第3話 大攻勢(1)

 夜もそろそろ半ばを越えようとしていた頃、兵学校に、天使の出現を知らせる警報が鳴り響く。

 そしてそれと同時に、非常呼集を告げるラッパの音が響いた。


 スオウたち普通科四年生人は、ラッパの音を聞くやいなや飛び起き、急いで着替えてそれぞれの宿天武装を持ち、集合した。他の兵科に所属する生徒たちも同様である。この間、わずか五分であった。

「聞いての通り、天使が現れた。第四警戒班からの報告によると数は約二五〇、まっすぐ兵学校ここに向かっている」

 抵天軍第一管区兵学校は、先日の大規模攻撃の後、防衛計画の練り直しを行った。以前まで四班、二十人が当たっていた夜間警戒任務を八班、四十人に増やし、東西南北、及びそれぞれの中間の方向に、北から時計回りに第一〜第八警戒班として配置した。この任務は全班が交代で行っている。

「良いか、わかっているだろうが、これは訓練でも演習でもない。以前のように、この学校には指一本触れさせるな!」

『了解!』

 教官の言葉に対して、全員の返答がこだました。



 同時刻、第四警戒班の陣地。

「まさか南東方面から来るとはな……あっちにあるのはローマやらフィレンツェやらの大都市だろ? そんなところから天使が来てたら、もっと大騒ぎになっても良いものだが……」

 今日の第四警戒班の班長、フォルカー・ツックマイヤーが望遠鏡で天使の軍勢を視認しながら呟く。

「報告もないってことは、本当にまっすぐ兵学校に向かってるってことか?」

 その後ろで、木にもたれて座り、肩に槍を立て掛けた学生が言った。

「いや、それどころか、街よりも兵学校こっち側に出現して侵攻してきている可能性もある」

 フォルカーは双眼鏡を覗きながら、冷静に答える。

「それなら、完全に俺たちをピンポイントに殺しにかかってきてるな……兵学校にはもう連絡済みだよな?」

 槍を持った学生が立ち上がり、そして後ろに振り返って尋ねた。

「もちろん。多分そろそろ出発した頃じゃないかな」

 一人の女子学生がうなずいて返答する。


「……そろそろ静かにしろ。気取けどられるぞ」

 侵攻する天使の軍勢が二百メートルほどの距離まで近付いてくると、フォルカーが静かな声で言った。その場にいた二人はお互いを見たあと、黙ってうなずいた。

『フォルカー、やっこさんたちがそろそろ俺たちの前を通るが、撃っていいのか?』

 同様に静かな声で、無線が入った。

「やめろリッカルド、俺たちには待機命令が出てる。あいつらがこっちに押し寄せてきたら対応できないぞ」

 フォルカーは、先走って狙撃を試みようとしたリッカルドを制止する。

「……それもそうだな。了解した」

 リッカルドはそう返答して、通信を切った。


『こちらノエル・フォルタン。第四警戒班、現状報告を頼めるか』

 無線機から教官の声が聞こえた。フォルカーは無線機を取り、天使に聞こえない程度の音量に抑えた声で応答した。

「こちら第四警戒班。現在、我々から約二百メートルの地点を天使が通過中。飛行しているものは無し。数は依然変わらず。進軍速度から推測するに、あと三十分もしないうちに兵学校に到着するかと」

『了解した。先程、こちらから普通科四年生を向かわせた。お前たちはそのまま警戒と観測を続けてくれ』

 フォルカーが報告し終えると、教官はそう指示を出した。

「了解」

 フォルカーは返事をして通信を終了する。



 兵学校は、二一〇人、四二班を七小隊に分け、そのうち第一から第四小隊の、四個小隊を迎撃に充てた。

 スオウたちの班は、臨時第二小隊に入ることになった。

 スオウたち第二小隊は、各班の班長を先頭とする形で街道沿いに走る。

「……よし。この辺りで別れよう」

 臨時小隊長の、エーミル・レヒコイネンが周囲を見回し、地図を確認してからそう言った。

「狙撃組は任せたぞ、エルンスト」

 エーミルはライフルを携えた班長、エルンスト・ゾンダーハに向かって言った。

 彼の後ろには、臨時第二小隊に所属する狙撃手たち六人が並んでいた。

「任された。お前たちも気をつけろよ」

 エルンストが胸を叩いてからそう言うと、スオウたちはそれぞれうなずく。


 そして第二小隊は二手に分かれた。三十人のうち班長二人を含む、狙撃手六人、及び護衛兼観測手七人の十三人と別行動を取ることになったエーミルやスオウたち十七人は、再び街道沿いを走り出す。

