第15話 悪友

 建国記念日は国を挙げてのお祭となる。あたしはまだ子供だからあまり関係ないけど、王城での式典や舞踏会には国中の貴族が出席するらしい。

 そして今回、父方のお爺様が式典に出席する為、お婆様と一緒にラプソンに来る事となった。

 お爺様はダヴィド、お婆様はモニクという名で、以前は一緒に住んでいた。でも、お父様に家督を譲ってからはジェイドバイン侯領から出て来なくなった為、お爺様とお婆様が町屋敷に来るのは久しぶりだ。


 夕方、お爺様とお婆様が到着し、お母様とあたしで出迎える。


「お帰りなさいませお義父様、お義母様」

「ご無沙汰しておりますお爺様、お婆様」


 白髪交じりのダークグリーンの髪にエメラルドグリーンの瞳のお爺様は、以前と変わりなく好々爺といった雰囲気でとてもお元気そうだ。


「久しぶりだなマルティーヌさん、大きくなったなキャロル」

「ごきげんよう」


 ぽっこりしたお腹で恰幅のいいお爺様に対して、細身のお婆様は長旅で疲れている様に見える。


「エミールはまだ帰っていないのか?」

「はい。今日は早目に帰ると聞いておりますが……」



 みんなで居間へ移動し、ソファに腰を落ち着けた。


「いや~、今回、ピロテアの国王が式典に出席すると聞いて、久しぶりに会いたいと思ってな」


 お爺様はそう言ってお茶に口を付ける。


「お爺様はグウェナエル陛下とお知り合いなんですか?」

「ああ。グウェンは若い頃この国で留学していたんだよ。その頃はまだ王太子ですらなかったがな」

「ではご学友なのですか?」

「まぁ悪友だな」


 お爺様は意味ありげな含み笑いを見せた。



 今日はいつもよりだいぶ早くお父様が帰って来て、5人で夕食をとる事になった。

 食事をしながらお父様がお爺様に尋ねる。


「領地の方はどうですか?」

「特に問題はないな。ただ最近、隣の領主が西端の山を売ってくれと言っていて少々悩んでいる」

「西端の山なんてこれといった特徴のない場所を何の為に?」

「わしも、何もない山になぜ大金を出すのかと思って調べさせたら、金が出そうだと見込んでいるらしい」

「出る確率は高いのですか?」

「あまり高くはなさそうだが、それにしては向こうの提示する金額が大きいんだよ。確信がなければあの金額は出せないだろう」


 お父様は眉根を寄せた。


「父上、まさか山を売らずに自費で掘ろうと考えているのではないでしょうね?」

「………」


 お爺様は素知らぬ顔で回答を避け、料理を口に運ぶ。


「やめてくださいよ。出もしない金を掘るのに一体いくら使うおつもりですか。山の1つくらいなら売って勝手に掘らせれば良いでしょう。境界線が少し変わる程度なら文句を言われる事もないですよ」

「だが先祖から受け継いだ土地を売るのもなぁ。それに出たらどうする」


 どうやらお爺様の本音は後者の様だ。


「そう言って以前掘った時に出た宝石は大した価値がなかったではないですか」

「今回は金だぞ?」


 お父様は呆れている。


「0か100かなんて、それこそ賭博ですよ」


 どうもお爺様はギャンブラー気質らしい。

 黙っていられなくなってあたしは口を開いた。


「半分こすればいいと思います」

「キャロルどういう事だ?」


 お父様に聞かれ、あたしは説明する。


「山の所有権を渡さずに、期間を設けて採掘する権利だけを貸すのです。それでもし金が出た時はその量に応じて対価を貰える契約をすればいいと思います」

「ほう、それはいいな」


 お父様は感心した様な声を漏らした。

 あたしの言わんとしている事を早速理解した様だ。


 金が全く出なかったり、少ししか出ない場合は隣の領主は大赤字だろうから、山を買わなくて済むなら喜ぶはずだ。この提案に乗れば、金が出たからといってお爺様に文句を言われる心配もない。そしてお爺様としても採掘する費用を負担しなくて済むからリスクはない。

