第9話 聖子さんのたくらみ(省吾の奥様)

 中原将太君と市井守君は私が知っているWebデザイナーとしては、信頼がおける人達なのよね。

 中原将太君は、身長180㎝くらいの長身でラグビー部にも所属していただけあって、体格はかなりマッチョ君なの。最近は運動不足のためかしら、まぁ太り気味だけどね。性格は優しいけど、ちょっとした一言がきついって感じで、私はクマさんと心の中では呼んでいるわ。

 市井守君は、身長170㎝くらいで痩せ型で記事を書くことが天才的に上手い人よ。将来はフリーのライターになりたいって考えているようだけど、きっと成功するだろうなぁ…と思えるほどの才能を持っていると私は思うわ。きつい言葉が多いけど、本当は優しいいい子なのよね。


 ただし、私自身はこういった事を二人には感じてはいるけれど、彼らとは会社としての付き合い、表面上の付き合いでしかなかったわ。

そもそも、人は他人に本性など見せるものだろうか?という疑問さえあるし…ね?


 省吾さんの会社経営に関していうならば、その人を判断して採用し、その人にあった仕事を与え評価していくという形で成り立っているわ。

だから、雇用者を採用面接の中で判断し、給与を決め、仕事を割り当てていくという作業は案外難しいものであると思うのだけど、結構さくさく進めてしまうし、上手くもいっているわ。誰にも出来ないことをいとも簡単にやってしまえるのは、やっぱり才能だと思っているのよ。

 もちろん、採用時に判断できなかった社員もいたわ。これは、会社を始めてからすぐの頃のことだけど…。一番困るのは、平気な顔で嘘をつく人だそうよ。精神疾患とか発達障害とか、なにか病名をつけられるレベルじゃないかなって思うような人は、嘘を嘘と思っていないせいかしら、判断できないというか…しずらいらしいわ。

働く上で必要なIT言語に関する知識について嘘を言ってみたり、できないことをできると言ってみたり…。散々な思いもしたようでね、人を見る目は否が応でも身に着いたってところかしら。

 いろんな経験をしたからこそ、省吾さんならではの社員判断としては、二人はAクラスだし、私から見ても人柄に問題はないと思うわ。


 あとは、猫ちゃん達に判断してもらうのがいいのかしら?


だから…、打ち合わせは猫カフェでするようお願いしたのよね。どうなるか楽しみだわ。


◇◇◇



 あんこが朝起きてからソワソワしているのが分かる。ま、仕方ないんだけど。

俺はハッピーという名で、この猫家族のパパであり、一家の大黒柱でもある。毎朝、あんこが起きるまでは、彼女の右側の首元に丸くなって待機し、目覚ましが鳴ると同時に耳元で「わーん」と叫んでやるんだ。「にゃーん」でないとこがみそだな。

 だいたいな、猫がみんな「にゃーん」って鳴くと思っているのが間違いなんだよ。猫だって個性があってだね、のどの太さも長さも違うんだから…。でもって、あんこは、電子音での目覚まし音に関しては、無視ができる性格らしい。

どんだけ煩く鳴り響いても、放置できるんだぜ?びっくりだよ。

そう、あれは俺がまだ小さくて無邪気な仔猫のときだった。目覚ましで起きられないあんこは、音だけ消してまた寝入ってしまったんだ。いつもなら、それでも何とか起きてくれるのだけど、このときは本気で眠むっちまいやがって…。

俺はお腹が空いて死ぬかと思ったよ。だから、あんこの耳元で大きな声を出して「わーん」って鳴いてやったんだ。そしたら飛び起きてくれて、すぐにご飯をくれたよ。この時からさ、目覚ましが鳴ったら耳元で鳴くようにしたのさ。

うん、そう、いつもと違う泣きがさ、インパクトがあって効果的なやつをさ。


 今日のあんこがソワソワしている理由は、省吾の奥さんからWebに関する方向性を決めるべく、訪問者があるからだ。

 あんこは、実は男の人が苦手で出来るだけ避けたいと思っている…らしい。これは、花ちゃん(俺の奥さんで花さんと呼ばれたいらしいけど、俺にとっては可愛い奥さんだから花ちゃんなのさ。本人の前では花さんと呼んでるけど…)情報だから、ちょっとだけ盛っているかもしれない。

 俺の奥さんの花ちゃんは、女の勘が鋭いのよとか言う割には、結構ずれたりする。思い込みが激しいっていうか、相手を思いやる気持ちが強いというか重いというか…。いいところでもあり、悪いところでもある。性格ってさ、見方によって違うだろう?だからさ、いつでもいい方で考えてあげたいんだ、俺はね。

 あんこが省吾と不倫関係がおかしいと言い切っていたのも、花ちゃんの思い込みもあるし、情感ある見方でもあったわけだけど、やっぱりそう感じる部分も多々あったわけで、一概に花ちゃんの思い込みとも言えないし…。

 話が逸れてきた…。

 今日は、あんこが初めての相手と仕事の話をしなくちゃいけないってことが問題なのさ。初見って互いに後々に残る重要な場面だろう?俺たちとしても、上手くやって欲しいって思うんだ。


 あんこがいろいろバタバタ準備をしているところを横目で見ながら、俺たち猫家族はまたもや作戦会議を行った。

 今日は、戦闘じゃないから、戦法の吟味は必要ないけど猫配置は必要だと思っている。初日からあんこに手を出す男はいないと思うけど、過度のスキンシップがあれば止めないとな。あんこは、人との距離が広めに取る方なんだよ。パーソナルスペースって言うんだっけ?でも、それじゃあ話し合いができないだろう?特に今日は猫カフェを宣伝してくれる輩が来るんだから。俺たちが歓迎してあげないとな。


 出だしは、やっぱ長女の茶々だろう。愛想が良くて、俺に似て可愛いし(本当はママ似だけど)、身体も小さめで思わず守りたくなるし…。親の欲目も入っている気もするが、まぁ気にすんな。

 後は、長男のシャーアズナブル君と次男のレパード君、四男の小夏君がすり寄っていけば、大概落ちるね。

『猫ちゃん達。可愛いー』ってなるよ、多分。あ?これは女子高校生の反応だったかな?

 以上のことを4人に説明して、俺たちはWebに関わるだろう人達の到着を待った。もちろん、キャットタワーで寝ころびながら…。


 猫カフェには、広めのキャットタワーがあって、いつもは場所の取り合いをするんだけど、今日のところはお客様を担当しない猫達が占拠していた。そして、外が見える窓枠には、お相手をする4人が鋭くニャンソック(警備員だね)をし、その4人の指南役として花ちゃんが見守っていた。

 早く来て欲しいような、来てほしくないような…複雑な気分だよ。

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