第20話 恋バナ 美優さん編
省吾さんの奥さんである聖子さんや中原さんの彼女である美優さんが来ると何だか騒がしくなる。ここに神原さんが連なると、更に煩いって言う位お喋りが止まらない。いつも静かなあんこちゃんもこの3人の中に入ると、ちょっとお喋りさんになって…、いつもと違う顔が見ること出来て、少し面白いんだよ?
私は、長女の茶々。おでことしっぽの先に茶色い毛が生えているせいで、こんな名前になったようだけど、実は末っ子のミミちゃんもおでこに茶色の毛が生えている。
私の毛並みは、ちょっとバラとした硬めで花ママに似たような三毛っぽいけど、ハッピーパパのようなアメショです!って感じの模様になっている。ミミちゃんは、ちょび髭君みたいにベルベットのような柔らかいふんわりした肌触りなので、この点はすごく羨ましい…。
顔は小顔で、自分で言うのもなんだけど、かなり美人だと思う。
ママの気品ある顔立ちに似て生まれてよかったって思ってる。
兄や弟猫と違って、人の膝の上で寝ることが大好きで、あんこちゃんがソファーとかに座ると、出来るだけ早くその場所を確保したくてたまらない。だから、猫カフェを始めるって聞いたときは、いつでも誰かの膝の上に乗れるんだって思って、嬉しくなっちゃったんだ。
だからね、今日は聖子さんの膝の上で寝ころんでいるんだ。あー、気持ち良くて声が出ちゃう…。「ミャー」
聖子さんの今日の出で立ちは、薄い半分透けているような金色?黄土色?きらきらしたシャツに茶色のパンツと濃い茶色と黒の二色のパンプスだ。この茶色のパンツは、生地がサラサラしているのに猫の爪が引っかからない、不思議な布で出来ていて、かなり寝心地がいい。
聖子さんは、私の耳の後ろをゆっくりこちょこちょしてくれるから、すぐに眠くなっちゃう…。でも聖子さんと省吾さんの馴れ初めは聞きたい…。
「この子、可愛いわね。お膝に乗るとすぐゴロゴロって喉を鳴らして、あらお眠なのかしら?」
「ねぇ?聖子さんってとっても美人だし、どう見ても恋愛は百戦錬磨って感じですけど…。どうやって省吾さんとお知り合いになったんですか?」
「あら?質問するなら、まずは美優さんと中原さんの馴れ初めからじゃない?」
「うちですか?うーん。中原を初めて意識したのは、高校の入学式だったんですよね。背が高くて、新入生のくせに堂々とした感じがあって…。実際に話をするようになったのは、同じクラスになって一緒にクラス委員をした時かなぁ…。あ?違うかな?委員会は何故か同じになることが多くて…。図書委員とか美化委員とか、とにかく委員会で組むことが多くて…。」
「あら?わざとじゃなくて?」
「それが違うんですよね…。クラスの皆が先に役割を決めちゃってから、残った委員をすることになった時もあるし、私が委員に立候補して男子は決まらなくて投票で決めたときとかあるし…。何となく縁があったというか。
委員を一緒にやると、いろいろ見えてきたんですよ。彼の性格が真面目であるとか、こっちがイライラしても、怒らず最後まで仕事を一緒にやってくれることとか…。1年の時は違うクラスで同じ委員だったけど、女子から頼られているのを見ていたし、同じクラスになった時は男子からも頼られている姿を見かけて…。
いい奴だなって思っていたけど、実は恋愛対象になってなくて…。高校生って女子の方が恋愛に傾きがちなんですけど、私は疎くて運動とか勉強とかが精一杯だったんです。そんな恋愛に疎い時期に…気が付くといつも隣で私が話すことをニコニコ笑いながら聞いてくれていたって感じですね。
私、性格がきついってよく言われるんです。思ったことをすぐに口に出してしまうし、何に対しても白黒はっきりさせたいって気持ちが強くて、親しい友人とかでも知らない間に傷つけてしまっていたようで…。
あとから失敗したって気が付くんですけど、言葉って口に出してしまうと元に戻らないから…。
いくら謝ってもダメな時もあって…。
親しかった友達から距離を置かれるなんてこともあったなぁ…。
そんな欠点がいっぱいの私を彼は、呆れないで見てくれていたんですよ。
