俺はダンジョンが嫌いだ

ポン酢

第1話

「父さん、母さん!今日はどこまで連れてってくれるの?」


俺には父さんと母さんがいた。


「今日はなぁ、5階層に連れてってやろう!俺と母さんがいれば何があっても安心だ!アッハハー」


父さんはよく俺をそうやって冒険に連れてってくれる、最初はすごく怖かったがその時にはもう夢中だった。


「まぁまぁ、もうこの子をそこまで?あんまり危険なことをこの子にさせないでね、あなた〜?」


そんなことを言いながらもいつも嬉しいそうに笑う母さんと家族3人で俺はダンジョンに行くのがとても好きだった。その時はずっとそんな時間が過ごせるのだと思っていた。だが...


「わぁ、ここが5階層かぁ、4階層までとなんも変わらないね?」


「まぁなー、6階層からは少し景色も変わってくるんだそー?」


「えー、じゃあ早く行こうよ!さっさとここも攻略してさー」


「そう慌てんなって、いいか照一?ダンジョンってのはな、とっても危険なんだ、例え上層で俺と母さんがいたとしても何が起こるかは分からないんだぞ?だから絶対にダンジョンを舐めるな、わかったな?」


「えー、でもさぁ、ここまでそんなに危なかったことないよ?ゴブリンもコボルトだって1人で倒せたんだよ?」


「そうねぇ、確かにショウちゃんはすごいわよ?でもね、それは私たちが危なくないように一体ずつ相手できるようにしてあったからなのよ?」


「そういうことだ、それにまだ照一は小5なんだぞ?普通はダンジョンなんてまだ入れないんだからな、そこらの子と比べたらすごいことなんだぞ?」


「でもなぁ、俺も早く父さんと母さんみたいに強くなりたいんだもん、そして家族3人で1番最初にダンジョンクリアしたいよ!」


「アッハハ、嬉しいこと言うなぁ、お前にそんなこと言われたらまだまだ現役は辞められないなぁ、母さん?」


「そうねぇ、私たちも頑張らないとすぐにショウちゃんに置いてかれちゃうわね、だから慌てなくていいのよ、ゆっくりと強くなっていけばいいの、怪我でもしたら母さん悲しいわよ?だから少しずつ行きましょ、わかった?」


「母さんが泣くのは嫌だからそうするよ、でもいつか絶対強くなるからね!」


「おう!楽しみにしてるぞ!」


「えぇ、待ってるわ」



それから俺たちは5階層も着々と進んでおり、どこか浮ついた気持ちになっていたんだと思う


「こらこら、そっちじゃないぞー、あんまり変なとこ行くなよー」


「うん、わかってる、少しだけだからー」


そうして俺は普通は通らない小さな道を興味本意で進んでしまったのだ

タッタッタッ

「うわっ」


急に床が光出し俺は光に覆われた


「照一、そこをはなれろ!」


「ショウちゃん!!」

そして...