 要は沢山儲かったらちょっと分けてねという事だ。どちらも手の内を明かさず儲けを独占しようとするから駄目なのだ。


「確かに損はないが……」


 遅れて理解したらしいお爺様も同意した。でも心残りがありそうな雰囲気を漂わせている。

 根っからのギャンブラーなのね……


「それでいきましょう」


 お父様は有無を言わせぬ口調でお爺様に強い付けた。



 翌日、お爺様とお父様は朝から建国記念の式典へ向かった。

 お婆様はあたしがお母様にカーテシーの練習をさせられているのを満足気に眺めている。


「姿勢が悪い!」

「はいっ」


 昼になり、ようやくお母様のレッスンから解放されて、あたしとお婆様とお母様は3人でランチを食べる事となった。


「キャロルは賢いわね。きっとマルティーヌさんの教育がいいのね」

「ありがとうございます」


 2人の様子は和やかで、あたしは正直お婆様とお母様が仲良しな事に驚いている。

 実のところ、お母様がジェイドバイン侯領に行かないのは、お婆様との関係が良くないからなのではないかと思っていたのだ。お婆様は少し神経質な感じのする人だし、お母様も可愛い嫁という印象ではないからね……


「ヘリオストロープ公はお元気?」

「はい。おかげ様で」

「エミールを引き立てて下さっただけでなく、あの人の作った負債まで肩代りして頂いて……本当に感謝してもしきれないわ」

「いえ……」


 お父様を引き立てたって事は、お父様が財務長官になったのはヘリオストロープのお爺様の力なのか。そしてジェイドバインのお爺様の借金をヘリオストロープのお爺様が返してあげたぽい。


