World of GearZ

@ProtoT

第一話 ロボットとはロマンであり、黒こそ至高である

VRゲームの技術とはすさまじい物で、俺はこの現実以上の居場所を見つけることができた。その世界のことを四六時中考え、他のことに一切手を付けられなくなるほど。その世界の名は……【World of GearZ】



 今日も退屈な日常生活が続く。この世界に俺が求める刺激はない。俺が興奮できるような物も、この現実世界にはない。俺は一秒でも早くこの退屈な授業を終え、部屋にあるやや大型でゴツ目のチェア型VRマシンにこの身を預けたかった。常に刺激で溢れるあの世界こそ俺の居場所であり、生き甲斐だった。VRアバター越しとは言え、あの油の匂いとそれにまみれる感覚は嫌いになれない。何より、自身の愛機を自由に乗り回せる感動は今でも色褪せたことはない。そんなこんなでぼへぇ~と授業を聞き流しながら、俺はチャイムが鳴るのを待っていた。連絡事項などはスマホに直接来るため、帰りの会的なものはもう過去の風習となった。今は授業が終われば即座に帰宅することができる。

「それでは、今日はここまで」

と、老教師が授業の終わりを宣言し、チャイムが鳴ると同時に俺は廊下へとダッシュし、即座に玄関へと向かった。

上履きというものもなくなったので、靴を履き替えるという手間もない。すぐに校門を出て寄り道をせずに家に帰る。半ばRTAのような帰宅劇なのだが、大体いつもこの辺で邪魔が入る。

「ちょっと、待ったぁ!」

と、横スライディングで俺の進路を妨害する人物がいる。

「はぁ、はぁ、黒崎ぃ…黎人ぉ~。もう逃がさんぞ!今日という今日は……。」

肩で息をしながら、俺の前に立ちふさがる男……名前は…忘れた。

「今日こそ、我が陸上部に来てもらうからな!!」

名前は憶えていないが、陸上部の部長だという事は覚えていたので用件は想像通りだった。この男、何度も僕に突っかかってくるのだ。

「何度もお断りしてますよね?部活には興味ないので失礼します。」

俺は一礼だけし、再び走り出そうとしたんだが肩を掴まれ、動きを止められてしまった。

「今日は何が何でも、付いて来てもらうからな!お前のその脚力、我が部に来れば駅伝優勝間違いなし!!華々しい高校生活になるぞ!」

と、強引に腕を引っ張られそうになる。だが、俺も何の対策もなしに居るわけではない。

「あっ!ウガイン・ボント!!」

適当な陸上の有名人の名前を言い、適当な場所を指差す。作戦は上手くいき、「え?どこどこ?」と、辺りを見回す。その間に猛ダッシュで校門を通り抜け、家への帰路を駆け抜けた。


家に着くと、すぐにシャワーを浴び、ゆったりしたスウェットに着替え、チェア型のマシンに腰掛ける。チェア型マシンの座り心地は見た目のゴツさからは想像できないほど良かったりする。チェア型マシンに備え付けられたシステムヘルメットのようなヘッドギアを被り、アームパッドにあるキーボードでIDとパスワードを入力する。それらはヘルメットで言うシールド部分にあるモニターに黒丸で表示される。ログインに成功すると意識は現実から仮想世界へと移っていく。



感覚が切り替わり目を開くと、俺の愛機である黒いギアズ『ストーム・ゼロ』がギアズハンガーに鎮座しているのを見上げられる。この機体と共に過ごした時間はもう計り知れない。少なくとも学校に居るよりかは長いと思う。俺はハンガーにあるモニターに触れ、愛機の状態をチェックする。

「メンテナンスも前回ログイン時に終えてるし、損傷個所も摩耗してるパーツもない。塗装落ちも大丈夫だな。やっぱり黒こそ至高だ!あとは……ライフルの弾もブレードの方も問題ない。……よし!今日のクエストはっと。」

俺は、ハンガーモニターの機体情報からからクエスト情報に項目を移す。軽くスクロールし、目ぼしいクエストを探す。一番いいのは新パーツなどの獲得クエストだが、それ以外にも賞金獲得クエストなどがある。

「お、ゲリラの緊急クエスト?」

目に留まったのは赤いクエストバー。基本緊急クエストは緊急という名目の割に時期が予告されたりしている。しっかり準備して挑むように、そういう運営の意図もあるのかもしてない。