「このまま行けば、あと五分もしないうちに奴らと正面からかち合うことになる。遭遇戦の用意を頼む」

 走りながら、エーミルが全員に指示を出す。

「俺たちが先陣を切って、お前たちがその支援をする形で良いんだな?」

 スオウが、彼に任された九人を見てからエーミルに向き直り、尋ねた。

「ああ。それで頼む……ところでスオウ、宿天武装の調子は大丈夫か?」

 エーミルが返答すると同時に、質問をした。

「ああ。受け取ったあとに稼働テストと実戦テストもしたし、状態は万全だ」

 実は、稼働テストを行った一週間後に再びシュタイベルトが兵学校を訪れ、今度は実戦も想定したテストを行っていた。そこでも整備を行っているため、状態は万全だと言えよう。


――ッ! 気付かれたぞ。五体がまずこっちに向かってきてる。接触まであと四十秒ってところか。

 アザゼルが突然そう告げた。

「了解……! みんな、戦闘態勢に!」

 スオウが叫ぶ。当然ながら、アザゼルの声が聞こえるのはスオウだけであるが、他の十六人は状況を察してそれぞれの武器を構えた。

――……さらに十五体を確認。数的には不利ですね。

――その後ろから十五体が来ているな。まあ、お前なら余裕だろ、スオウ?

 エーミルの契約悪魔とアザゼルが同時に、しかし真逆の調子でそう言った。

「合わせて二十体か……こちらは十七人、対応できない数じゃない。みんな、行くぞ……!」

「……三、二、一、散開……!」

 エーミルが小隊のメンバーを鼓舞し、スオウがカウントと共に指示を出した。そして、十七人が動き始めるのと、天使が彼らのもとにたどり着いたのはほぼ同時だった。



「ふっ……!」

 スオウが息を吐くような声を出して剣を振りながら駆ける。

 その剣先は瞬く間に、先にやってきた天使五体を切り裂いた。

「はぁ……っ!」

「せやぁ……!」

 ヴィルヘルムとベルトランがそれぞれ声を上げて大剣を構え、わずかに遅れてきた天使たちに切り込んだ。


 今彼らが戦っている場所は、かつては畑が広がっていたという荒れた平地で、遮蔽物が少ない。それゆえ、姿を隠すものがない上に叫び声を上げれば、当然全ての天使たちに気付かれるわけだ。

 異常に気が付いた天使たちが方向転換して速度を上げ、スオウたちの方へと飛んできた。

 前列の天使たちが腕を振ると、何もなかったはずの空間に何本もの尖った棒、矢のようなものが数十本生成され、スオウたちをめがけて射出された。それらは非常に速く、一二〇メートルはあった距離を二秒もかからずに飛行してきた。

「させない……!」

「落ちろ!」

 ナターリアともう一人、スオウとは別の班の班員である、シャルル・プラスローがアサルトライフル型の宿天武装で弾幕を張り、飛んできた数十本の矢を次々に粉砕した。

 しかし、それ以上のペースで飛来する矢に、二人の処理速度が追いつかないようになってきた。今はまだ二人に撃ち漏らした矢を、周囲に控える七人が処理しているが、そちらにも天使が向けられるようになり、かなりギリギリの状態だ。