きっと馬鹿だなぁとか仕方ないなぁとかって思っているのかもしれないけど、全力で頑張ったことを絶対無視しないで、私を受け入れてくれて、励ましてくれて…。
高校2年生の春に告白されたんです。でも、告白されても彼に対して全然そんな恋愛対象って気持ちになれなくて…。
今から思うと失礼な質問なんだけど、私は彼から告白されたとき、『なんで私なんかがいいの?』って聞いちゃって…。」
「うん、うん。彼はなんて応えたの?」
「こんな時に『なんで?』って質問する君が好きなんだって…。いつだって自分の気にかかることを口に出して質問して、自分が納得いくまで考えて、自分なりの答を出そうとする素直が君が好きなんだって言ってくれて…。
あー、私はこのまんまでいいんだって感じたんです。
丁度その頃友達とギクシャクしていた時期で…。
私のこの性格が友人関係にひびを入れているんじゃないかって悩んでいて、孤立しそうになって…。
全力で自分を否定していた頃だったから、彼の言葉に救われたって感じかな…。
自分を肯定してくれる人が身近にいてくれると、自分自身でも自分を肯定できるようになるって感じでしたね。そのまま大学が離れても、ずっとお付き合いが続いていて…。」
「そう、とっても素敵ね。」と言うと聖子さんはまた、ゆっくりと膝で眠る私の頭を撫でた。何かを想い出しているいるようで、微笑む顔がとっても優しい…。
「もうすぐ結婚式だったっけ?」神原さんは美優さんの左手の薬指にある婚約指輪を見ながら柔らかい口調で問いかけた。
「ええ。ほんとは結婚をしないつもりだったんです。私の両親は、離婚はしていないけど、所謂仮面夫婦で家の中では険悪な状態が中学の終わりごろから続いていて…。
二人とも離婚したいけど、私が成人するまでは…なんて言って世間体を気にしていることを私のせいにして逃げていて、それを聞かされる子どもの気持ちなんて一切お構いなしで…。
ま、結局は私が大学を出て就職したら、さっさと離婚しちゃいましたけど。
同じ家に住みながら、一緒に食事をするとか会話とか一切なく、掃除や洗濯は母がしてましたけど、母の寝る場所はリビングのソファーだったし…。
お互いの悪口を私に吐き出して、散々文句を言ってから『お前のために我慢しているんだ』って言われるのが、ほんと嫌になって就職と同時に家を出たんです。
二人の事は二人にしか分からないのだろうけど、結婚に夢や希望なんて描けなくて…。
今思えば、高校生の時に恋愛に気が向かなかった理由もここにあったのかも…。
私が自分に自信がない理由も家族との関係に原因があったかもですけど、こんな私をずっと支えてくれて、大丈夫だよって言い続けてくれた中原が、初めておねだりをしたんです。
『私達の子どもが欲しい』って…。
家族に悩んだ私をずっと見ていたのに、なんで?って思ったんだけど、『家族に悩んだからこそ、いい家族になろうって努力出来るんじゃない?』って言われて、素直にその時にそうだなぁって思えたんです。
そして何よりも彼との子どもが欲しいなぁって、彼と家族にないたいなぁって感じている自分にも気が付いて…。
時間が掛っちゃったけど、家族って言葉に振り回されていた私の心の錘を彼がゆっくりほぐして溶かしてくれたんだなぁって今更ながら気が付いて…。
それで、結婚しようってなったんです。
出会いから15年。付き合い始めて13年位経っちゃってるけど、今が一番幸せかもしれないです。」
「そう、本当に良かったわね。今が一番幸せって言ってるけど、これからどんどん幸せになっていくのよ。」聖子さんはにこにこ顔で頷きながら話した。
恋バナのトーンが落ち着いたせいか、それとも猫カフェエリアにはこの人達しかいなくて、誰も猫じゃらしとかで遊んでくれないせいか、他の猫達も各々の好きな場所で丸くなって寝ている。
花ママだけは、キャットタワーの一番高い場所で手や足を舐めながら話を聞いている。
穏やかな午睡の時間だなぁ…うとうとしながら私は感じた。
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