第31話 咲良の勇気

 燃え尽き症候群から回復した俺。俺が半分気を失っている間に、どうやらプリクラを撮ることになったらしい。

 プリクラ。噂では聞いていたが、一度も撮ったことはない。いわゆるプリクラ童貞。まさかここで捧げることになるとは思わなかった。

 しかも周りは美男美女ばかり。俺、確実に浮いてるなあ。


「どの台にする? やっぱ美白?」

「えー、美白にしたらウチの自慢の褐色肌がなあ。やっぱ盛り盛りっしょ」

「オケー」


 この会話は羽瀬さんと峰さんのもの。

 俺と同じくプリクラ童貞の数奇屋と、プリクラ処女の咲良は流れに身を任せるだけなのである。

 それにしても、色んなものがあるんだな。美白、透明感、盛り。うーん、違いが分からん。


「じゃ、咲良っちと時田っちが前ね。で、真ん中に数奇屋っち、横にウチらって感じで」

「ひゅーひゅー! 数奇屋ちん両手に花だね!」

「はは。うん、アカバさんとナツミさんのような美しい花を持たせてもらえるなんて、とても光栄だよ」


 数奇屋を間に挟んで弄ろうとした二人。数奇屋のイケメンっぷりに敢え無く撃沈。


「くっ……! 数奇屋っちめ、流石モテ男は言うことが違うぜ……! 時田っちとは大違いだ……!」

「数奇屋ちんを困惑させるにはこれくらいじゃダメか。これを言ったら、時田ちんなら瞬殺なんだけどなぁ」

「おいこらそこの2人」


 俺に対しての誹謗中傷が酷いぞ。泣くぞ、泣いちゃうぞ。


「瞬殺……私も……れば行ける……?」

「ん? 咲良、どうかしたか?」

「んえ!? ななな何でもないよ!」

「そ、そうか? まあ、気分が悪くなったら言えよ」

「う、うんっ。ありがとう」


 本当に大丈夫だろうか? 今もちょっと顔が赤いし、挙動も不審だ。やっぱり慣れなゲーセンで疲れてるんじゃ……?


「はいはい、さっさとプリ撮ろうぜ」


 と、羽瀬さんが慣れた手付きで何やら画面を操作している。俺には分からない設定とかそういうのがあるのだろう。ここは羽瀬さんに任せよう。


『撮影が始まるよ』


 機械から女性の声が流れる。


『ニャンニャン、猫ちゃんポーズ♪』


 ……へ?


『3、2――』

「時田っち、にゃんにゃん!」

「えっ、こ、こう?」

『――1』


 ――パシャ。


 え、ええ……マジ、これ?


『顎の下でピース♪』


 くっ! 別ポーズか!


『3,2,1』


 ――パシャ。


『胸の前でハート♪ 3,2,1』


 ――パシャ。


 な、なるほど。要領が掴めてきたぞ。これなら……。


『好きなポーズで♪』


 いきなり丸投げ!? え、えっと、えっと……!


「雪和くん……!」

「――ぇ……?」


 気付くと咲良は、顔を真っ赤にして俺の右腕に抱き着き……恥ずかし気な顔で俺を見上げて来ていた。

 まるでキスをするかのように俺の目の前まで迫る咲良の顔。鼻腔をくすぐる花のような可憐な香り。頬は朱色に染まり、群青色の瞳はうるうると潤んでいる。

 こ、これ、このままキスしたら行けるんじゃ……。


「咲良……」


『3,2,1』


 ――パシャ。


 ッ……!


 カメラのシャッター音とライトにより、俺は一気に現実に引き戻された。

 後ろをチラッと見ると、3人もビックリした顔で俺と咲良を見ている。それもそうだ。あの咲良が、こんな大胆な行動を取るなんて……。

 と、腕を動かそうとすると……むにゅん、もにゅん、たゆん……あれ、この感覚は……?

 あ、これ……こ、この格好……!?

 咲良が俺の腕に抱き着いてる……そのせいで、咲良の豊満な胸というかおっぱいというかパイオツというか巨乳というか乳が俺の腕で圧し潰されてあわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ(思考停止)。


「え、へへ……好きなポーズって言うから、好きな人に抱き着いてみました……みたいな……?」


 笑顔が眩しい……!


「……俺、今日から咲良教教主になる……」

「咲良教って何!?」

「女神過ぎる俺の彼女を崇め奉るための宗教だ」

「時田っち、それウチも入る」

「時田ちん、あーしも」

「僕も入れてほしいな」

「ああ、皆で可愛いの女神を信仰するのだ」

「「「ははー」」」

「悪ふざけしないで!? いい加減怒るよ!」


 さーせん、てへぺろ。

 確かに今のは悪ふざけが過ぎたが……何と言うか、そんな気持ちにさせる程の何かが咲良にはある。これが惚れた弱みというやつか(多分違う)。


 だけどそれにしても……まさか咲良がこんな大胆なことをしてくるなんて思ってもみなかった。まだ俺の腕から離れないし。おっぱい的感触はとてもウェルカムだから嬉しいんだけど。

 それでも、咲良からこういうアクションをされると……どうしても勘繰りたくなる。

 咲良は一体何を考えているのか。どうして俺の腕に抱き着いたのか。そして、当ててるのよと言わんばかりのおっぱをどうして離さないのか。


 もしかしたら俺は……咲良のことを、本当の意味で理解していないのかもしれない。

 漠然とだが、そう思ったのだった。

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