第23話 告白のやり方
と言っても、直ぐに行動に移す訳ではない。
俺の目標は、咲良へ俺の本当の気持ちを伝えること。そして、他の男子からの告白を無くすこと。
俺の気持ちを伝えるのは……多分、出来る。簡単ではないけど、咲良への想いを素直に言えばいい。
問題は後者だ。
「つーわけで数奇屋、手伝ってくれ」
「まあいいけど……何か案は考えてるの?」
「いや、何も。だから考えるところから手伝って」
「君のそういう潔いところ、嫌いじゃないよ」
「奇遇だな。俺もこういう俺が好きなんだ」
昼休み、いつもの校舎裏で数奇屋と飯を食いながら軽口を叩く。
しかもただの校舎裏ではなく、殆ど目につかない校舎の端っこからしか行けないここが、俺と数奇屋がいつも昼飯を食っている場所だ。
地面はコンクリートが半分。青々と茂っている草の絨毯が半分。
背後には校舎があって誰にも見られず、道路からちょっと高い場所にあるから外からも見えない。完全に学校の死角だ。
わざわざ持ち込んだレジャーシートに並んで座り、俺は咲良の作ってくれた弁当を。数奇屋も親の作った弁当を食べる。
「ユキカズの言いたいことは分かるよ。でもそれって、ユキカズとサクラさんが付き合ってるって周りに言わなきゃいけないんじゃない? サクラさんはまだ独り身って思ってるから、皆告白してくる訳だし」
「やっぱそう思う?」
「思う」
だよなぁ……。
咲良が誰とも付き合ってない=自分にもチャンスがある。
その気持ち、分からなくもない。多分俺が逆の立場だったら告白してると思う。
だからこそ、俺達が付き合ってることをアピールして牽制する必要があるんだ。
「でも、周りには兄妹だって言ってるしなぁ……」
「義理だって言っちゃったら?」
「そしたら教師が絶対うるさいだろ……」
教師には当然俺達が義理の兄妹だって言っている。でも義理の兄妹が付き合ってるなんて知られた日には、同棲がどうたらとか、不純異性交友がどうたらとか、ありがた迷惑なご高説を垂れてくるに決まってる。
参ったな……どうすりゃ上手く解決するんだ……?
「じゃあ、ユキカズが彼氏ってことを隠して噂を流すのは? サクラさんは実は彼氏がいるとか」
「噂程度じゃ告白ラッシュを止めるのは難しいと思う。決定的な何かが欲しい」
「決定的な何かって言うのは……」
「勿論、今から考える」
「うーん……難しいねぇ」
無茶振りだって言うのは分かってる。それでも数奇屋は、一緒になって頭を悩ませてくれた。
多分俺一人だったら、変な案しか浮かばないだろう。でも数奇屋と頭を突合せて考えたら、何かいい案が生まれるかもしれない。
まあ、今は2人揃って頭を悩ませてる訳だが……。
「いっそのこと名前も顔も伏せて公開告白とか」
「そんなこと不可能だろ……」
「あー、まあそうか」
名前と顔を伏せて公開告白とか意味分からん……。
──チリッ。
ん? ……何だ? 今何かが頭の奥で引っかかったような……何だ?
妙な違和感と引っかかりを覚えながらも、俺と数奇屋の話し合いは続く。
だけど結局この日は何も案は出ず、予鈴が鳴ってお開きとなった。
◆◆◆
そして放課後。
咲良への告白は今日で15人目。
流石に俺も精神的に限界を感じ、今日は大人しく教室で待つことにした。
誰もいない教室。まだ夕日は差し込まないが、外から聞こえる運動部の青春の声が響く。
窓際の机と椅子を拝借し、僅かに開いた窓から吹き込む風を感じながら、読者に勤しむ。
今頃咲良は、誰かからの告白を断っているはずだ。多分、あと10分くらいで教室に戻ってくるだろう。
「……やっぱついて行けばよかったかな……」
持参したラノベの内容が全く頭に入ってこない。
少し読んだら集中力が切れ、少し戻って読もうにもどこから集中力が切れたのか分からず、結局最初から読み直すはめに……。
はぁ……。
「時田ちん、何読んでんの?」
「え? うおっ!?」
み、峰さんっ……!? 近っ、顔近い……!?
「あっ、これタヌ吉先生の最新刊じゃん!? あーしタヌ吉先生のラノベ全部買ってるよ!」
「え、マジ? 意外……」
「あーしホントーはエロゲ好きなんだけどさぁ。タヌ吉先生がシナリオ書いてるエロゲはマジ神! 抜きポイントもさることながら悲しくも笑いあり、力強くも儚げなシナリオは本当に尊敬する! それに合わさってイラストもちょーーーエロい! あ、今度オススメ貸してあげよっか! 抜けるよ、めっちゃ捗るよ!」
「そんなことでっかい声で言うじゃありせん!」
ギャル怖っ! こんなこと大声で言うとかやめて恥ずかしい!
俺の座ってる前の席に座ると、脚を組んでスマホの画面を見せてくる。
「ほら見てこのエッチなイラスト! これだけでも抜けるんだけど、実はこのシーンに行き着くまでに泣けるわキュンキュンするわえへえへするわのシナリオがあってね!?」
「わ、分かった! 分かったから見せんでいい! てかお前18歳未満だろ! こんなのどうやって買ってんだ!」
「あ、うちの親中古屋経営してるから、こういうのよく入ってくるんだよ。たまに拝借してる。後で返してるから問題ナッシング」
「問題だらけだよ!?」
なんつーことしてんだこの娘は!
俺のツッコミをガン無視し、スマホに保存しているエロ画像を見てえへえへしている峰さん。画像に夢中になって、脚をじたばたさせ、ただでさえ短いスカートが徐々にずり上がっている。
気付け、気付け峰さん……! あ、やっぱもう少し気付かないで……!
てか、この子本当に俺と同い年ですよね? オタ趣味に理解があって優しくてスカート短くて太ももムチムチな金髪ギャルとか、こいつこそエロゲの住人じゃん……。
咲良や羽瀬さんほどのおっぱいもないが、何故かめちゃめちゃ胸元を開けているため綺麗な谷間がチラチラと……って、落ち着け俺っ。視線を逸らすんだ!
「因みにこの子はめっちゃ咲良っちにそっくりでめっちゃエロい!」
「む、どれどれ?」
ほほう、これは中々……。
「へぇ、確かに似てる気もする……」
「でしょ!? この子を落とすにはサプライズイベントが必須中の必須! でもサプライズイベントを解放するまでにすれ違いや勘違いがあって、ハラハラドキドキが止まらないの! そして全てが終わってからのサービスシーン! 健気で大和撫子なこの子が一転して主人公に尽くす! 尽くす! 尽くしまくる! うへっ、うへへへへ。だしゅきだよぉ沙苗きゅんっ」
「うわ……」
「うわって言うなし! ドン引くなしー!」
だって……ねぇ……?
……ん? ……サプライズイベント……?
何だ……何かが引っかかる。サプライズ……サプライズ……あっ!
「峰さん!」
「キャッ! きゅ、急に立ち上がるなし……! びっくりしちゃうでしょ……!」
「あ、ごめん。じゃなくて……ありがとう、参考になった」
「んえ? 何のこと?」
「咲良への告白方法、思い付いた!」
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