第35話 ビーチと言ったらプライベート

「う!」

「み!」

「だあーーー!」


 テンション爆上がり女子ーズが、砂浜で楽しそうに叫ぶ。

 確かに綺麗な海だ。入り江になっていて波も静か。海水も青く、ゴミが浮いていない。

 まさか神奈川県にこんな綺麗な海があるとは思わなかった。しかも俺達以外に客がいない。完全な穴場だ。

 綺麗すぎる海に見とれていると、数寄屋が俺の隣で爽やかな笑みを浮かべていた。


「どう? 気に入ったかな?」

「ああ、すげーよ。よくこんな場所知ってたな」

「うん、プライベートビーチだからね」


 ………………………………ん?


「ぷら……え?」

「プライベートビーチ。ここ、うちで買ったビーチなんだよ。人も来れないようにバリケードもしてあるから、思う存分遊べるよ」


 …………。


「ああ! ありがとう!」


 俺は、考えないことにした。

 頭を切り替え、俺達は仮設されている建物の中で、早速水着に着替えた。この間の店で買った、何の変哲もないサーフパンツだ。


「おお……相変わらずユキカズは腹筋割れてるね。しかも全体的に引き締まってる」

「リン〇フィットのおかげだな。入学してからずっと続けてて皆勤だぜ」


 姿見で見ると、確かに前より筋肉質になっている。別にプロテインとか栄養剤は飲んでないけど、普段通り寝て、食って、運動してたらこんな体になった。

 うん、中々イケてるんじゃないか、俺?

 まあ、そういう数寄屋は……。


「お前もやべーな……」

「まあ、僕は運動もしてるし、普通だよ」


 いや、そんな凸凹してる体は普通とは言わない。

 くっ……! 流石運動が得意な奴違うな……!


 そんな二人でビーチに戻るが、まだ女子ーズは戻って来ていない。まあ女性は準備が多いって聞くし、気長に待つか。

 その間に周りを見渡してどんな感じなのか確認する。


 周囲が崖に覆われているこじんまりとした入り江。だが、俺達五人が遊ぶには十分くらい広すぎる。

 端っこには今着替えて出てきた仮設の建物。デッキにはテーブルと椅子、日除けのパラソルも備えられている。さっきちらっと見たが、中には飲み物の自販機とアイスの自販機もあるみたいだ。数寄屋家、マジでナニモンだよ……。


「それにしても晴れて良かったねぇ。僕、1週間前からずっと天気予報ばかり見てたよ」

「あー、咲良もそんな感じだった。家中のカレンダーに丸付けて、毎日ニュースの天気予報とか天気アプリと睨めっこしてた」


 あの時の咲良はホント可愛かった。少しでも雨マークが付いたら泣きそうになり、晴れたら笑顔になり、曇ったらむむっという顔をする。まさに百面相だ。


「そういうユキカズは?」

「は? 楽しみに決まってんだろ怒るぞ」

「理不尽……」


 だって……だって今日は海だぞ! 海水浴だぞ! なんて言っても水着だぞ!

 あの! 咲良の! 水着姿だぞ!? これを楽しみにしないで何を楽しみに人生を生きればいいのだ! アホか!


「まあ、サクラさん大好きユキカズの気持ちはちょっと分かるかな。皆美人だもんねぇ」

「咲良を狙ってると分かった瞬間、俺のリン〇フィットで鍛えた拳が火を吹くぜ」

「そんな命知らずなことはしないよ」


 肩を竦めてどこ吹く風の数寄屋。何故だろう、無性に殴りたい。相変わらずくそイケメンめ。

 自分でも分かるほど呆れた顔で数寄屋を睨み付けていると、仮設建物からわらわらの3人の女の子がビーチに出てきた。3人ともまだパーカーを着ていて、水着は顕になっていない。


 そんな中、自信満々な笑みを浮かべるのは羽瀬さんと峰さん。咲良はどことなく恥ずかしそうだ。


「ふっふっふー……待たせたな、野郎共!」

「あーしらギャルコンビのえちえち水着、です!」


 いち早くパーカーを脱いだのは羽瀬さん。

 予想外にバンドゥビキニで、咲良級の形のいい胸を隠そうとしない堂々としたものだ。褐色の肌、赤い髪とよく似合う。

 次に脱いだのは峰さん。

 パッションイエローのハイネックビキニ。2人ほどの胸は無いが、綺麗すぎるクビレと病的に純白の肌。これもよく似合っている。


「2人共、よく似合ってるよ。ね、ユキカズ」

「ああ。流石って感じだ」

「にへへー、やっぱウチの肉体美はか、ん、ぺ、き♡」

「うっふん、あっはん♡」


 うぜぇ……。

 そして最後に咲良、なのだが……。


「…………」


 もじもじ、もじもじ。ちら、ちら。

 恥ずかしいのか、一向に脱ごうとしない。どんな水着を来てるのか……俄然気になるぞ。


「ほらほら咲良っち! 時田っちが待ってるよ!」

「わ、わわわわ分かってるっ。分かってるから……!」


 顔を羞恥で歪めている咲良。だけど意を決したのか、ゆっくりとパーカーのチャックを開く。


「……ぉ……ぁ……」


 王道中の王道、三角ビキニ。しかも咲良の名前と同じ桜色。しかも花柄のパレオを巻いている。

 圧倒的ボリュームに若干収まってない感は否めないが……それでも下品な感じはしない。むしろ華やかで、可憐で……。


「…………」

「……あ、の……雪和、くん……」

「っ! あ、えと、その……に、似合、てる……ほんとに……」

「あっ、ありっ、ありが、と……」


 思わず顔を背ける俺。咲良も頬を染めてパーカーを握り締める。でも分かって欲しい、俺のこの気持ちを。

 そわそわします。そわそわするのです。うん。


「……何かウチらと反応が違うし……」

「まーまー紅葉。時田ちんはいつもこうでしょ?」

「熱々バカップルは置いといて、早速遊ぼうよ。準備運動はしっかりとね」

「「うーい」」

「「ば、バカップルじゃないもん!」」


 失礼なやつだ! どう見ても健全なカップルでしょうが! 全くもう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る