に戦慄を覚えて跳ね起きた。
「次は何をする気だ?」
兵助の問いに、佐太郎は即座に答えた。
「忍び装束の奴等と戦った時に風上から火薬の匂いがした。狙いは、もっと風上だ」
風上にはユキの暮らす連尺町がある。その風上には中尺町と言う最近民家がふえはじめた新しい町と、その上に昔から多くの商人が暮らす大尺町が連なっている。
もしも大尺町に火が付けば三十丁の大火事と同じく大火になる事間違いない。
「戻ろう」
二人は走り出した。
「佐太郎、オレは先に店に戻る。与太郎を木から降ろしてやってくれ」
「ああ。追っかけ行く。気をつけろよ。」
兵助は速度を上げてユキの待つ家に向かった。
「無事でいてくれ。ユキ」
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