秋が香るショートショート
結佳
Day 1 「門」 門限を越えて
僕は自分で作った野菜を売って生活している農民だ。街の外れで畑をやりながら一人で住んでいる。
子供の頃からの幼馴染みで、ほんの少し前からコイビトになった彼女は、街のお医者さんの娘だ。街一番に大きな家に住んでいる。
一人娘で大事にされている彼女は、小さい頃から門限が決まっていた。それは、日が落ちる前に帰ってくる、というもの。
休みの日のデートでは彼女と一緒に森を散歩したり、やっているおしゃれなカフェで美味しいコーヒーを飲んだり、僕の家で一緒に本を読んで過ごしている。
春から夏にかけての時は良い。
彼女と一緒に過ごせる時間が増えるのが嬉しくなるから。
夏から冬にかけての時は悲しくなる。
彼女を家に送り届ける時間があっという間に来てしまうから。
まだ恋という感情も知らなかった子供の頃から、夕暮れに門の前でお別れをするのが、何より一番寂しかった。
夜になっても一緒にいた事がないので、一緒に星を見た事も、月を眺めてお団子を食べた事も無い。
これから冬が深くなる、そんな夜。毎年、その年に一番大きなお月様が出る夜がある。
その日は『冬の間も同じ月を見て共に過ごしたい』という意味から転じて、『一生を一緒にいたい人と月見が丘に行くと、幸多い未来になる』という言い伝えがある。
実はずっと、彼女といつか、このお月様が一緒に見られたら良いな、と思っていた。それこそ、子供の頃から。
しかし、このままだと門限の時間のせいで一緒に見る事ができない。
好きな人と門限も季節も問わず、ずっと一緒にいるにはどうしたら良いんだろう。
もうすぐその月の夜がやってくる、そんなある日。
彼女を見送った帰り道、街の宝石屋さんの前を通った。
きらきら光る指輪。指輪を贈る事は、生涯を誓うという事だ。
そうだ、これだ!僕は宝石屋さんに入った。
彼女との時間は本当にあっという間に終わる。
朝にはおはよう、と言って一緒に劇を見に出かけたのに、もうすぐに隠れてしまいそうな太陽が西にある。夕日で真っ赤に染まる中を、いつものように彼女の家の前まで歩いてきた。
「じゃあ、また来週ね」
彼女の家の前、少し寂しそうな笑顔で、門の下に立つ彼女。
「あの」
「どうしたの?」
「お話があります」
太陽がすっかり落ちてしまいそうなのを気にする彼女の前にひざまずく。
「来週、月見が丘で月を一緒に見ませんか」
びっくりして目を丸くする彼女に、隠していた指輪を捧げる。
「時間も季節も関係無く、君と一緒にいたいです」
彼女は驚いていた表情から、パッと泣きそうな笑顔でうなずいてくれた。
「ずっとそう言ってくれるのを待っていたの」
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