1__夕弦

学校指定の制服に腕を通して、行ってきますの声とともに玄関を開ける。

私_雨宮あまみや 夕弦ゆづるはまだ誰も歩いていないような時間に家を出て、通い始めて2年目となる中学に向かう。

まだ誰も吸っていない校舎の匂いに深呼吸しながら教室に向かう。

扉を開けて、席に着いて、本を開く。

毎日それを繰り返す。

朝早く来るのにはそれなりの理由があるけど、誰も知らない私だけの秘密。

しばらく本を読んでるとパラパラと人が到着し始める。

「夕弦おはよ!」

「おはよかなで

奏は私の幼馴染。

幼馴染である彼女でさえも私の秘密を知らない。

「1限目なんだっけ?」

「国語」

ロッカーに取りいこ!なんて手を引っ張られて半ば引きずられながら廊下に出る。

はぁーめんどくさい。

少し意識を集中させればたくさんの声が聞こえてくる。

「今度遊び行こうよ!」

_『仲良くなりたい』

「予定分からないからまた言うね!」

_『そんな仲良くないのに遊び行くとかめんどくさ』

たくさんの声が耳と頭を駆け抜けていく。

私はなんでか、少し集中すると周りの心の声が聞こえる。

集中しなくてもイライラしたりメンタルが不安定になったりすると強制的に聞こえてくる。

普通の人になりたかったなぁ……なんて何度願ったか。

「考えるのやめよ」

ロッカーを勢いよく閉めて奏の元に進もうとすると、思いきり人にぶつかった。

その拍子に手に持っていた教科書が足元に落ちる。

「ごめんなさい」

「こっちこそ」

ありがとう、と教科書を受け取るとその人はそのまま人の波に消える。

「夕弦、大丈夫?」

「平気。むしろ向こうに申し訳ない」

謝ってないなぁと思いながら教室に入る。

あんな人いたっけ、なんて頬杖をつきながら考える朝のSHR。

「本日は委員会がありますので、忘れないように参加してください」

今日もつまらない1日が始まる。

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