『みんな、援護するぞ!』

 突然、無線機から声が聞こえた。近くの高台に移動した狙撃手を率いていた、エルンストの声だ。

 そして、無線機の向こう側で指示を出す声が聞こえ、その直後、一斉に放たれた六筋の弾丸が、前列で矢を飛ばしていた天使たちのコアを貫いた。

「ありがとう、助かった……!」

 シャルルが無線機に向かって、叫ぶように礼を言った。その間も銃口は天使たちを捉えていた。



「やあっ……!」

 スオウが上段に構えた剣を振り下ろし、眼前に迫った天使を両断する。

「はあ、はあ……」

 周囲を見ると、それぞれが息を切らせながら戦っている。スオウたちは体力の大部分を消耗していた。

 最初の二十体を倒した直後に、針路を転換した天使の本隊との戦闘になだれ込んだのである。


 約二百体の天使たちが十七人を攻撃し始めてから十分が経過した。第二小隊は飛び抜けて移動が速かったために、他の小隊の到着が遅れている。

――天使、残り一〇三体。半分以上は、削りました……。

 ある学生の契約悪魔が言った。

――……あと百体だが、お前たちは消耗しすぎだ。退がった方がいい。

 またある学生の契約悪魔が言った。

 一人ひとりが戦った天使は、数で言えば大したことはない。だがしかし、個々の天使が強力だった。新しい形の天使はいなかったが、教本にも出てくるような、過去に抵天軍が苦戦を強いられた天使が大量に投入されていたのだ。

 そんな天使と、未だ学生であるスオウたちが戦えば、消耗させられるのも道理だろう。むしろ、過去に抵天軍兵士を蹴散らしたという天使たちと正面から対峙して、ここまで持ちこたえたのが奇跡的なのだ。

「撤退、できるなら、とっくに撤退してる……っての……!」

「俺たちの任務は、奴らを、兵学校に近づかせない、ことだ……だから……俺たちは、退けない……!」

 撤退を進言された学生がスオウとエーミルに伝えると、二人は口々にそう言って、膝をついてしまっていた体に、再び力を込めた。

 この二人に影響されたのか、他の十五人もまた、それぞれの宿天武装を握り直した。


 顔を上げたスオウの眼の前に、天使が迫っていた。

 予想以上の速さで詰め寄ってきた天使の姿に、スオウは目を見開き、ほんの一瞬、硬直した。

スーニカスオウ……!」

 ナターリアが叫び、銃を構えた。が、射線の上にスオウがいるためにすぐには撃てない。

 ナターリアは歯噛みして走り出した。しかしそれでは対応が間に合わないだろう。スオウも剣を構え直そうとしたが……。

「ぜっ……ああ……!」

 間一髪、スオウが振り上げた剣が間に合った。


 しかしながら。

「スオウ、後ろ!」

 ヴィクトールが走り出すと同時に叫んだ。

「ッ……!」

 目先の天使に集中していたスオウは、後ろから迫っていた十数体の天使に気が付かなかった。

 狙撃手の六人がスオウを守ろうと射撃するが、その天使たちは速かった。弾に当たったのはわずかで、それも全て致命傷には至っていない。

――少し、出力上げるぞ……!

