第22話 あと二人のレベル5

「うわあ、なんなのこれ? これが私たちの世界の正体!?」


 ジョーとともに別次元にきたリンダもまた、ジョーが始めて来た時にそうであったように、その様子に圧倒されていた。


「リンダさん、大丈夫ですか?」


「ええ、もちろんよ、別に何ともないわ」


 リンダの言う通り、その存在に何か特別な変化が発生している様子はなかった。とりあえずリンダの無事を確認したジョーは、次の行動に移った。


「分身を一旦解いて現在の状況を把握しよう」


 ジョーは、このTWに散らばっている自分の分身たちを呼び集めることにした。


(さあ、戻れ、皆、戻って来い!)


 ジョーが強く念じると、次々とジョーの分身が現れた。


「え? え? え? なによ急に、この人達何者なの? あら、全員あんたにそっくり」


「彼らはみんな俺の分身です」


「分身!? へえーあなた、ずいぶん変なことができるのねえ」


「……」


 数千人にも及ぶジョーの分身たちは、オリジナルのジョーに対して、ものすごいスピードで次々とその体を融合させていった。


 体の融合と同時に、各々が体験してきた記憶までもが、オリジナルのジョーの頭の中に一気に流れ込んできた。


「うわっ、こりゃしんどいな……ん? えっ? おお!」


 ジョーは思わす驚きの声を上げた。


「なに? どうしたの? 何かあったの?」

 リンダがびっくりして聞くと、


「リンダさん、喜んで下さい! 他のメンバーが、六人のレベル5がすでに見つかっています。しかもそのうちの四人には、私たちに協力してくれる意思があるようです!」


「そう、よかったわね。私は別に嬉しくはないけど」


「……」


 分身たちの記憶を探ると、了承を得ている四人のALたちはいずれも二十代から三十代の、ジョーの年齢に近いALだった。


「ええっと、まず一人は銀行家で、それと医師、塾経営者もいる。あと一人は……えっ知事!? なにこのメンツ、すごいな。しかもこのALたち全員すんなりと協力を承諾したみたいだ」


 ジョーは分身たちの記憶をさらに探った。


「残り二人は現在交渉中か。うーん、何々、一人は中学生で、もう一人はホームレス!?」


 思春期の多感で反抗的な少年と、人生に失敗して偏屈化した老人、そういう面倒なイメージがジョーの頭に惹起された。


(うーん、どっちも大変そうだけど……よし、まずはホームレスの方に行ってみるか)


 分身の記憶によると、そのホームレスの名前はマッキンリーといって、まったくとりつくしまがないというか、話をぜんぜん聞いてくれないということであった。中学生の方には引き続き自分の分身を当てることにした。


「リンダさん、ホームレスの俺に会いに行きましょう!」


「あんた、なんだか楽しそうね。どうしたの?」


「え? いや、そんなことないですよ」


 おそらくリンダのとき以上に苦労するだろうことは容易に予想できたが、ジョーはなぜかそのALに奇妙な親近感を覚えていた。


「落ちぶれた自分の姿を見に行くなんて、私はまっぴらだけどね」


「この世界ではいろいろあるんですよきっと、さあ行きますよ」


 ジョーがリンダの手を握り、そのALのいるTWに飛ぼうとした瞬間、背中に強烈な悪寒が走った。


 ビクッ!!

 ジョーがリンダの方に振り返った。


「ん、何よ?」


 リンダがきょとんとしてこたえた。


「(リンダさんじゃない)・・いや、何でもありません」


 ジョーはあたりを見回した。


(おかしいな、今、ものすごい殺気みたいなものを感じたんだけど)


「どうしたの? 行かないの?」


 リンダがじれったくしていると、ジョーはリンダにちょっと待つように言って目を閉じた。そして、その感覚をこれまで以上に研ぎ澄ました。


(やっぱり感じる。なんだこれ? さっきまでは何も感じなかったのに)


 一旦気が付くとそれは、ジョーを正確に貫く敏速の矢のように、もはや注意していなければ危険と思えるほどの鋭さをもっていた。


(この感じ……もしALから発せられているものだとしたら……レベル5どころじゃないぞ!?)


 そのとき、ジョーのブレスレットの一部が点滅し始めた。


 ジョーはハッとして、すぐさまスイッチを入れた。


「スエズリーか?」


「ジョーさんですか? やっとつながった。無事ですか?」


「ああ、今のところは。それよりスエズリー、七人のレベル5が見つかった。そのうち五人は承諾も得ている」


「えっ? 本当ですか!? すごい、やりましたね! ですがジョーさん、もう時間がありません。ジョーさんの本体がそろそろ限界にきています。すでに脈拍が不安定になっていて、とにかく一度戻って来て下さい!」


「だめだ、それはできない」


「ジョーさん!」


「確かに俺の体は相当なダメージを受けているようだな。ここに居てもなんとなく分かるよ。でも、ここで戻ってしまったら、多分すぐにはTWに来られなくなる。モタモタしていたら政府やDDUの奴らに見つかって、アバタープログラムの正体とTWのこともすべて明るみに出てしまう」


「それはそうですが、見た目もけっこうすごいことになっていて……」


「は?」


「あ、いや、何でもないです」


「とにかく今、決着をつける。なんでもいいから時間を稼いでくれ、頼む!」


「そうですか、分かりました。すでにカナさんとミカさんが医療スタッフを引き入れていろいろと処置をしてくれています。おそらくもう少しは持つでしょうが、命の保証はありませんよ」


「ああ、それでいい、時間が惜しいからもう切るぞ」


「ええ、幸運を!」


(急がないと……)


 スエズリーの話を聞いたジョーは、運命が自分を見放す可能性もあることを今更ながら認識した。さきほど感じた強い気配は、ジョーの頭に片隅に追いやられた。


「リンダさん、お願いがあります。リンダさんも分身して下さい。中学生とホームレス、それぞれに二人づつで行きましょう」


「ちょっと、いきなり何を言い出すのよ? そんなこと私にできるわけないでしょ?」


「いいえ、この俺にできるってことはリンダさんにもできるかもしれません。いや、絶対できますよ! リンダさんなら」


「ええ? 無茶よ、そんなの」


 ジョーはリンダの両手を強く握ると、何かを念じるように気合いを込めて分身した。


「あら? あららら? うそお!?」


 ジョーの分身に引っ張られながら、リンダの分身が飛び出した。


「何これ? そこにいるのは私? どうなっているの?」


「そんなこと僕には分かりませんよ。でもこの通り、ちゃんとできたわけだし、いいじゃないですか。さあ、早く行きましょう」


 分身したジョーとリンダは、中学生のジョーのもとに急いだ。


「俺たちも行きましょう!」


「まったく、あんたといるといろんなことが起きるわね。まあいいわ、行きましょう」


 リンダがジョーに自分の右手首を差しだすと、ジョーは、リンダのその手首をそっと掴み、ホームレスのジョーのいるTWに移動した。

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