「ん〜、ここはどこ?」


光が止むと先程までいた洞窟ではなく大きな部屋だった


「照一、大丈夫か!?」


「ショウちゃん、怪我はない?」


なんと全員一緒にどこかに来てしまったようである


「うん、どこも怪我してないよ、それよりここは?」



「それは魔王である我が答えてやろう、人間の子よ」


その声は聴く者すべてを絶望へと誘うかのように身体の奥底に恐怖を植え付けられるようだった


「ここは100階層の魔王城だ、お前たちはここに転移してきたのだ、アレが反応したということは魔王の素質でもあるのか?人間の子よ」


「100階層?!母さん、俺たちの位置を調べてくれて!!」


父さんはあいつの言葉を聞き額に汗を浮かべながらもこの状況を理解しようとしていた


「やってるわ、えぇ、本当に私たちは100階層にいるそうよ、いったいどうして?」


母さんも流石ですぐにスキルで調べていた


「おい、人間たちよ、貴様らはまだここに来るには早すぎる、そしてそこに居られても我の邪魔だ、だから死ね」


凄まじい恐怖が俺たちを襲ってきてそれだけで俺は息も出来なくなり肩を震わせ何も考えれなくなってしまった


「照一!父さんと母さんの後ろにいなさい!父さん達がいるんだ、あんなやつ絶対倒してやる、だからしっかりしろ!」


「そうよ、ショウちゃん、私たちがAランク冒険者だって知ってるでしょ?例え魔王が相手でも平気よ!だからそんな顔しないで後ろで終わるの待ってなさい」


父さんも母さんもそんなことを言いながらも額に汗を浮かべ脚も震えていて俺と同じであいつに恐怖してるんだと思った、けど俺にはそんなことを感じさせないためか笑顔を向けてきたのだ、大丈夫だと、安心しろと、それを見て、あぁ、これが冒険者なんだって、俺には2人がとてもかっこよく見え震えが収まっていた


「うん!絶対あんなやつに負けないでね!」


「おう!任せろ!」


「えぇ、任せて!」


そんな風には勝つことを疑っていなかった次の瞬間...

ドサッ、

「え?」


急に2人が倒れ、だんだんと辺りに赤いのが広がっていた、そして目の前にはあいつが


「とう......さん?かあ......さん?」


何が起こったのか全くわからなかった、なぜ2人が倒れているのかも、いつからあいつがそこにいたのかも


「だから言ったろう、まだ人間には早すぎると、我に勝つなどと戯れ言にも程があろう、さてお前も一緒にこの2人とあの世へ行かせてやろうか?人間の子よ」


こいつは何を言っているんだ?父さんと母さんが負けた?そんな訳ない!2人はとっても強いんだ、今にもあいつを倒すんだ、だから早く立ち上がってよ、


「とぅゔさん!かぁあさん!いつまで横になってんだよ!早く起きてよ、あいつを倒してよ、ねぇ、かっこいいとこ見せてよ...」


俺はすぐに駆けつけ2人を揺さぶるが全く反応がない、そしてだんだん2人の身体が冷たくなっていくのを感じそこで理解してしまった、

ダンジョンでは絶対はない、例えSランク冒険者だとしても死ぬ時は死ぬし、それが親でも例外では無い、

そう、その時に俺は理解してしまった

2人が死んでしまったのだと、そして


「死なないでよ、嘘だって言ってよ、大丈夫だって、安心しろって、笑顔で......うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


俺はただただ泣き叫んだ、そしてそこで俺の視界は暗くなり、気絶したのだ


♢♢♢



「おい、起きろ〜、昼だぞ〜」


「ん?なんだ健二か、どした?」


「どした?じゃない、お前また寝てたよ、いつもいつも寝すぎだっての」


どうやら俺は寝ていたようだ、それにまたあの日の夢を見るようになったな


「可愛い子にどうせなら起こしてもらいたかったなぁ」


「なっ、おまえー、そんなこと言うならもう起こしてやらんぞ?」


「うそうそ、いつもサンキューな健二」


「おう!いいってことよ、それより早く学食行こうぜー」


「ああ、行くか」



あれから5年が経った

俺はあれから急にダンジョンの入口3人一緒に現れそのまま病院に運ばれたらしい、けどやっぱり2人が生き返ることなんてなかった


そして、それからは色んな人が俺を訪ねてきたが、親の冒険者仲間だった人達によって通さないようにしてくれたり、病院にいる間すごく世話になった、そしてテレビやネットでは世界で初めて100階層へ行ったことや魔王が実在したことなどが当時はその話で持ち切りだった、なぜ話題になったかと言うと、ダンジョンの入り口には最高到達点というのがわかるボードがあり、随時更新されるのだが、そこに100階層の文字が出てきてしまった、それを見た受付の人達がこれは緊急事態だと思い直ちにそれを消したのだが、その数分映っていた画面を見た冒険者達が騒いだことにより、本当か嘘かということで話題になったのだ


そのあとは、祖父と祖母に引き取られていたがこの春からまた日本で唯一ダンジョンのあるこの街で一人暮らしをすることにした、何故かと言うと昔の父さんの知り合いが大家をやっているアパートに一人暮らしをするなら安く貸すぞと言われ渋々この街にやってきた、安い方がいいに決まってるしね


でも、俺はダンジョンが嫌いだ、ダンジョンは俺から家族を奪ったんだ


そしてあれから俺は冒険が怖くなった、前へ進むことはできるのだろうか...

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