「返済して頂かなくても良かったのですよ。父は差し上げるつもりでいた様ですから」

「今は安定したから大丈夫よ。昨日、金鉱山の話を聞いて驚いたけれどね」


 お婆様は何も知らされていなかったのかご立腹だ。


「キャロルのおかげで助かったわ」


 目を向けられたあたしは笑顔を返した。


「無茶な事ばっかりする癖に、何だかんだ最終的には上手くいってしまうものだから全く反省しないのよ!」


 お婆様のお怒りは収まらない。


「そういえば舞踏会、お義母様は久しぶりですよね。楽しみですわね」


 お母様が宥める様に話題を変えた。



 それから王城の舞踏会へ向かうお婆様とお母様を見送り、あたしは普段お母様が夜会に出る時と同じ様に1人で晩御飯を食べた後、早々に布団に入った。



 翌朝目覚めると、使用人達が何だか慌ただしくてアメリーに尋ねる。


「みんなどうしたの?」

「今夜、ピロテアの国王陛下がお忍びでご来訪される事になったそうなのです」

「へぇ」


 それを聞いた瞬間、あたしの頭の中はどうやって盗み聞きをしようかという事でいっぱいになった。

 う~ん、どの部屋を使うんだろう。1番確率が高いのは応接間だけど、張り込んでいて万が一違ったら悔し過ぎる。


 結局、もう夜でも寒くない事もあり、全ての部屋の窓をちょっとずつ開けておいて、外から聞き耳を立てる事にした。

 取り敢えず昼寝しとこ。



 グウェナエル国王は王城で夕食を食べて来るとの事で、早目に家族で夕食を済ませた後、お迎えする準備をしようという話になった。


「準備? 正装なんかしなくていいぞ」

「ですが……」


 お爺様の言葉にお母様が戸惑う。


「ちょっと酒を飲んで帰るだけだ。見送りもいらないからお前達は先に休みなさい」


 何の気負いもないお爺様の様子を見ると、本当に気にしなくていい様だ。


「堅苦しい方ではないから大丈夫よ。ご挨拶だけしたら私達は失礼しましょう」


 お婆様も面識があるらしい。



 そろそろ到着するという知らせを受け、家族全員エントランスホールで出迎える。

 グウェナエル国王は少数の護衛しか連れずに軽装で現れたけれど、王者の風格を漂わせていて、やはり普通の貴族とは違う風情がある。

 国王はお婆様に向かって親し気に微笑んだ。


「モニクさん久しぶり。遅くにお邪魔して悪いね」

「いいえ。ご無沙汰しております陛下」


 お婆様は軽くカーテシーをして笑顔でグウェナエル国王と握手をした。

 それからお爺様があたし達に目を向け、紹介する。


「エミールは昨日会ったな」

「ああ。すっかり立派になったなエミール」

「ありがとうございます陛下」


「こっちは嫁のマルティーヌだ」


 お母様は丁寧なカーテシーをした。


「初めましてマルティーヌさん」

「お目にかかれまして光栄です」


「これは孫のカロリーヌ」


 お母様に倣ってあたしもカーテシーで挨拶をする。


「初めましてカロリーヌちゃん」

「初めまして。こんばんわ」

「とても上手に挨拶ができるんだね」


 ブルーグレーの瞳のグウェナエル国王はにっこり笑って褒めてくれた。


「よしお前達、後は適当にやるから好きにしろ。解散!」


 お爺様はそう言い、グウェナエル国王を連れて応接間へ移動した。

 結局使われるのは応接間だけど、隠れる暇がなかったから窓を開けておいて良かったわ。


 あたしは寝る支度を整えてアメリーにお休みを言う。

 正面の玄関にはグウェナエル国王の護衛がいる為、使用人用の出入り口からこっそり外に出て応接間の中を覗くと、窓の前のソファに並んで座ったグウェナエル国王とお爺様が、お酒を飲みながら話している。

 こちらに背中を向けているし、近いから会話も聞こえて好都合だ。


「お前は相変わらず女遊びしてるのか?」


 グウェナエル国王の言葉に、お爺様は心外といった様子だ。


「人聞きの悪い言い方だな。若い頃こっちでハメを外して遊んでいたのはお前の方だろ。俺がどれだけの女性を慰めたと思ってるんだ」

「そうやって上手く付け入っていたよな。それに結婚してからも遊んでたじゃないか」

「妻が何人もいる奴には言われたくないわ。毎晩選り取り見取りのくせに」


 国王は少しうんざりした様な顔をする。


「そんなに良いものでもないぞ。1度でも召し上げたら側室にしなきゃならんのは金がかかりすぎる。俺はこの国のシステムの方が合理的だと思うがな」

「まぁ国王だったらそうだろうな」

「ピロテアでもその様にしようと思ったが無理だったなぁ」


 ピロテアの国王はデエスリープで国王の夜伽のシステムを学んでいったらしい。


「そっちの王族は瞳が珍しい色ではないから難しいだろ。それにみんながみんな喜んで妻を差し出す訳じゃないぞ」

「お前は嫌なのか?」

「実際断ったしな。出世に興味はない」

「モニクさんはエミールやアラベルの為にもお前に出世して欲しかったんじゃないのか?」

「モニクだって行きたくなさそうだったぞ? まぁ行きたいと言っても行かせないけどな」

「自分は浮気するくせに勝手なやつだ」


 グウェナエル国王は呆れ笑いをもらす。


「お前は昔からやりたい放題なのに本当にツイてるよな。海外交易をやろうとして嵐で船が大破した時だって、ちょうどエミールとマルティーヌさんが結婚してマルティーヌさんの持参金で補填できたんだろう?」


 お婆様が言っていた負債の肩代りより前にもそんな事があったのね。


「まぁな、マルティーヌさんが嫁に来てくれて良かった」


 お爺様はお母様の肖像画を眺めている。


「そういえばお前の好みのタイプじゃないか? 昔から知的な美人が好きだろ。……息子の嫁に手を出したりしてないだろうな?」


 背後から見ているあたしにはお爺様の表情が見えないけど、グウェナエル国王の反応を見るにだらしない顔をしているぽい。


「考えてみろ。王太子妃になる予定だった社交界の華を嫁にもらったというのに、うちの倅と来たら別室で寝ているんだぞ。可哀想じゃないか。慰めたくもなる」


 グウェナエル国王は目を剥く。


「本当に手を出したのか!?」

「その前にモニクにばれてエミールに家督を譲れと迫られたわ……」

「それで領地に引っ込んだのか。モニクさんは英断を下したな。相手はレノー王子の御息女だぞ? 実行していたら即離婚されただろ」


 お母様がジェイドバイン侯領に行かなくても許されている理由が分かった……


 すると何かを思い出した様子のグウェナエル国王は、お爺様の方へ身体を向けた。


「そういや、俺との賭けに負けて娘ができたら嫁にくれると約束したのに、結局娘もできず終いだ」


 どんな賭けをしたらそんな事になるの!?


