我が家で鍋をしない訳

 冬の定番と言えば鍋料理なわけですが、我が家では鍋料理をしません。似たものはするのですが、お鍋を囲んでグツグツと……みたいな事はしないんですね。具材を鍋に入れて煮たのを各々お玉で御椀によそって食べます。


 コロナ対策とか衛生的な問題じゃないんです。理由は父です。父は大食漢で早食い、でもって気が短いんです。鍋料理をして煮えると丼によそって食べるまではどうでも良いのですが、問題が二つ。


 私は血糖値スパイク対策などの糖尿病対策で初期時の初っ端でサラダボウル一杯の刻みキャベツを食べます。その時点でお鍋は煮えているわけで、親父殿はキャベツを食ってる私をさておいて酒を飲み鍋の具材をゴッソリ引き上げて食べます。


 で、私がキャベツを食べ終わりって母が御椀一杯のお鍋を食べた頃に再度具材を投入して第二陣がスタートになるのです。大食漢で早食いでも七十代に入れば食が細くなるってもんで、父は私が刻みキャベツを食べている間に酒を飲み、鍋をほとんど一人で食べたから満足してしまうのです。


 私が食べようといざ具材を煮ようとするとクソ親父の奴が「いつまで食うつもりや?」と不機嫌になります。こっちはこれから食べようってのに鍋をの締めを食べたがります。ジュルジュルしたものを啜る様に食べるのが大好きな父はおじやが大好き。おじやと言えば締めの料理。おじやをすれば当然ですがお鍋のスープは無くなります。スープが無くなると具材を煮ることができません。でもおじやにしなければ父は不機嫌になります。


 結局、鍋料理にすると親父ばかりが食べて母と私はほとんど食べないか別の鍋で具材を煮て食べるだけになってしまいます。何かスープが有ればそれを使って煮ますけど、無ければキムチ鍋であろうがもつ鍋であろうが水炊きになってしまいます。だったら最初から大鍋で具材を一気に煮て各自よそって食べれば良いとなりまして、我が家では卓上で煮て食べる鍋料理は平成二十九年度を持って廃止されました。


 平成三十年度及び令和元年度は比較的暖冬だったため鍋料理の出番は少なかったんですが、令和二年~三年にかけて寒波が来ました。となればクソ親父が「お鍋食べたいお鍋食べたい」の繰り返し。母と私は意地になって鍋料理を拒否しています。今日も大鍋で似た鍋の具材を各自で碗によそって食べました。


 具が残っているからおじやはしないだろうと思っていたら、なんと汁をどんぶり飯にブッかけて汁飯にして食ってました。何たる『味がついた柔らかいご飯』に対する執念。


 じゅるじゅると汁かけ飯を食べる父を見た私と母は只々呆れるのでした。

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