第21話 大会
今日はアルマンの稽古の日で、お茶会もフィルとの約束もなく暇だったあたしは見学をする事にした。
するとアルマンはあたしの顔を見るなり自慢気に言う。
「お父様が今度のノーコギーに連れてってくれるんだ!」
「へぇいいな~、私も行きたい」
「お嬢様は止めた方が良いです」
おや、意見を求められていないのにユーゴが口を挟むなんて珍しい。
「どうして?」
「ノーコギーの開催期間中は国中から金儲けが目的の傭兵や荒くれ者が集まって治安が悪くなりますから、町での略奪や破壊行為も多くなるんです」
「ユーゴがいても危険?」
「もしもの事があっては大変ですから……」
「そっかぁ残念」
確かに、万が一誘拐でもされようものならヘリオストロープのお爺様辺りがいくらでも払っちゃいそうだしね。
……と、思ったら。
そのやり取りから数日後、朝食の席でお父様の口から驚きの言葉が飛び出た。
「キャロル、シャルトエリューズ伯がお前もノーコギーに連れて行ってくれるそうだぞ」
「へ⁉ 何故そんな話に……?」
「アルマン君からお前も一緒にとせがまれたと言っていたが?」
お父様は不思議そうな顔で首を傾げる。
「ええ……?」
自分が凄く行きたいから、あたしもそうだろうと思ったの? あたし別に自分の身を危険に晒してまで行きたい訳ではない。安全第一。
でも正直、見たくない訳じゃないし、連れて行ってくれるというのに断るのもね……
そうして3泊4日の旅に出る事となった。
出発の日、迎えに来てくれたシャルトエリューズ伯にお母様が挨拶をする。
「ごきげんよう伯爵。よろしくお願いします」
「お任せください」
「キャロル、伯爵の言う事をよく聞くのよ」
「はい。行って参ります」
ユーゴは馬、アメリーは伯爵家の侍女達の馬車に乗り、あたしは伯爵とアルマンの馬車に同乗する事となった。
「伯爵、この度はありがとうございます」
あたしの意志に関係ないアルマンのゴリ押しとはいえ、礼儀は通さねば。
「いいえ。カロリーヌ嬢には借りがありますからね」
なるほど、そういう事か。今回についてはアルマンが無茶な駄々をこねた訳ではなく、借りを作りっぱなしが気持ち悪い伯爵の采配なのね。お父様がそんな感じの軽口を言っていたけど、本当に貸しを作ったつもりはなかったと思う。もちろんあたしもだ。律儀な人なのね……
けど、これでせっかくの貸しがチャラになっちゃうとしたら複雑だわ。どうせならもっとここぞという時に使わせて頂きたかった……
ちらっと伯爵の隣のアルマンの顔を見ると、一緒に行けるのは俺のおかげだと言わんばかりのドヤ顔だ。
いや、そもそも伯爵に借りができちゃったのはあんたのせいだからね?
そっちは無視して伯爵との会話を続ける。
「ノーコギーは毎回見に行かれているんですか?」
「ええ。大会責任者ですから。本気の戦いはなかなか面白いですよ」
シャルトエリューズ伯は心なしかわくわくしている。
そういえばこの人も元々は騎士だったのよね。立場的に行かなければならないという以前に格闘を見るのが好きなんだろうな。
「腕の立つ参加者はユーゴみたいに王城で雇われるのですよね?」
「個人戦は賞金とそれが目的で参加する平民がほとんどですからね」
「でも王城で勤めるにも貴族からの嫌がらせが酷いみたいですね……ユーゴもリアトリス伯爵家の3男に暴力を振るわれたと言っていました」
同情を禁じ得ないという雰囲気を醸しつつ、さらっと告げ口してやった。
「そうですね……私が長官になってからは実力を重視する様にしていますが、家柄を笠に着る人間がいなくなる事はないでしょう」
そう言って伯爵は眉をひそめた。
なんだか苦労してそうだわ。
「特に近衛師団は上級貴族の栄職となっていますから、有事の際に王族を守れる人間はいません」
「え!」
近衛師団て今は家柄のみで選ばれているの?