 アザゼルがそう言うと、スオウの体に流れるエネルギーが増加した。

「はっ!」

 スオウは地面を蹴った。彼の体は空中に浮かび、そして迫ってきていた天使たちの後方、約十メートルに着地した。

 天使たちは一瞬だけスオウを見失ったが、すぐに体を反転させ、再びスオウ目掛けて飛んできた。

 スオウは「今度は止める」という意思を持って剣のグリップを握る手を力ませた。


 天使たちがスオウに迫る。

 その間にもナターリアやヴィクトールたちが攻撃をして、少しずつスオウに向かう天使の数が減っていった。

 残り八体……しかしその奥には、さらに天使たちの増援部隊の姿が見えた。

 他小隊あいつらはまだなのか……! スオウは心中で叫び、天使と対峙する。

 すると、天使たちが偶然にも――対象は同じなのだから必然かもしれないが――横並びになった。


 そのとき、天使の本隊の側面、それもスオウたちから見て向こう側から、一本の槍が

 その槍は八体の天使たちのコアを正確に貫き、そして地面に突き刺さって折れた。貫かれた天使たちは、同時に消滅した。

「これは……!?」

 予想外の出来事に、エーミルやヴィルヘルムが目を見開いた。

 槍の飛んできた方向を見ると、何やら土煙が上がり、誰かが、複数の人間が天使と戦う音が聞こえてきた。

「こんな芸当ができるのは……間違いない。臨時第一小隊の、エーディット・オルヘルスだ……!」

 ヴィクトールが槍を見て、予想とたがわぬものであることを確認してから言った。

「やっと到着か……やけに遅かったじゃないか、エリーゼ……!」

 エーミルが、独り言のように呟いた。エリーゼとは、臨時第一小隊長、エリーゼ・アルトマイヤーのことである。



 時間は少し前にさかのぼり、臨時第一小隊。

 第二小隊から遅れること約二五分、彼女らも天使と戦闘状態に入った。

「エリーゼ、第二小隊見つけた!」

 戦闘のさなか、エーディットが槍を振るいながらそう言った。

「了解……! 今、状況は、どんな感じ?」

 エリーゼは同じく剣を振るいながら応えた。

「良くはない、だろうね……!」

 そう言いながらエーディットは、正面から迫っていた天使を一突きした。

「ふうっ……特にスオウ・アマミヤ君がマズいことになってる。助けなきゃ」

 エーディットは槍を構えたままエリーゼに振り向き、言った。

「やれそう?」

 エリーゼはただ一言、尋ねた。

「難しいと言えば難しい……けど、やれないことはない……いや、やらなきゃいけないでしょ」

 そう言ってエーディットは、槍投げの体勢になる。

 望遠魔法を使って狙いを定め、天使が良い位置に来るまで待つ。

 そしてその数秒後、エーディットは短く発声した。

「……今! 届けええぇ……!」

 そして彼女の契約悪魔から供給されるエネルギーのほぼ全てを運動エネルギーに変換し、込められる最大の力を込めて、投げた。


 投擲とうてきされた槍は、分散を始めた天使たちを蹴散らしながら飛んでいく。そして、エーディットが予想した通りのタイミングで、スオウに迫っていた天使たちを貫き、消滅させた。

「はあ……はあ……感謝、してほしいね……スオウ、アマミヤ君……」

 出せるだけの力を出し切ったエーディットは膝をつき、息を切らせながら言った。

「エーディットはもう下がっていて。ここからは私たちが片付ける」

 宿天武装を投げたため武器を失ったエーディットは、渋々ではあるが戦線を離脱した。

「……第二小隊! 先行していた第一小隊を救援、援護するよ!」

 エリーゼはエーディットが戦場を離れたのを確認してから、全員にそう言って走り出す。小隊の面々はそれぞれ肯定の返答をして、その後を追いかけた。


「みんな、遅くなってごめん……! 第一小隊、戦闘に加わるよ!」

 エリーゼが無線機に向かって言う。

『理由は後で聞かせてもらうとして……援軍、感謝する。天使の増援が来てどうしようかと思ってたところだ』

 エーミルが迫りくる天使をいなしながら返答した。

 ちょうどその頃、エリーゼたち第一小隊が天使の本隊と交戦を開始した。



『第四警戒班より兵学校、天使の増援が出現! 数は一五〇、位置は、第二小隊の前方三百メートル……!』

『第七警戒班から兵学校。天使、一五〇体の出現を確認。別働隊と思われます……!』

 兵学校の教官、ノエルのもとに、二本の連絡が同時に入ってきた。配置場所から判断するに、それぞれ別の天使のことを指しているのだろう。

「兵学校から第七警戒班。予定通り、第三、第四小隊を至急そちらに回す。少し待っていろ」

 教官はまず、西に配置された第七警戒班の連絡に応えた。そして急いで無線機を持ち替える。

「兵学校から第一、第二小隊。第三、第四小隊を別方面に回す。すまないが、天使の増援部隊の対応を頼む……!」

 返答を聞いた教官は、第三小隊、及び第四小隊に連絡してから、無線機を置いた。現在、普通科の学生たちに指示を出しているのは、最高指揮権を移譲されたノエル一人である。他の教官数名は連絡のために学校中を走り回っている。

