二次元ぶりのディストピア
@mintleaf23
第1話
―新しいプロトコルを構築します。
―プロトタイプA B C
― 動作完了
-error
―異常が発生。
―認識できません。
―異常が発生。
―認識できません。
-サブシステム構築完了
―この異常を無視します。
-OK
-OK
「みんな、あっりがとー!」
「星那ちゃあああああん!!」
絵に書いたようなライブを終え、彼女は光と歓声に包まれた会場を駆け抜けていた。
暁月星那。史上最強のアイドルである。
可愛いと美人が合わさった、絶妙に整った顔立ち。スラッとした、細すぎない手足。歌唱にダンス。圧倒的に上手いという訳ではない。ただただ、魅力的なのだ。
会場には駆け出しの頃からのファンから、若い男女に親子連れ。かなり年配と思われる客の姿も見られる。
みんな、夢を見ていた。やけにリアルな夢を。こんな素晴らしいことが、現実にあるとは思っていなかったからだ。
しかし、これが現実だった。現実が、夢を超えてきているのだ。
熱気のおさまらないステージを後にし、星那はこれまでの人生でやってきた仕事を数えていた。
アリーナ、ドーム、武道館。ネット配信、ファンクラブ。CM、撮影、バラエティー。
ドラマや舞台は、あんまやってないけど。
すでにアイドルとして、最大限の成功を収めていた。
星那にできないのは、その幸せを受け止めることだけだった。
(アイドルって、なんだろう?)
星那は時々、そう思うことがあった。
元々、アイドルに憧れてなったわけではない。
うまくいくほど分からなくなる―もしかしたら、贅沢な悩みなのかもしれない。
「星那ちゃん、お疲れ様!」
「最高だったよ!」
バックステージに戻った途端、マネージャーやスタッフ、いろいろな声が飛んでくる。
通路に入ったところで、バックダンサーのタバサと鉢合わせる。
長い黒髪に褐色の肌。筋肉質な抜群のスタイルが目に入る。
「お疲れさまです」
先に星那が言うと、彼女はほんのりと笑みを浮かべた。
「お疲れさまです。素晴らしいステージでした」
相変わらず流暢な日本語である。
手を差し伸べられて、星那も彼女に手を伸ばす。
タバサの手に星那の手は触れたが、星那の手にタバサの手は触れることはなかった。
「それでは、失礼します」
タバサは向きを変えると、壁をすり抜けて楽屋へと戻っていった。
(CGなのに握手したいだなんて、変なの)
星那はしばらく、彼女が消えていった壁を見つめていた。
科学技術の進歩により、世界は2次元に近付くのではなく2次元を近付ける方向へと進んだ。
街中にはCGによって作られた人達―通常そのままCGと呼ばれる―が歩き、まるで普通の人間であるかのように生活を送っていた。
それは人間が操作している場合もあれば、システムによって自動で動かされている場合もある。
オリジナルのモデルからアニメのキャラクターやモンスターまで姿は様々で、少し前に比べて随分街が賑やかになったものだ。
今回のライブでバックダンサーを務めたのも、全てCGによって合成された人達である。
もちろん実体を持たないため物に触れたり持ち歩いたりすることはできないが、「一定の意志を持つ存在」として、そういった意味で実在するものとして扱われている。
おかげで数年前に大阪で行われたオリンピックも、新型ウイルスが流行したにもかかわらず会場にCGで合成したキャラクターや世界の歴史に残る偉人達を招待して客席を埋めることができた。
その後なぜかウイルスにハッカ油が効くことが分かって、流行は収束を迎えた。科学の世界はいつだって不思議だ。
今回の星那のコンサートも、客席が空けばCGさん達を招待する予定だったのだが、ありがたいことにその必要はなかった。
(そっか、明日からだっけ)
そこで星那は思い出した。明日から新しい法律が施行され、社会の仕組みが変わるのだ。
「CG・及び創作物保護法」―それが新しい法律の名前だ。
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