「ご安心ください。カロリーヌ嬢が王太子妃になるまでには何とかしてみせますよ」
あたしは王太子妃にはならないけど、フィルにもしもの事があったら嫌だからそこは頑張って欲しい。
でもそんな反発が大きそうな改革をしようとしているなら、末端の兵士1人1人の様子まで把握するなんて無理よね。しかもこの改革、成功するのよ。
ゲームのアルマンは近衛師団の騎兵隊に入る事を目指して頑張っていたのだ。家柄だけで選出されるのであれば、伯爵家の子息かつ長官の嫡男というコネの力で努力しなくてもなれていたはず。だから、あたし達が15歳になる頃には実力重視になっているという事だ。
シャルトエリューズ伯は溜息交じりに零す。
「所属に関係なく城内の騎士全員参加のトーナメント戦もやってはいるんだがね……」
おや、既に頑張っていらっしゃるのね。でもそれ……
「後が大変なので貴族相手には本気で戦わないとユーゴが言っていました……」
「そうだろうとは思います。勝ち残るのは伯爵家以上の家門の人間ですから」
負けてもらった事に気付かないで、ノーコギーで勝った人間もこんなもんかって高を括る奴も多いんだろうな。
随分静かだなと思ってアルマンの様子を確認すると、爆睡していた。
寝ちゃう事に関しては人のこと言えないけど、自分の将来に大きく関わる話をしているというのに、この緊張感のなさよ。
馬車の外が賑やかになってきて、外を見ると市街地に入っていた。
たくさんの人で賑わっている街はお祭の様な雰囲気で、なんだかうきうきして来る。
「今日は移動だけなのでゆっくりしましょう」
「はい」
馬車が減速したのを感じて窓から覗くと、白い壁が真新しい邸宅の前で停止した。凝った窓枠や軒下飾りが優雅で可愛い、2階建ての建物だ。
「こちらは?」
「うちの別荘です。毎年来るので建てたんですよ」
うわ、気合い入ってる……
馬車を降りて邸に入ると、広くとられた玄関ホールが応接間を兼ねていて、ホテルのラウンジの様になっている。暖炉があって、マホガニーの家具や革張りのソファがブラウン、壁・カーテン・ラグなどは深みのある赤で統一されており、シックで落ち着く雰囲気だ。
ソファに腰を下ろし、3人でお茶を頂く。
「お父様、街に行きたい!」
「構わんが夕食までには戻るんだぞ。カロリーヌ嬢も行かれますか」
「いえ、私はお庭を拝見してもよろしいでしょうか」
行きたいのは山々だけど、君子危うきに近寄らず。
「はい。ぜひご覧ください」
こうして、アルマンは護衛と共に街へ、あたしはアメリーとユーゴを連れてガーデンテラスへ出た。
別荘の敷地は背の高い木で囲われていて、プライバシーが保たれている。目の前の大きな花壇には咲き誇る色とりどりの初夏の花、綺麗に敷き詰められた芝生の向こうには池があり、水面を風が渡ると畔の樹がさわさわと音を立てて緑の葉を揺らす。
とてものどかだ。
「良い所だねぇ」
「そうですね」
あたしの呟きにアメリーが答えた。
「そういえばアメリーも試合見に行きたい?」
「痛々しいものを見るのは……」
アメリーは困った顔をしていて、乗り気でない事が窺える。
「血とか出る?」
ユーゴに聞くと頷いた。
「出ますね」
「アメリーはお留守番させてもらおうか」
「申し訳ありません……」
「いや、そのつもりだったから気にしないで。ここでゆっくりしてたらいいよ」
お母様やシャルトエリューズ伯爵夫人、アルマンの妹のジェルメーヌちゃんが来ない時点で、それが普通の女子なのかと思ったよね。今思えば、お母様がすんなりと送り出してくれたのが不思議なくらいだ。
テラスでまったりと過ごし、夕食の時間となってダイニングルームに案内された。
こちらは白、淡い黄色、クリーム色の3色で纏められた明るい部屋で、趣向を凝らした白い家具が揃えられている。
帰って来たアルマンは街の様子を興奮気味に語る。
「屋台がいっぱい出てた! 串に刺さった焼き肉うまかった!」
羨ましくない。羨ましくなんてない。あたしは自分にそう言い聞かせた。
「カロリーヌ嬢はいかがでしたか」
「自然が豊かで素敵なお庭でした」
伯爵は嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます」
