夜警にて
今年も残るところ数日、年末恒例の夜警の時期がやってきました。自警団員が集会所に集まって、夜中に地域を回って火災予防を促す行事です。例年なら二〇時・二十二時・一時・三時の計四回地域を回るところですが、今回はコロナ禍で二十一時集合の一時に解散する時短夜警になりました。
基本的には全員で夜警をするので普段来れない(可搬ポンプの点検が日曜なので)団員も集まります。地域を巡回する以外の時間はお菓子を食べながら世間話をしたり雑誌を読んで時間をつぶしたり。年に数回しか会えない団員との親睦も兼ねてるわけです。
で、久しぶりに会った団員との会話。
私「自警団を辞めるって聞いたけど、どうしたん? 忙しいん?」
団「ん~、仕事って言うか企業理念を考えたり自己啓発のセミナーに出たりで忙しいねん。ボランティアもしたいし婚活もしたいし、まずは自己を高めたいと思ってるんや」
この団員さんは災害や火災の現場で舞い上がる人でして、自分は良かれと思って動いてるのでしょうが、やってることが頓珍漢で周囲に迷惑がられている人です。
私「ふ~ん、いろいろやってるんやなぁ……忙しい事で」
団「うん! めっちゃ忙しいし自分を高めるのにいろんな勉強をせなアカンねん」
実はこの団員さん、自営で製造業をしておられるのですがコロナ禍の影響で春から全然仕事が無いとご近所でも噂です。この人の工場が動いてないのは京も知ってます。只でさえ先行きが怪しい仕事なのにコロナ禍で大ダメージ、その団員も何か月か前、仕事中に腰かどこかの骨を折ったそうです。しかも社長(親父さん)が体調を崩しています。自分で言うのも何ですが『忙しい事で』は皮肉です。怪しい自己啓発セミナーや宗教じみた発表会よりも仕事を探してくるのが先だろって意味を込めた皮肉です。ところがこの手の人は皮肉って解ってくれないんだ(苦笑)
私「従業員を抱えてるのに大変やな、怪我(腰の骨折)もしてるくらいやし職場環境も整えなアカンなぁ。まぁ私生活は充実してるとして仕事は順調なん?」
団「ん~っと、春から全然仕事が無くて、最近になって急に注文が来て納期が大変なんや。僕も怪我をしたし、従業員さんも辞めたし……」
彼の工場が危ない状況なのは業界内で有名です。よく「次の代はどうかな?」って言われるところがあるでしょ? 私だけじゃなくて彼を知る者は「あいつが継いだら終わり」と言っています。
私「そうか、コロナは痛かったもんなぁ。従業員さんを切ったか」
団「ううん、切ったんじゃなくて辞めはってん」
職人の高齢化が著しい業界です。やる気が有っても高齢ゆえに職場を離れる職人さんが多いのです。
私「ふ~ん、まだ引退するような感じには見えんかったけど……」
団「なんか不満が溜まって爆発したんかなぁ、喧嘩したんじゃないけど蹴られてしもて、ほんで骨折したんやー」
私「警察には言うた?」
団「ううん、いつも『お金が無い』って言ってたから可哀想かなって」
傷害事件です。ところがこの若旦那は警察を呼ばず、なぁなぁで済ませてしまいました。
私「そうか~じゃあ自警団どころやないで。職場理念を考えて、自分を高めて勉強してセミナーに出てせんなんやん。個人的な見解やけど自警団は辞めざるを得んのと違うかなぁ。周りは引き止めるかもしれんけど、俺はアンタの思いを大事にしたいわ」
本音を言わせてもらうと「ウダウダ言うてんと辞めてしまえ!」です。私なりに精一杯オブラートに包んで伝えてみました。多分伝わっていません。
団「うん、ありがとう! 自警団を辞めて自分の道を頑張るわっ!」
実は夜警の直前に偉いサンが集まって「精神的に不安定、奇行も目立つ。現場では迷惑で周囲の状況への視野が狭い。もう辞めてもらったらエエねん」って言ってたのを聞いています。盗み聞きをするつもりは無かったんですが、茶の準備でもしようかと少し早めに集会所に行ったら聞こえてしまいました。
私「うん、○○さんやったら出来る……だから気にせんでエエよ」
常に暴走して周囲を困惑させ、時には周囲を危険に巻き込み、同年代からは距離を置かれて若い団員から鬱陶しがられている人を上手く調子に乗せました。
……と言う事です。
『暴走する人』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054935740370/episodes/1177354054935741893
暴走する人は自警団を離れることになりそうです。
※どうやら辞めたみたいです。SNSで『入っていました』と書いてました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます