第27話 心理的攻防

「な、つ、や、す、み、だぁーーー!!!!」

「いぇーーーーーーいっ! フゥーーーーー!!!!」

「ふ、二人共っ。シーッ、シーッ」


 テンション高いなー、ギャルお二人。

 無事に終業式を終え、今は下校途中。周りの生徒も、意気揚々と下校している。

 それもそうだ、明日……というか、今日の午後からもう夏休み。これでテンションが上がらないと言うやつは、枯れてる青春を送っていることだろう。

 そんな俺も例に漏れずテンション上がり気味。流石に二人みたいに露骨ではないけど。イェア、ヒュイゴー。

 俺の中のエセパリピがテンアゲしてると、俺の隣にいる数寄屋も楽しそうな笑みを漏らした。


「ふふ。皆と遊ぶ夏休みって初めてで、僕楽しみだよ」

「へぇ、意外だな。数寄屋なら女の子に引っ張りだこだと思ってたんだけど」

「僕の場合、レイカがまだ小さかったからね。でも今年から母さんが時間が出来たから、レイカのお守りがなくなったんだ」


 ああそうか。レイカちゃんまだ小さかったもんな。親が仕事なら、必然的に数寄屋がお守りをすることになるのか。


「なら、今年はめいっぱい楽しもうな」

「うんっ。ユキカズとサクラさんの恋愛模様も近くで観察したいし、楽しませてもらうよ。分かってるねユキカズ。じっくり、じっくりだよ」

「分かってる分かってる」


 俺と数寄屋の作戦はこうだ。

 夏休みは長い。その長さを利用し、ジリジリと雰囲気を高めていく。

 そして目指すは8月10日の花火大会。峰さんが言うには、花火は女性の性的興奮を高めてくれるらしい。

 そこをピークにし……俺は大人の階段を登る咲良のおっぱいを揉む


 それまでは我慢……我慢するのだ。

 咲良に、「え、いきなりエッチなことしてくるとか、人としてどうなの?」とか「ケダモノ! 最低!」とか「うわ……」とか思われたら俺は確実に死ぬ。大人の階段真っ逆さま。崖から転落死するまである。


 まだ花火大会まで時間はある。

 くくくくく……今日からじわりじわりと攻め立ててやるぜ、咲良……!


 前方で女子3人仲良く話している姿を見て、俺は誰にも気付かれずほくそ笑んだ。


   ◆◆◆


「いいか咲良っち。夏休みに入ってじわりじわりと行くなんて童貞の発想だ」

「押せ押せドンドンだよ、咲良ちん……!」

「お、おっす……!」


 終業式が終わり下校途中。私達は雪和くんと数寄屋くんに聞こえないように、作戦について小声で話していた。

 流石紅葉ちゃんと夏海ちゃん、経験豊富そうな意見……!


「もう既に好感度カンスト状態っ、しかも付き合ってて同棲までしてるっ。流石に咲良から誘ってってなると、時田っちも引くかもしれない……だからここは、誘惑して時田っちが咲良っちを押し倒すよう仕向けるんだ」

「二人に選んでもらった新しい下着もあるし、頑張るよ……!」


 部屋でちょっと着てみたけど、あれはかなり際どかった。ギリギリだ。でも男の子はああ言うのが好きって夏海ちゃんも言ってたし、間違いない……!(ソースはえろげ? らしい)


「幸い、時田ちんはこっちの思惑に気付いてなさそう……私達との予定は3日後からだし、続報を期待しまくってるよっ」

「セックスまで行かなくても、どこまで誘惑出来たかも詳しく教えてくれよな」

「う、うんっ。作戦を考えてくれた二人のために……咲良、本気出しますっ」


 ふふふふふ……今日からぐいぐい誘惑しまくってあげるよ、雪和くん……!


 後ろで数寄屋くんと楽しげに話している雪和くんを見て、小さくほくそ笑んだ。


   ◆◆◆


 雪和と咲良は他の3人と別れると、寄り道せず真っ直ぐに自宅へ帰宅した。

 特に変わることのない実家に、いつもと変わらない帰宅の挨拶。

 だが2人の内心は、烈火のごとく燃え上がっていた。


(じわり、じわり……エロいことに興味なさそうな咲良を、少しずつエロい方向に誘導する……!)

(ぐいぐい、ぐいぐい……お母さんもいないし、とにかく誘惑あるのみ……!)


 目的は同じなのに過程が真逆の2人である。


「ふぅ、ようやく夏休みだねぇ〜」

「ああ、そうだな。春香さんもいないし、久々に2人っきりの家だ」


 雪和の何気ない言葉に、咲良の肩が震える。


(ふ、2人っきり……!? ま、まさか雪和くん、いきなり誘ってる……!?)

(くくくっ、咲良よ。2人っきりというワードに過剰反応してるのが丸分かりだぞ。いくらエッチなことに興味なさげな咲良でも、密室で2人っきりというのは意識せざるを得まい!)


 何故か心理的優位に立っている雪和。

 だが咲良も黙っていない。咲良は意を決して反撃に出た。


「2人っきり……何だか緊張しちゃうね」


 つん、と雪和の胸板をつつく。

 その思いもよらぬ行動に、雪和の童貞心が浮き足立った。


(なっ、なにいいいいいーーーー!? い、いきなりスキンシップ!? ボディータッチだとぅ!? そんな馬鹿な! これはまだ2週間先の予定なのに!)

(キャーーーーーッ! 触っちゃった! 雪和くんの胸板に触っちゃった! 思ったより逞しい胸板に触っちゃったよぉーーー!)


 互いにひっそりと生唾を飲み込む。

 互いが互いに、自分と思った反応をしない相手に対してドギマギしているのが分かる。


 ここで雪和が自分のペースに引き込もうと口を開いた。


「確かに、好きな人と2人っきりってのは……思いの外緊張するな」

(どーだ! 2人っきりというワード+好きな人という強ワードの合わせ技じゃい!)


「す……!? そ、そう、だね」

(やっぱ意識してる!? 雪和くんめちゃめちゃ誘ってる!? これはもう雪和くんから押し倒しムーブ確定演出なのでは!? あああテンパりすぎて夏海ちゃんみたいなこと言ってるーーー!)


 雪和の含みのある言い方に緊張する咲良。

 だけど咲良もタダで精神攻撃を受けているだけではない。


「な、何だか汗かいちゃったなぁ。ふぅ〜」


 不意に開かれる第2ボタン。

 夏の陽射しでうっすらと汗ばむ首元から胸元に掛けてのライン。そこから、脳髄を刺激するフェロモンのような匂いが雪和の鼻をくすぐった。


(何……だと……!? あの咲良が……あの咲良が服をはだけている……!?)

(ど、どうよ雪和くん……! 私のこと襲いたくなった? エッチしたくなったんじゃないの? ふふんっ、私はしたいよ!)


 何ともおマヌケな攻防である。

 しかし。


「あの、咲良。流石に男の俺がいる前でそれは……」

「……しゅみません……」

(うわあああああああああやらかしたあああああああああ!! 雪和くん思いの外冷静だった! 冷静に指摘された! でもこれで野獣にならない雪和くん紳士! 大好きぃ!)

(うおおおおおおおおおおやらかしたあああああああああ!! もしかしたら咲良なりに勇気出してくれたのかもしれないのにぃ! 何冷静に指摘してんだ俺! でも色っぽい咲良も可愛すぎか! 大好きすぎるぅ!)


((にゃあああああああーーー!!!!))


 どっちもどっちである。

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