サマー!サマー!!サマー!!!

第25話 夏休みに向けて

   ◆◆◆


 梅雨が明けると、初夏の陽射しがチリチリと肌を焼く季節になる。

 今日も今日とて太陽の機嫌はすこぶるよく、放課後でも俺達の頭上で憎たらしく輝いていた。


「あっちぃ……」

「もう7月だもんねぇ」


 テレビ公開告白から早3ヶ月。俺達の日常は何事もなく過ぎていき、咲良への告白はあれからなりを潜めた。

 平和も平和。ド平和だ。

 俺の隣を歩く咲良を横目で見る。

 つい昨日まで長袖だった咲良だが、今日から衣替えということで学校指定の半袖のワイシャツを着ている。


 白く、水を弾くほどの艶やかな肌を惜しげもなく晒している。

 更に冬服と違い、僅かだが薄い生地のスカート。

 プラスしてブレザーがないから、いつもと同じ長さのスカートなのになんとなく短く感じる。

 そして夏服にはリボンがないから、第1ボタンが外されていて綺麗な鎖骨がチラチラ見える。


 ぶっちゃけよう。

 とてもエロい。エロすぎて家で見たときマジで拝んだレベル。

 冬服から夏服に変わっただけで、こんなに印象が変わるなんて……土鍋高校の制服はマジ神。考えた人にノーベル賞あげたい。


「もう直ぐ夏休みかぁ。お互い中間テストも無事乗り越えられたし、めいっぱい遊ぼうね!」

「おう」


 土鍋高校は二学期制で、中間テストは6月末から7月頭で行われる。そして今日がその最終日だった。

 俺と咲良は毎日一緒に勉強しているから、中間テストも難なく突破。むしろ学年トップの咲良から手取り足取り教えてもらったから、今までにないほど感触がいい。

 照崎先生からは、中間テストで赤点を取ったら夏休みも補習と言われた時は焦ったが……この感触なら、問題はないだろう。


「咲良、夏休みは何やりたい?」

「そうだねぇ……花火大会でしょー、縁日でしょー、日雇いバイトでしょー、海水浴にー、プールにー、スイカ割りにー、エッ……」


 ……ん? いきなり固まったぞ? 何か言いかけてたみたいだけど……。


「咲良、どうした?」

「なっ、なななななーんでーもなーい!」

「そ、そうか?」


 何でこの子、こんな顔真っ赤にしてんの? 熱中症? 大丈夫?

 顔を真っ赤にして息を切らしている咲良。ほんと、心配だ。


 咲良の急変に首を傾げていると、不意にさくのスマホが鳴った。


「あ、夏海ちゃんからだ。出ていい?」

「ああ、いいよ」

「ありがと。……あ、もしもし夏海ちゃん? ……うん……うん、雪和くんもいるよ」


 え、俺?


「雪和くん、これから夏海ちゃんと紅葉ちゃんが、テストの打ち上げも兼ねて皆でお昼ご飯食べないかって。数寄屋くんも近くにいるみたい」

「お、いいな。行こうぜ」

「うんっ。あ、もしもしーお待たせー。雪和くんも行くって。……うん、じゃあ駅前行くねー」


 咲良が電話を切ると、朗らかな笑みを向けてきた。


「夏海ちゃんが、ご飯食べながら夏休みの予定組もうってさー」

「夏休みの予定か……まだ気が早い気もするけど、それもいいな」

「紅葉ちゃんも無事に赤点回避出来たみたいだし、思う存分遊べるね!」

「夏休みの宿題があるけどな……鬱だ……」

「ふっふっふ。夏休みの宿題はね、夏休みが始まる前に終わらせるのがいいんだよっ。私はもう英語と数学は終わらせたっ」

「それテスト前に配られたやつじゃん……」


 テスト前には英語と数学、今日は国語と現代社会、理科、情報の宿題が配られた。

 夏休みが始まるまでにまだ1週間近くあるんだが……。


「甘いよ! 甘々だよ雪和くん! 高校1年生の夏休みは今しかないんだよ! 来年からはちょっとずつ受験を意識するようになるし、何も考えず遊べる時間は今しかないの! ビバ高1の夏!」


