道の商人

栗頭羆の海豹さん

第1話

「良い湯だな〜」


「本当に良い湯ですね。シルク様。」


 シルクと呼ばれたオークみたいな体格の中年が温泉に浸かって安らんでいた。

 その隣にはエルフの青年が酒瓶を持ちながらシルクに酌をしていた。


「あぁ、ここの開発も済んだし、前手に入れた竜の素材を使って魔剣でも作るか・・・」


「シルク様、少し休んでください。」


「何言ってるんだ?休んでいるだろう。」


 シルクは不思議そうに言った。

 エルフの青年は何言ってんだコイツ。と言う風にシルクを見ていた。


「いや、シルク様、休日は研究棟に篭って徹夜で魔道具開発や武具開発しているじゃないですか?それで休んでいるって・・・・・」


「良いんだよ。俺は美味しいものを食べて、悩みもなく寝て、好きなものを作れるそんな人生でいいんだよ。」


「世界一の商会の副会長が何言っているんだ?」


 エルフの青年と話していると全裸にコック帽と言う変態的な格好の少年が温泉に入って来た。


「ステークさん。仕込みは終わったんですか?」


「うん?パワーもいたのか、気づかなかった。」


「いい加減、コンタクトに切り替えろって言っているのにお前は全然メガネのままだな。」


 シルクと隣に座っていたパワーと呼ばれたエルフにステークが気づかなかったのはこの少年が裸眼では全く見えない視力をしている為だった。


「だって、怖いじゃん。」


「子供か!お前、俺と歳そんな変わらないだろ!」


「初見じゃ、分かりませんよね。ドワーフの人って。」


「若作りが一番上手いエルフがそれを言うか。」


 こんななりであるステークはこれでも妻子持ちの中年である。

 ドワーフの中でも更に幼く見えるステークの実年齢を初見で当てれたのは未だにシルクただ一人である。


「それよりこれでこの温泉地ともさらばだな。」


「ステークには特に働いてもらったからな。正式に終わった後に特別な褒賞を渡す手筈だから。何か欲しいか今のうちに考えといてくれ。」


「俺はそんなに貰うような事をしたつもりはないが?」


 自分の仕事に誇りを持っているステークは過小な報酬も、過剰な報酬も嫌いなのである。

 だから、そう思ったら直球で聞くのが恒例になっていた。


「お前は今回の温泉地開発で温泉宿の料理関係を全般任せてプレオープンでもこの温泉宿で最も気に入ったサービスは料理がランクインした。それが特別報酬の理由だ。」


 不満か?と言うシルクになら良いとステークは報酬を受け入れた。


「いつも言っているだろう。うちは信賞必罰を徹底している。一々聞くな。」


「そんなの知っている。それでも聞く。それも俺がお前と結んだ契約だ。」


「ステークさんも頑固ですね。」


 酒を飲みながら笑いあう3人には雇い主と従業員以上の絆を感じる事ができた。


「やはりターメリック温泉で作る温泉卵は美味い!」


 ターメリック温泉で作る温泉卵は通常の温泉卵と違って白身も黄色になっているのである。

 特にこの温泉宿の温泉で作られた温泉卵はより美味しくなっている。

 シルクはこの温泉卵をいたく気に入っている。

 口の中でとろける黄身にサッパリとした白身と味も最高な上、温泉の効能も浸透した温泉卵はシルクが用意した最高級卵を更にワンランク栄養価を上げる完璧な完全食品になる。


「この温泉宿もシルク様の手にかかったと言う事は流行るだろう。」


「またシルクの黒幕伝説に新たな伝説の一幕が追加されるな。」


「はぁ・・・・・・・・」


 上機嫌に温泉卵を口に放り込んで言っていたのに二人の話を聞いて深いため息を吐き出した。


「どうして!そんな噂が流れてるんだ!!!」


「噂も何も全部事実じゃないか。」


シルクの叫びにステークは冷静に酒を飲みながら呟いた。


「どこがだ!!」


「曰く、魔法特化で遠距離攻撃が得意なエルフの中でハンマーや斧のようなパワー全振り武器に憧れ馬鹿にされていたエルフを最高の重戦士に育て上げてその力を持ってエルフの国を恐怖に染め上げた。」


「曰く、ドワーフでは女の仕事だと言われている料理人に憧れ馬鹿にされてきた孤独なドワーフを世界一の料理人に育て上げた。その力を持ってドワーフの国を酔い潰れさせた。今では一兆くらいの損害になっているらしいな。」


「誰もこれもお前らが頑張って里帰りの時に勝手に復讐した事だろうが!!!」


 別に復讐した事を咎める気はシルクにはないが、それでもその被害が全て自分があたかも裏で指示していたと思われている事には文句がある。


「そう怖い顔するな。ただでさえ泣く子も黙る顔が、泣く事もショック死する顔になっているぞ。」


「そうですよ。落ち着いてください。シルク様。」


 ステークは冷静に宥めようとしているが、パワーはシルクのあまりの圧に涙目を浮かべていた。

 泣く子どころか歴戦の戦士すら黙るのがシルクの顔である。


「どうしてこんな事になってるんだ!!!」

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