この別荘は、伯爵が夫人に一緒に来て欲しくて、喜んでもらいたくて建てたのではないかという気がしてならない。伯爵みたいなタイプの男性が寝泊りするだけの場所って、もっとシンプルで殺風景な感じになりそうなものなのに、ノーコギーの時に泊まる為だけに建てたとは思えないくらい女性が好みそうな造りなのだ。もしお妾さんみたいな女性がいてその人の為に建てたなら、アルマンやあたしを連れて来たりはしないだろうから、やっぱり夫人の為なのだろう。
いいなぁ。結婚するならこんな愛妻家の旦那様がいいわぁ。伯爵は攻略対象者の父なだけあってイケメンだし、今も鍛えている様で良い身体だし。そもそもあたし、中身はシャルトエリューズ伯と同じくらいの歳なのよね。こっちの世界の人達は年齢よりも老けて見えるのと、子供の目線で見るからだいぶ年上に見えるだけで、伯爵はアリかナシかで言ったら間違いなくアリよ……。妻子持ちっていうのと、肉体的な歳の差で伯爵から見てあたしは対象外だろうと思われるから結局はあり得ないんだけど、アルマンか伯爵かって聞かれたら断然伯爵だわ。恋愛するなら大人の男が良い。
……あたし、同年代の男の子に恋なんてできるのかしら。
「明日の最初の競技は剣の個人戦です。予選を勝ち抜いた16人で勝ち上がり戦が行われます」
「あ、はい」
やばいやばい。ちょっと脳内トリップしていたわ。
「次に馬上槍試合で、1日目は終了です」
「はい、楽しみです」
今さらながら、男なのか女なのか、子供なのか大人なのか、自分自身が何者であるのかよく分からなくなって今後の人生に不安を抱えつつも、客室のベッドは大きくふかふかで、よく眠れた。
翌朝、みんなで朝食を食べてから馬車で闘技場に向かう。
出発まで「早く行こう!」を連呼していたアルマンの興奮は既に最高潮を迎えていて、しゃべっていなくてもうるさい。顔と気配が。
それでも、馬車を降りて目の前で見た石造りの闘技場はとても大きくて圧倒され、あたしも期待感と血が滾る様な昂りを感じずにはいられない。
「すごい……」
「すっげー!」
円形の闘技場の外周をぐるっと囲う形で等間隔に並んだ石造りの太い柱は、3階くらいの高さまである。上下二段で半円アーチが並び、建造物としての芸術性も高い。
柱の間から回廊を横切って建物の中に入ると、真ん中にドンとあるのは楕円形の広場だ。天井はなく、すり鉢状に観客席が並んでいて、サッカースタジアムを思い出す。
アルマンはとうとう抑えきれなくなったのか、リードを外された犬の様にアリーナに向かって走り出した。
「おいこら!」
あたしはそれを横目に見ながらきょろきょろしつつ伯爵の後を歩く。そして着いたのは貴族用の観覧席だと思われる、屋根の付いたボックス席だ。1階だけどアリーナより少し高い位置にあって、階段の様になっている他の観客席とは異なり椅子が置かれている。
周囲の顔ぶれは男性が圧倒的に多いものの、ご婦人もちらほらいる。家族や恋人が出場するのかも知れない。
しばらくするとラッパの音が響いてシャルトエリューズ伯が舞台に上がった。ザワザワとしていた場内はしんと静まり返る。
伯爵が開会の宣言をした後、国旗が掲揚され、いよいよ始まりだ。
すると、鉄兜と胴鎧と脛当てを身に付け、革の手袋をはめた選手が8人入場した。そしてなんと、4つの試合が同時に始まった。
えぇ~じっくり見たいんですけど。
あっちを見ればこっちが気になって、結局どの試合にも集中できない。目が足らない……
こういうのって推しがいないと集中できないのよね。しょうがない、こうなったら顔だけに注目して1番のイケメンを探そう。
1人1人をしっかりと見てみる。
…………イケメンがいない。
がっかりしているうちに全ての試合に勝敗がついていた。
次も4試合同時に始まり、目を回しているうちに終了した。
でも今回は最後に、なかなか可愛い顔の男の子を見付けた。可愛いと言っても今のあたしより年上だけど、体格が他の参加者と比べて1回り小さい。そんな所も応援したくなる。
半帽の兜から出ている髪はターコイズブルーで、その男の子は無事に勝てたらしく次も見る事ができる様だ。
2回戦目は最初にやった試合の勝者4人が出て来て、2試合同時に行われた。
