第13話 ピクニック

 プチハプニングが起きながらも無事に準備の終えた俺達は、玄関で靴を履き替えていた。


「さ、咲良、忘れ物はないか?」

「う、うん、大丈夫……!」


 ……さっきの今で、顔を合わせづらい……。

 そんな俺達を見ていた春香さんが、不思議そうに首を傾げた。


「? どうしたのよ、二人共?」

「ふぇ!? な、何でもないよっ」

「そ、そうそう。何でもない、何でもない」


 っぶねぇ。あんなこと春香さんにバレたら、間違いなくゴミを見るような目で見られちまう……!


「じゃじゃあお母さん、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。雪くんも気をつけてね」

「はい、行ってきます」


 玄関で春香さんの見送りを受け、俺と咲良は並んで家を出た。


「じゃ、じゃあ行くか」

「う、うんっ……」


 ……さっきのことがあって、咲良の方をまともに見れない……。顔あっついわ……。

 でも……あんなこと蒸し返されたくないよな、咲良も……。

 チラッと咲良を見ると、咲良も俺の方を見てたのか慌てて目を逸らされた。それはそれで悲しいが……い、今は話題を変えなければっ。


「えーっと……さ、咲良っ」

「は、はひっ……!」

「その服、似合ってるな。可愛いよ」

「ぁ……ふふ、ありがとう」


 淡い水色のロングスカートに、上は紺のティーシャツ。背中には、咲良には珍しく両肩のカバンを背負い、つばの広い帽子を被っている。

 いかにもザ・ピクニックって感じの服装だ。

 そんな咲良と並んで歩いていると、咲良はにこやかな笑顔で空を見上げた。


「んーっ、春だねぇ。天気もよくてポカポカだよ」

「だなぁ。日向ぼっこで昼寝でもしたら最高そうだ」

「あ、いいねぇ」


 話を聞く限り、咲良も散歩や日向ぼっこなどののんびりとした時間が好きみたいだ。うんうん、いいよな、のんびりとした時間。

 ……このことを同学年の友達に言うと、ジジくさいやら枯れてるやら言われるけど……。


 俺達が向かう場所は、バスで30分ほど揺られた場所にある森林公園と呼ばれる所だ。散策コース、ピクニック広場、遊具広場と、大人から子供まで楽しめる公園として有名な場所である。

 特に今は桜が満開で、昨日SNSで確認した限りかなりの賑わいになっているみたいだ。


 バスに揺られること30分。俺達は何事もなく森林公園に辿り着いた。


「「おぉ〜……!」」


 すげぇ桜……! 流石、桜山と呼ばれるだけあるな! 見渡す限り満開の桜だ!

 下を見ると、桜山の前のピクニック広場には既に沢山の人がいる。やっぱり休日なだけあり、子供連れが沢山いるな。


「雪和くん、先にご飯にする?」

「ああ。今日のために朝メシ抜いたからな。腹ペコだ」

「ふふ。じゃあ行こっか」


 ピクニック広場に降りて適当な場所にレジャーシートを敷くと、靴を脱いで桜山の方を見上げた。


「ほぉ……絶景だな……」

「でしょ? ここ、私の一番のお気に入りなんだぁ」

「ああ、その気持ちすげー分かる……」


 春にしか見れない光景。こりゃいいな……。


 ぐうぅ〜……。あ。


「……あははっ。雪和くんのお腹は花より団子みたいだね。早速ご飯にしようか」

「飯っ」


 咲良の手作り弁当……!

 咲良は鞄から大きめの三段弁当を取り出すと、それをレジャーシートの上に広げた。


「おっ、おお! すげぇ!」


 1番上にはゆで卵とツナのサラダ。ミニトマトも乗っていて彩り豊かなサラダだ。

 2段目には唐揚げ、ミニハンバーグ、アスパラの豚バラ巻き、卵焼きと、俺の好きなものが敷き詰められている。

 そして3段目。待ってましたお稲荷さん!


 お稲荷さんは俺の大好物の1つだ。これだけで三日三晩ずっと食べていられる。これを作った人にはノーベル料理賞をあげたいレベル。そんな賞ないけど。


「いっただっきまーす」

「はい、召し上がれ」


 まずは唐揚げっ。ぱくっ。


「んーーーーっ! うっまぁ……!」


 冷めてるのに外はサクサク、中はジューシー! 程よく肉に味もついてるし、まさに理想の唐揚げ!