「実は隠し子がいるんじゃないのか?」

「それはない」


 お爺様は自信満々に言い切った。


「そうだ、さっき孫娘がいたな。うちの孫の嫁にもらおう」

「残念だったな。カロリーヌはもう王太子と婚約した。王太子のことが好きらしいから諦めろ」

「全く……」


 ふふんと鼻の先で笑うお爺様に、グウェナエル国王はため息交じりに苦笑した。


 あたし婚約してなかったら債務としてピロテアに売られてたんじゃん! 奥さんがいっぱいいる国王の嫁なんて絶対嫌だ!!

 お爺様、最低過ぎる……なんだこの家族全員を敵に回していくスタイル。過保護過ぎるヘリオストロープのお爺様とは真逆だわ。


 その後も2人は政治や経済の話は一切せず、下ネタとそれにまつわる思い出話をしていた。文句を言い合っているけどグウェナエル国王もお爺様も終始楽しそうで、気の置けないただの友人なのだという事が伝わってくる。特に国王にとって、利害関係がなく、一切媚びる様子のないお爺様の様な人間は貴重なんだろうなと感じた。


 ……が、思うのは、お父様の中身がお爺様似でなくお婆様似で良かったという事だけだ。




 翌朝みんなで朝食を済ませると、お爺様とお婆様は久しぶりのラプソンの街へ出掛けて行った。


 夕方になり、大量のお土産と共に帰って来たお爺様は、あたしに熊のぬいぐるみをくれた。


「これはキャロルに」

「ありがとうございます」


 お腹がぽっこりと出た熊は、ちょっとお爺様に似ている。正直、中身が大人である事を抜きにしてもぬいぐるみを貰って嬉しい年齢ではない気がするけど、お爺様の中のあたしは一緒に住んでいた頃のままらしい。


「これはマルティーヌさんに」

「まぁ、ありがとうございます」


 お母様には宝石が入っていると思われる箱が渡された。お母様が開けた箱を横から覗くと、中にはネックレスが入っている。

 いいな~あたしもそっちがいい。



 お父様は今日も早く帰って来て、お父様の弟のアラベル叔父様とその家族がお爺様達に会いに集合した。

 お父様が忙しくて家にいないせいか、叔父様がうちを訪ねて来る事は滅多にない。

 エズメ叔母様と2人の従姉妹、姉アベラと妹クロエはたまにお茶会で会うけれど、あたしの1歳下のアベラはかなり気が強く負けず嫌いで、相手をすると疲れてしまうから正直あまり関わりたくない。歳が近いので以前はよく一緒に遊んでいたものの、カロリーヌの身体にあたしが入ってからは距離を置いているのだ。


 居間で全員が揃い、お爺様は先程の様にお土産を配る。叔母様はブレスレット、従妹達はうさぎのぬいぐるみを貰った。

 でも喜ぶクロエとは対照的にアベラは不満げだ。


「お爺様、私もブレスレットがいいわ。もうぬいぐるみを貰って嬉しい歳ではないですよ」


 それには同意だけど、ハッキリ言うわね……


「そうか?」


 冷や冷やしながらお爺様の様子を窺うと、全く気にしていない様でほっとした。

 というか何であたしが冷や冷やしなくちゃならんのだ。



 それからダイニングルームに移動し、9人で食卓を囲む。


「アベラの婚約は決まりそうか?」


 お爺様が叔父様に尋ねると、アラベル叔父様は笑顔で答えた。


「はい。リアトリス伯爵の孫に決まりそうです」

「なら安泰だな」


 へぇ。良かったねぇ。

 でもアベラの顔は、喜ぶどころかむすっとして機嫌が悪い。


「……キャロルお姉様は王太子なのに、どうして私は伯爵家なんですか!?」


 うはーいつもの出たー。


「仕方がないだろう」


 諫めるアラベル叔父様にアベラは食って掛かる。


「せめて公爵家か侯爵家にしてください!」


 そもそもこの国でフィルより階級の高い人なんて国王しかいないんだから、そこをあたしと張り合っても意味なくない? リアトリス伯爵の孫、案外イケメンかも知れないじゃん。爵位よりそっちの方が大事よ。