交互に見ていたものの、カンカンと大きな音を立てて派手に剣同士がぶつかり合い火花が飛ぶ様子に目を取られていたら、「おおーっ」という歓声が上がって、もう片方の試合に決着が付いていた。そちらに目を移すと、血まみれになっている選手がいて、でもそっちが勝った人らしい。
何があった……
ぎょっとしていたらもう一方の試合も勝負がついた。
あっちもこっちも見ようとして、ことごとく決定的な瞬間を見られないまま、この回も終了してしまった……
そして、推しの出番となった。
もう彼だけに集中するぞ。
推し君の相手は、黒々と日焼けした、いかにも強そうなデカいマッチョだ。
中途半端に強そうだと街で喧嘩を売られるけど、ここまで強そうだと喧嘩を売られる事はないだろうね。でも案外こういうのがあたし達の組合の人だったりするのよ。
試合開始の掛け声の後、2人は円を描く様にじりじりと動きながら剣先で剣先を払い合い、タイミングを計っている。
するとマッチョが踏み込み、推し君の頭を目掛けて剣を振り下ろした。推し君は横に身体をずらしながら剣で受け流し、重心が傾いたマッチョの頭に切り込む。でもマッチョはそれを躱し、さらに猛攻を続ける。推し君は受け流すので精一杯だ。
本気で振って来るマッチョの1撃が重い! これ、まともにもらったら血が出るどころか骨が砕けそうだわ。だってあの筋肉だしねぇ。上腕二頭筋も凄いんだけど、大腿四頭筋が凄いのよ。ハーフパンツからちらちら見える太腿がめっちゃ太い。腹筋も見てみたいわぁ。普段何の仕事してるのかしら。
決定打のない攻防が続く。
でも一旦後ろに下がって距離を取った推し君が再び踏み込み、下から剣を振り上げると、マッチョの手首にヒットした。そこからマッチョの剣の動きが鈍くなり、推し君のターンとなった。足を狙う推し君にマッチョが押されている。
マッチョの攻撃パターンは上から振り下ろすばかりだった。そしてどうやら防御の方も下からの攻撃を防ぐのが苦手らしい。
速くてよく分からないけど、何回か入っているんじゃないかしら。
再びマッチョが振り下ろした剣を、屈んで横飛びで避けた推し君は、低い体勢のまま素早くマッチョの横に突進して、すれ違い様に振った剣をふくらはぎに当てた。
するとマッチョは崩れ落ちる様に蹲る。
マッチョは立上がろうとしてよろめき、推し君が首を刎ねるかの如く水平に剣を振ったところで審判が止めに入った。
「勝負あり!」
おおおー! 審判グッジョブ! 止めなかったらマッチョの首が折れてたよ……
推し君、相手の弱い所を見極めて確実に仕留めにいくタイプなのね。
同時にやっていたもう1組の試合にも決着がついていて、2回戦が終了した。
3回戦の試合となったが、2人出て来るはずの選手が、1人しか出て来ない。
何だろうと思っていると、奥から出て来た人が審判にごにょごにょ言って、頷いた審判が片手を挙げた。
「対戦相手棄権により不戦勝!」
先程血まみれになっていた勝者は、傷が深かったのか棄権となったらしく、一緒に試合をしていたもう1つの組の勝者が不戦勝となった。
こうなると、ほとんど休憩なしですぐまた推し君の試合が行われる事になる。命懸けの試合を休まずやるなんて絶対ハードだよ……。トーナメント戦って運の要素が大きいよね。推し君ツイていないわ。
でも次の試合に勝ったら決勝進出だから是非とも頑張って欲しい。あの体格で現状のベスト3ってもう充分凄いけどね。
「2位以下の選手にも賞金が出るんですか?」
シャルトエリューズ伯に聞いてみた。
「いいえ、賞金が出るのは1位だけです」
「そうなんですか」
う~ん、世知辛い……
あ、そうしたら推し君が優勝できなかった場合うちで雇ってもらうのはどうかしら。やだ、それいいんじゃない? フィルのおかげであたしってばドレス代のかからない子だし、普段おねだりなんてしないから、もう1人くらい雇ってもらっても大丈夫よね。平民出の先輩のユーゴもいるから王城より働きやすい上に、夕方から飲みに行けてかなりホワイトな労働環境だと思う。いずれゲイバーで働いてもらうけど。
「出場選手を侯爵家で雇っても問題ないでしょうか?」
「領軍に雇い入れられる事も多いので構いませんよ」
なぬ? 早くしないと他の領主に取られちゃう!