 次にお稲荷さんっ。


「はむ。……ほわぁ……うまぁ……♪」


 甘酸っぱいちらし寿司を詰めたお稲荷さん……最高……。


「ほっ……よかったぁ。沢山食べてね」

「ああ、勿論!」


 こんなの残すなんて勿体ないことはしない。全部食べきってやる。




「ぶはぁ……食い切ったぁ……」

「おぉ……キレイさっぱり食べたね」


 米粒の一つ、肉の一欠片も残っていない。まさに完食。ご馳走様でした、げぷっ。

 足を伸ばして体で風を感じる。心地いい風邪が肌を名で、それが眠気を誘った。


「あれ、雪和くん? 眠い?」

「ん、んん……ちょっと……」

「寝ててもいいよ。まだ全然時間もあるし、ゆっくりしようね」

「……ごめん、ありが、と……」


 ──おやすみ、雪和くん──


 そんな咲良の声を遠くに聞き、俺の意識は落ちていった。


   ◆◆◆


 ……寝ちゃった、かな? ふふ、可愛い寝顔。

 無防備で寝ちゃって……もし私と雪和くんの性別が逆だったら、こんな可愛い寝顔を見せられたら襲っちゃうよ?

 長い前髪を整えてあげると、擽ったそうに顔口をもにょっとさせる雪和くん。何だこの可愛い男の子。


 緩めのティーシャツから見える鎖骨。細いけど逞しい前腕。そして喉仏。こう見ると、やっぱり男の子なんだよね。

 ……あ、朝は大胆過ぎたけどっ。こうでもしないと雪和くん、私に手を出してくれなそうだし……!


「ん……んんむ……」


 ぁ、首痛そう……ど、どうしようこれ。どうしたら……。

 周囲をキョロキョロと見渡す。と……あ、あれは……!?

 少し離れた位置にいるカップル。男の人が女の人の膝で寝ている伝説のプレイ……!


 HI☆ZA☆MA☆KU☆RA!!


 そ、そそそそれはどうなんでしょう! 膝を枕に、て……そんなのどうなんでしょう!?

 い、いや、でも……これも雪和くんのため……!


「……し、失礼しま〜す……」


 起こさないようにそーっと、そーっと……。

 太ももに乗っかる雪和くんの頭……ぁ……髪の毛ふわふわ。ワンコみたい……もふもふ、もふもふ。


 ……うわぁ……うわぁ〜っ……! やってます私っ、膝枕しちゃってますっ……! しかも合法的に頭をもふもふしちゃってます! これはアガる! キてる! 脳汁でりゅ!


 えへ、えへへぇ〜。




「あれ? サクラさん?」




「はぇ?」


 ……………………数寄屋くん? あれ、何でここに?


「あ! どーなつおねーちゃん!」

「ぁ……えっと、レイカちゃん? 二人共どうしたの?」

「僕らは散歩に来てるんだ。……それにしても……やっぱり君達、ブラコン&シスコンなの?」


 へ? ……あ。


「こ、こ、これはそのっ、あの……!」

「あっ、気にしないで。僕そう言うのに寛容なんだ。でも、出来れば式には呼んでほしいかな」


 なんのこと!? 式!? それはまだ私達には早いというか……って、いきなり突拍子過ぎるよ!


「……ユキカズは寝てるんだね。いい寝顔だ」

「どーなつにーちゃん、ねてる?」

「うん。だから起こさないでおこうね、レイカ。じゃあサクラさん、また学校──」

「とうっ!」


 ……へ? とう?

 レイカちゃんの動きがスローモーションに見える。

 明らかにダイブする体勢。

 そしてそのまま勢いよく──雪和くんのお腹の上に乗っかった。


「ほげぇっ!?」

「ゆ、雪和くん!?」

「ユキカズ!」

「あははははー! どーなつにーちゃん、おねぼーさんだ!」


 な、なんて羨ましいことを……! 私もまだ雪和くんにダイブなんてしたことないのに! レイカちゃん、恐ろしい子……!

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