 あたしはアベラに聞いてみる。


「相手の人に会った事はあるの?」

「あります。普通の人です」


 普通か~。まぁ不細工でも悪い人でもないなら良かったよね。あたしだったらイケメンじゃなきゃ嫌だけど。


「他の人にしてください!」

「我儘を言うな!」


 アラベル叔父様がアベラを叱った。


 このままあたしがフィルと結婚したら、ジェイドバイン侯爵家はアベラとその旦那が継ぐ事になると思うのよね。まだお父様とお母様の間に男の子が産まれる可能性もあるから口にはしないだけで、少なくともアラベル叔父様はアベラに侯爵家を継がせる可能性を考えているはず。だからたぶん重視するのは階級より資産で、お爺様の言った『安泰』ってリアトリス伯爵がお金持ちだからなんだろう。


 アベラはアホだなぁ。あたしがフィルと結婚したらアベラは必然的に侯爵夫人になるんだから、相手の爵位とか関係なく、それこそ顔や性格で好きな相手を選べるっていうのに、ただただ結婚相手の爵位であたしに遅れを取りたくなくてそれに気付いていないらしい。

 けどアホで良かった。もしアベラがこれに気付いてジェイドバイン侯爵家を継ぐ気になってしまって、あたしを早く追い出そうとしてきたら困るわ……

 あたしはフィルと結婚する気はないし、好きになった相手が次男や3男だった時に備えて、ジェイドバイン侯爵家を継ぐという選択肢を捨てる訳にはいかないのだ。


 フィルの婚約者を譲ってあげてもいいんだけど、お父様の役に立っているみたいだから今はまだちょっとねぇ。


 あ! 良い人がいるじゃん!

 

 あたしは良い姉の仮面を被ってお爺様に訴える。


「お爺様、アベラがこんなに嫌がっているのですから、グウェナエル国王陛下にお願いしてみてはどうでしょうか」

「ん? そういや孫を嫁にくれとか言っていたな。アベラ、ピロテアの王子に嫁ぐか?」

「王子様ですか!? 行きます!」


 アベラは飛び上がりそうな勢いで喜びを炸裂させた。


「良かったねアベラ」


 あたしはアベラに心からの祝辞を伝える。


「ありがとうキャロルお姉様!」


 よしよし、これで婚約者がいなくなっても一夫多妻な国王に嫁いだりしなくて済む。あたしがどこかの嫡男と結婚する場合はジェイドバイン侯爵家はクロエに任せよう。


 クロエを見ると目が合った。にこにこしていて可愛くて、つられて頬が緩む。

 クロエはあたしより4歳下だからまだまだ時間の余裕があるし、あたしを追い出そうとするタイプでもないだろう。アベラも嬉しそうで丸く収まった。



 翌日、久しぶりのラプソンが楽しくてもう1泊したいお爺様は、お婆様に連れられて領地へ帰って行った。


 夕食の席でお母様に探りを入れてみる。


「お母様、お爺様をどう思います?」

「無邪気で楽しい方よね」


 随分のん気なこと言ってるわね。ご自分の貞操が危機にあった事を知らないからそんな風に言えるんだわ……

 まぁ確かに、お爺様に悪意はないしどこか憎めなくて、ああいうのを人徳と言うのだろうと思う。ただね、悪気の無い人の方がたちが悪いのよ! あたし売られかけたからね!


「そういえばキャロルは最近お義父様に似てきたわね」

「へ!? どこがですか!? 顔ですか!?」

「何となく雰囲気が……」


 悪気があるのを自覚している分、あたしはお爺様よりマシなはずよ! でも自分の言動には気を付けよう……


「……そんなに嫌?」


 おっと、顔に出ちゃうのも気を付けよう。

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