「気になる選手がいましたか?」
「ターコイズブルーの髪の選手なんですけど……」
「あぁ、彼良いですね。小柄だけど闘志があって積極的に攻めに行くし、何より速い。立派な鑑識眼をお持ちだ」
感心した様子でそう言われちゃうと、顔だけで選びましたなんて恥ずかしくて言えない。
「へへ……」
とりあえず笑って誤魔化す。
するとアリーナには推し君が出て来た。対戦相手はでかい男で、推し君と比べると頭1つ分以上身長が高くがっちりしている。
めっちゃ不利じゃん……
そして準決勝が始まった。
推し君は開始の合図と共に地面を蹴って相手に斬りかかる。ノッポは剣でそれを受け止めて押し返し、推し君は後ろに飛ばされた。
体重差があるから力勝負だと相手にならないよねぇ。がんばれー!
……頑張ってもらっちゃ駄目なんだわ。優勝されちゃったらスカウトできない。
頑張って欲しいけど勝って欲しくないという複雑な思いで試合を見守る。
とりあえず、怪我だけはしないでくれ!
もう気分は保護者だ。
それにしても、推し君の剣、随分長いのよね。
「剣はみんな同じ物なんですか?」
「はい。王城の訓練で使う支給品と同じ模擬剣を使用しています」
平民は武器を買うのも大変だろうから親切といえば親切だけど、身体のサイズに合っていない武器って使いにくそうだわ……うちに来たらぴったりのやつ買ってあげるからね。
すると推し君がノッポに向かって剣を投げ、虚を衝いた一瞬で相手の懐に潜り込んだ。そしてノッポの足の間に両手を入れて膝裏から抱える様に持ち、片足を救い上げて後ろへ押し倒す。さらに倒された衝撃でノッポが落とした剣を拾い、馬乗りになって頭の横に衝き立てた。
あっという間の出来事に、場内はぽかんとして静寂に包まれる。
「勝負あり!」
「おおー!!」
一気に歓声が沸き、空気が震える。
「おおお」
あたしも思わず声を上げ、拍手した。
いやいやまじか。推し君、決勝進出だよ……
「すげー!」
ちなみに、うるさいので聴覚をシャットアウトしていたけど、あたしと伯爵の間に座っているアルマンは試合が始まってからというもの、「いけー!」と「すげー!」しか言っていない。
いよいよ決勝戦だ。
勝って欲しくはないのだけど、ここまで戦い通しの推し君と、不戦勝となり休憩時間を取れた相手選手の対戦には不公平なものを感じる。
「休憩させてあげなくて大丈夫なのでしょうか」
「5分休めば充分でしょう。休憩時間が短い事より怪我を負った状態で試合をする方が大変ですが、彼……アダミは特に怪我もしていない様なので良い勝負をするんじゃないですか」
あたしが推し君を心配していると察した伯爵が、手元の資料を見ながらそう答えた。
推し君の名前はアダミっていうのか。名前すら可愛い。
アリーナに、推し君改めアダミと、先程不戦勝になった男が出て来た。
不戦勝の男はずんぐりむっくりとしていて首が太くて短く、ラグビー選手の様な体型だ。ノッポ程ノッポじゃないし、マッチョ程マッチョじゃないけど、やはり体格はアダミよりもだいぶ大きい。しかも安定感があって、この人にタックルは効かなそう。ちなみに口の周りには泥棒みたいな髭が生えている。
アダミとヒゲが向き合い、決勝戦が始まった。
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