20

「わしが死んだと皆に思わせたのは、力を制御できなくなってきたからじゃ」

おじいちゃんは開口一番にそう言った。アールグレイの風味がふわりと口の中に広がった。

屋敷にいると、おじいちゃんは自分の力が大きくなりすぎるらしい。

「でもどうして死んだと思わせる必要があったの?」

兄が尋ねる。

「旅に出る、とか、色々言いようはあったでしょ」

「ばあちゃんに心配をかけないようにしたかったんじゃよ」

おじいちゃんは、おばあちゃんの方を向きながらそう言った。

「死んだことにすれば、ばあちゃんもわしのことを気にせずに新しい生活を送れるじゃろうて」

すると、あろうことかおばあちゃんはおじいちゃんをぶった。

「そんなわけないでしょう! 全く、私がどれだけ悲しんだと思ってるの」

おばあちゃんの大声をあげる姿は初めてだったので驚いた。

「じゃ、じゃあ、アリスちゃんがおじいちゃんを殺したってのは、嘘?」

姉が恐る恐るきいた。

「誰がそんなことを言ったんじゃ。アリスちゃんは全く関係ないぞ」

全員の肩の荷が、一気に降りた。

「「アリスちゃん、ごめんなさい」」

二人は私に土下座をする。

「本当にごめんなさい。許してもらおうだなんて思ってないけれどせめて謝らせてほしい」

「ごめんなさい、アリスちゃん。でもアリスちゃんのことを思って、やったことなんだよ」

私は小さく頷いてから、二人の頭を手で押さえた。二人の顔が地面につく。

「その件に関しては、これからいーっぱい、たっぷりと借りを返してもらうから」

「ひい、アリスちゃん怖い!」

私はおじいちゃんの膝の上に乗った。

「おじいちゃん」

「ん?」

「もうどこにも行かないでね」

おじいちゃんとおばあちゃんは、幸せそうに笑ったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る