第9話 晴れて地獄行き。
一通りの登録を終えた俺たちは、明日また来て冒険者証をもらうことを約束し、クマキチさんに教えてもらった道をたどって、経営しているという宿にたどり着いた。
「これが宿か…?」
街の中心に比較的近い場所で、レンガ造りの建物…5階まであり、宿屋というよりは合宿所を思わせる。前庭もあり、まさに大豪邸のようだ。
「本当にここですか?間違えたんじゃ」
「いや、俺はまだボケちゃいない。ここで合ってる」
だが、気持ちはわかる。入りづらい。いかにも高級別荘か、屋敷のようなところにはものすごく入りづらい。
なんて宿の前で立ち尽くしていると、ドアが開いてクマキチさんが現れた。
「おお、お前ら来たのか。って、なにやってんだ?」
よかった。まだ俺はボケていなかったようだ。いや、でもさぁ。
「ここって、宿屋ですか?」
「ん?そうだが?なにか問題が?」
いや、どうしたらこんな豪邸が宿屋になるんだよって話。
「ああ、この街を治めてるアルフレッド卿と知り合いでな。なんか新しい屋敷ができたっていうから譲ってもらった」
「譲ってもらった!?」
「宿屋始めるっつったら改装してくれた」
「あんたいったい何者なんだよ!」
いや、本当にどういう人だこいつ。なぜ宿屋の店主なんかやってるんだろう。
「ああ、結婚したと同時に冒険者家業はやめた。せいぜいBランク止まりだったな」
「いや、いいじゃないですか」
「なんとか【エリート】までは上り詰めたんだけど、さすがに命を賭けた職業ってのはいけなくてなぁ」
「あんたすげぇことサラッと言ったな今!」
ダメだ、ツッコミをしてたらキリがない。
もう、この時点で疲れた…
俺たちは早速宿の中に入った。正面には未だにそのアルフレッド卿とやらが使っていたまんまのでかい階段があり、レッドカーペットが床をまっすぐに走っている。横には申し訳程度のカウンター…もうここ高級ホテルじゃん。
「一応、3部屋用意できてる」
「いや、そんな悪いです。2部屋でいいですよ。俺と先輩がツインで1部屋使えばいいし。新田はシングルで。一応女子なんで」
うむ。それに賛成。繁盛する時期じゃないらしいがその方が効率もいい。
それでいいから、早く部屋に行こうといいかけたとき、新田が衝撃発言をした。
「いえ、1部屋でいいです。ベッド3つあれば」
「「「は?」」」
は?なんでよ。さすがに男女が1つの部屋はダメだよ。一応新田は女子だから。一応。
「先輩、私をまたパニックにするつもりですか?」
「いや、知ったこっちゃねぇよ」
なにが何でパニックになるんだよ。知らんわ。
「私が寂しがり屋だってわかってますよね!?」
なにそれ?それ初耳ですよ?俺、知りませんよ?なんだよその無駄な設定。
「それに、私、暗所恐怖症なんですよ!?1人で暗いところで寝るとかできませんよ!?」
「子供か!」
「子供で悪いですか!?私まだ中学生ですよ!?」
「普通小学生にもなれば1人で寝るわ!」
今明かされる驚天動地に等しい事実!新田は1人で寝られない!知らんかった、つーか無駄に可愛いな、おい!
「つまり、ここをパニックになって破壊してもいいんですね!?死んでいいんですね!?」
「う…」
「私を1人にしたら碌な事にならないのわかってますよね!?」
「うぬぬぬぬ…」
「どうなっても知りませんからね!」
「わかった!3人1部屋にしよう!」
命の危険を感じた俺は何も考えずに決断をした。
大丈夫だ、健全だ。だって、新田だもん。たかが新田だもん。うん。
…………なんか悲しくなってきた。
〇 〇 〇
翌日。俺たちは再び冒険者ギルドに来ていた。冒険者証を受け取り、正式に登録するためだ。
今日は酒のにおいにやられる心配はない。なんたってマスクがあるのだ。
俺は堂々とドアを開ける。だが、昨日のように酔ったりはしない…はず…
いや、だめだ。マスクだと逆効果だったか…においが、きつい…
俺はなんとか体を動かしてカウンターの場所に滑り込む。それに赤坂が続き、新田が堂々とやってきた。くそ、アルコールも効かないとかやっぱこいつチートじゃないか。
「あ、来ましたか…って、昨日より顔色悪いですよ!?」
「だから、ドアを新しくつけるか、換気をしましょうよ…」
それから、水をもらって回復した後、俺たちは正式に冒険者証を受け取り、晴れて冒険者になった。
そして…
「では、例の強制受講にまいりましょうか」
「「「あ…」」」
晴れて、俺たちは地獄行きになった。
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