 夏休みに対する本気度がえげつない。

 だけど……それもそうだよな。俺も大学は咲良と一緒の所に行きたいし……来年は本気で勉強するとなると、思いっきり遊べるのは今しかないんだ。


「……楽しみだな、今年の夏は」

「うん! 遊び尽くすよーーー!」


   ◆◆◆


「という訳で、第1回高校1年の夏を超楽しもう計画会議を始めます!」

「いえーい! 咲良っちノリノリー!」

「キャーッ、咲良ちんかっくいー!」


 ワォ、陽キャのノリ。

 駅前の喫茶店で合流した俺達は、適当に食べたいものを頼んだあとに夏休みについて話し合うことにした。


 羽瀬さんと峰さんも衣替えが終わり夏仕様になっているが……これがまた露出度が咲良の比じゃない。

 羽瀬さんは胸元のボタンを第3まで開けてるし、峰さんはスカート超短い。ぶっちゃけ目のやり場に困るがとても目の保養です。ありがとうございます。


「あははっ。やっぱりアカバさんとナツミさん、元気だねぇ」

「あれ? いつの間に名前呼び?」

「テレビ公開告白からちょっとね。今では、休みの日に一緒に買い物とかに行ってるよ。レイカも2人には懐いてるし」


 やだ、ちょっと聞きました? この子普通に他クラスのギャルと休みの日に会ってるんですって。しかももう家に呼んでるらしいですわよ。俺ですら呼ばれてないのに。もしかしてこいつ隠れヤリチンか?


「雪和くん、数寄屋くんっ。会議が始まるので集中してください」

「あ、はい」

「ごめんね、サクラさん」


 咲良ガチすぎ問題。

 俺の隣に座るのは数寄屋。前には咲良、羽瀬さん、峰さんが座り、テーブルの上にノートとシャーペンを広げていた。


「まず各自夏休みにやりたいことを言ってください」

「はいはいはーい! 海! 海行くー!」

「あーしは夏祭りかなぁ。浴衣着てー、神社裏のむふふイベは消化必須っしょ!」

「はいはい。海と、夏祭り(むふふイベ)……」

「待て待て待て待て! むふふイベは書かなくていい!」

「ちょっ、時田っちなんも分かってない! 花火の咲く同じ夜空を見上げて隣に立つ異性を意識し、誰もいない神社裏に行くのは必須中の必須! 確定イベ! それに花火大会は女の性欲を高めるっておばあちゃんが言ってたもん! おばあちゃんの知恵袋だもん!」

「おばあちゃんじゃなくて下ネタの知恵袋じゃねーか!?」

「お母さんもそれでお父さん落としたって言ってたし、間違いない!」

「前提が間違いだらけだよ!? 俺達高校生だよ!?」

「え? 今どき高校生で結婚する子いるけど」

「どこの世界線の高校生!? 絶対数が少ないよ!?」


 ギャーギャーワーワー。


「あのぉ、お客様? 他のお客様もおりますので……」

「「あ……ごめんなさい……」」


 しゅんとなる俺と峰さん。悪ふざけが過ぎました。てへ。


「ぐぬぬ……! 二人の間に割って入れなかった……! むふふイベとか神社裏とか、何かの隠語だとは思うのに分からなかったよ……!」


 あー、まあ……隠語っちゃ隠語か。うん、間違ってはない。


「まあまあ咲良っち。あとで時田っちに手取り足取り教えてもらいな」

「雪和くん、よろしくお願いします」

「待て待て、全部俺に擦り付けるな!」


「お、きゃ、く、さ、ま?」


「……すみません……」


 ちくしょうなんて日だ!

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