「くっ……思ったよりも奴らのペースが速い……なんとか頑張ってくれ……」

 自分が前線に出られないことに悔しさを覚えながら、彼女は学生たちに向かってそう呟いた。



『すまないが、天使の増援部隊の対応を頼む……!』

 エーミルとエリーゼの二人は、教官から告げられた言葉に肯定の言葉を返した。

「これで、合計五五〇体か。あっちも本気だな……」

 それを横で聞いていたスオウはそう呟いた。

「そうだね。でも、私たちに負けてあげる義理は全くない。必ず殲滅するよ」

 エリーゼはそう言って、第一小隊の面々と共に天使の増援部隊に突っ込んでいった。


「あっちは一旦あいつらに任せて、本隊は俺たちで片付けるぞ、スオウ」

「わかった……アザゼル」

 エーミルの言葉を聞いて、スオウはアザゼルに呼びかけた。

――なんだ?

「もっと、出力上げられるか?」

――いけるぞ。お前の体には慣れたからな。この前のようなことにはならないと保証しよう。

 スオウの端的な問いに、アザゼルはそう答えた。そして次の瞬間、スオウは自分の体にエネルギーが押し込まれるような感覚に襲われた。アザゼルがスオウの求めに応じたのである。

「ぐっ…………行くぞ……! 天使の本隊を殲滅する!」

 スオウは十六人に向かって叫び、そして地面を力強く蹴って駆け出した。



 第一小隊の到着によって勢いを取り戻した第二小隊はまず、彼らと対峙していた天使たちを押し返した。

「はああぁぁー!」

 スオウが剣を振り下ろし、最後の天使の頭から両断する。

「よし……あとはあっちだな」

 それを見て、エーミルが第一小隊と戦っている天使たちに視線を移して言う。

「大勢は決した! これより、第二小隊は殲滅戦に移る!」

 エーミルは第二小隊全員に向かってそう言った。

「了解……みんな、行くぞ!」

 スオウは、彼が率いていた学生たちが本調子に戻ったのを確認してからそう呼びかけ、そして移動を開始した。


「終わりだ……!」

 大剣を持ったベルトランたち四人が剣を振り回し、広範囲に渡って天使たちを薙ぎ払う。

「やあぁぁっ!」

「せあぁ……!」

 その隣では、槍を構えた二人が息のあった動きで天使を翻弄しつつ撃破していた。

 そこから少し離れた場所では、ナターリアとシャルルが、お互いの弾に当たらないギリギリのところで動き回り、次々と天使のコアを撃ち抜いた。


 少し前にエーミルが言ったように、南東方面の戦闘はすでに決着しようとしていた。エリーゼ率いる第一小隊が突撃を敢行し、天使たちの勢いは完全に衰えていた。


「……教官、南東の天使、殲滅完了しました」

 エリーゼが周囲を見回し、天使がいなくなったことを確認してから無線を入れた。

『そうか……! フォルタン少佐!』

 無線を受け取った教官は喜びと驚きに満ちた声でそう言って、ノエルを呼んだ。

『やってくれたか、みんな……すまないが、お前たちを労っている暇はないんだ』

 ノエルは一瞬だけ嬉しそうだったが、すぐに声の調子を落として続けた。

『西に向かわせた第三、第四小隊が危ない。兵学校に待機させていた第五、第六、第七小隊を増援として送ったが、兵学校の守りが手薄になる。お前たちが消耗しているのは重々承知しているが、すぐに兵学校に戻ってきてくれ』

 エリーゼと、同じく無線を聞いていたエーミルが返答すると、ノエルは通信を終えた。

「みんな、すぐに兵学校に戻るよ」

 エリーゼが、その場にいた全員に伝える。

「事態はまだまだ収束してくれないみたいだな……」

 ベルトランが、すっかり上がってしまった息を整えながら呟く。

「やっぱり、一筋縄では行かないね……」

 ヴィクトールも、体についた土を払いながら言った。

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