第03話 妹の変化
そして、中学に進学して間もなく、ライトノベルの世界に心を囚われた僕は、インターネット上の小説投稿サイトに自作の小説を投稿するようになった。
「はぁ……また1話だけ読んでブラウザバックか……」
つい独り言を漏らしてしまう。そう、僕の小説は人の目を滑らせる能力を持っているようで、一見さんを一見さんのまま帰らせてしまっているのが、アクセス解析から如実に見て取れた。だが、1件だけ書かれた感想が、僕の創作意欲を後押ししてくれていた。
「ミナト先生、こんにちは。私は先生の作品のファンです。先生が繰り出すどこまで本気なのかわからない目まぐるしい展開は、いつも私を楽しませてくれています」
ミナトは僕のペンネームだ。本名をもじって「(アマ)ミナ(オ)ト」と名乗っていた。そんな僕に寄せられた、今考えて見れば貶してるんだか褒めてるんだかわからない感想は、「ファンです」のひとことで僕の心をすっかり支配してしまっていた。その読者がどんな人なのだろうと想像してニヤニヤしてしまう、それが僕の心の支えだった。しかし、僕の作品は書けば書くほど陳腐なものに思えてくる。「なんか違うんじゃないかな」そう感じ始めていた僕が中学2年生になって数日後、なんと中学1年に上がった妹が久々に話しかけてきた。
「ねえ兄さん、かくれんぼ……しよ?」
成長して落ち着いた雰囲気を醸し出す妹からの突然の誘いに、僕は戸惑いながらOKを出す。カウントを終え妹を探し始めた僕は、数多ある部屋の扉を開く度に、妹と遊んだ記憶が蘇るのを感じた。だがその日、家の中を一日中駆けずりまわった僕は、ついぞ妹を見付けることができなかった。そして、次の日朝食のテーブルに顔を出した妹は、それまでかけていなかったメガネをかけていた。
「目、悪くなったの?」
「前からだよ……」
その会話を最後にその日は、いや、それからずっと、妹と会話することはなくなった。それからしばらくして、僕は小説を書くことに限界を覚える。いや、飽きてしまったのだろう。原稿に向かっても一文字も書けない日々が続いていた。そんなある日、隣の部屋から
「だから、
「しかし
「そういうことじゃないのっ! なんでわからないかな……?」
「そう言われましても、
「え……何やってんの? いや、それはないわー……っていうか
「……それはそれは、盲点でした。では逆に、洗濯に使っている水が、
「わっけわかんない……そんな屁理屈言ってる暇があったら、私なんて無視してさっさと洗濯すればいいじゃない」
「
「……ごめん、
その時の
その頃、あっさりと小説を書くことを辞めた僕は、持て余した時間を様々な趣味に使うようになっていた。そして、それは僕が自室で筋トレをしている時の話である。
「
「え、そんなにうるさかった?」
「私はそうは思いませんが、
「そうか、勉強の邪魔をしちゃ悪いか……」
しかし、僕は
また別のある日、ゲームプレイ動画の視聴にハマった僕は、自分でもその真似事をしようとしていた。ネット通販で録画に必要な機材を揃え、マイクを前にコントローラーを握る。意を決しての収録、しかし、それを公開する前に
「
不思議なことと言えば、
「いやいや、防音設備も買ったんだし、そんなバカな……」
「
そのまたある日、僕はDTMで作曲を始めた。適当に音を並べているだけでも、それっぽいメロディに聴こえてくることに楽しみを見い出す僕。しかし、数時間後にはやはり
「
「また
「はい、ヘッドホンから音漏れしていてうるさいと……っ……」
「えー……」
彼女も今回ばかりは半笑いを浮かべている。しかし、笑いをかみ殺して続ける言葉には新たな展開が用意されていた。
「
「そ、そうか……でも何でいつもいちゃもん付けてくるんだろう……」
「わかりません。ただ、学生という身分でありながら、勉強もせずに日がな一日パソコンに向かっている
その後も何か始める度に
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