緊急クエストに興味を覚えたので、クエストバーを叩き内容をチェックする。

「おっ、AI軍の襲撃クエストか。」

AI軍は、この世界においての共通の敵だ。AI兵器の制御システムが暴走、人類に牙をむいた。俺たちプレイヤーは旧式二足歩行兵器【ギアズ】でAI兵器と戦う。この世界はそういう設定なのだ。

「報酬もまあまあ旨いし……大暴れできそうなクエストだ。いっちょ受けてみるか!」

俺はクエスト受注を決め、クエストウィンドウ一番下の受注ボタンを押した。

ハンガーを駆け上がり、ストーム・ゼロのコックピットハッチを開き、勢いよく椅子に座った。右のアームパッドから薄型キーボードを引きだし、機体のシステムを起動。360°モニターを起動させ、ハンガーの足場を移動させる。

「システム起動、ハンガーの安全良し…ウェポンハンガーのロックを解除。」

ストーム・ゼロを歩行させ、ウェポンラックからアサルトライフルとシンプルなブレードを取り出し、ライフルを腰にマウントさせ、ブレードは左腰に帯刀する。

「ドッグハッチオープン。」

ドッグの扉が左右に開く。開いた扉から風が入り込んでくる。いつも見ている草原が、俺を変わらずドキドキさせてくれる。

「さてと。マップデータを確認っと。ここから南西720kmほどか。」

機体のスラスターを吹かし、草原を飛び目的地を目指す。およそ15分ほど景色を楽しみながら飛んでいると、レーダーに反応がある。反応は30機ほどだろうか。

「戦闘機系が多めだな……人型は10機ぐらいか?ん?動きが素人臭いのが1機居るな。」

空中でブレードを空振りしている機体がある。カラーリングこそ変更してあるが、機体自体は初期モノだ。

初心者ニュービーかな?このクエスト、難易度高めの設定だったはずだが……。」

手を出すか悩んだが、横取りになるってわけでもない。この手のクエストは参加人数自由かつ同時にクエストを受ける人物だっている。だから、リソースは奪い合いになることもしばしば。だが、それ以上にニュービーがこのクエストで「つまらない」とこのゲームを斬り捨ててしまう可能性を考えると残念な気分になる。

「半分くらい残して援護に徹するか……でもまぁ、そこまでは気合い入れねぇとな……さぁ!旋風を巻き起こすぜぇ!」

俺は気合いを入れるいつものセリフを叫び、腰のライフルを持ち、セミオートで戦闘機系を十機ほど撃沈させる。残りは軽くダメージを与える程度にして、ニュービーに残す。

そこからターゲットを人型に移し、ブレードに持ち直して高速で接近。

もちろん人型も迎撃のためにライフルを撃ってくるが、空中でもしなやかに動けるようにチューンした俺のストーム・ゼロなら被弾数は最小限にできる。

他の敵機もバズーカなどで加勢してくるが、しっかりと回避し敵機の首を落とす。

爆発することなく地上に落ちていく機体には目も向けず、次のターゲットに意識を切り替える。バズーカをとにかく連射する敵機が4機いるので、右手のブレードを左に持ち替え、再度ライフルを装備。バズーカの銃口めがけて銃弾をばら撒く。

狙い通りに銃口に入ったのは1つだけだったが、他のバズーカもしっかり破壊に成功。当初の目的は達した。

バズーカが爆破し、ブレードへの持ち替えをする敵機に急速接近。ガードが間に合うわけもなく、1機呆気なく撃破できた。

レーダーを確認すると、どうやらニュービーも戦闘機系の敵機は片付け終わったみたいだ。俺も少し急ぎ目に人型を片付けるため、ライフルとブレードを併用する。ライフルでヘッドを狙いつつ、接近してくる相手には左のブレードで対応する。

2体8の状況だが、俺が5でニュービーが3になるように立ち回っている。銃撃でニュービーを援護しつつ、ブレードで敵機を捌く。1機がブレードを向け突っ込んできたので、今仕留めた一機を蹴り飛ばし、突っ込んでくる1機にぶつけてやる。そのままライフルの連射で纏めて爆破させる。次に二体続けて接近してきたので、逆手持ちのブレードの回転斬りで胴体をぶった斬る。

ニュービーの方も順調に敵機を撃破している。俺は最後の一機を逆手持ちしたブレードを突き刺すことで仕留め、戦闘を終え地面に降りた。

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